第10話 諸君、頑張ってくれたまえ
「次にその7人を決める方法だが、これは簡単だ。どの店舗にもあるレジのバーコードリーダーで、店員の名札についているバーコードを読み取らせればいい。商品を購入する時に、店員が自分の名札をピッとやるだろう。あれだ。しかし、誰でもいいってわけじゃないぞ。『ヒウラタクロウ』という男の名札でなけばいけない。要は、『ヒウラタクロウ』の名札を手に入れればこの世界から出られるということだ」
ヒウラタクロウ。ドコノダレダロウ。
先ほどの話から考えると、ヒウラタクロウは高校生であり、こっちの10000人の中に含まれているのかもしれない。あるいは、高校生ではなく、こっちの世界には存在しないという可能性もある。一瞬で様々な考えが浮かび消える。
チキングは偉そうに話を続ける。
「ヒウラタクロウは51歳だ。この世界は、ヒウラタクロウの強い意思によって作られている。そして、彼は、高校生に対して、非常に強い敵意を持っている。だから、諸君らは気をつけたほうがいい」
ヒウラタクロウが51歳であれば、こっちの世界にはいないはずだが、何をどう気をつければいいのか。そのへんのことには触れずに、ニワトリは話を先に進めた。
画面に、男性の写真が表示される。目が小さく、表情は暗い。毛髪が薄いことが、画質の荒い写真でも見て取れた。
「これがヒウラタクロウの写真だ。名札にも使われている写真なので、覚えておくように」
日野さんはスマホを取り出し、カメラを起動させようとしたが、次の瞬間には画面が切り替わり、元のチキングの偉そうなアニメに戻った。
「スマイルバードのレジのバーコードリーダーは、コードレスになっている。充電器はレジの横だ。どの店舗でも充電はできるようになっている。常に携帯しておくといい。他の大事な使いみちもあるからな」
チキングは歩き出し、それに合わせてカメラも移動する。彼の歩いて行った先にはホワイトボードがあった。
「さて、次にこっちの世界の移動方法を伝えておこう。おそらく諸君らは、店内に完全に閉じ込められ移動は不可能だと思っているかもしれないが、それは違う。実は、店舗と店舗の間であれば移動することが可能なのだ。従って、他の高校生と接触することもできる」
これに関しては、知っている。
「移動には店内のコピー機を使用する。使用方法は、まあいじってもらえばバカでもわかるはずだから各自使用したまえ。ここで説明するのは、コンビニ店舗同士のつながりについてだ」
バカでもわかる、と言われると、操作した僕の立場からすると若干腹が立つ。
チキングは羽の先でマーカーをつかみ、ホワイトボードに大きな四角を描いた。
「店舗の外の世界については、この説明の最中、一切無視をしてもらいたい。ここではスマイルバードという我がコンビニチェーンの店舗の中だけが世界のすべてである」
そう言いながら、四角の中に縦に9本、横に9本の線を引いた。将棋盤のようなマス目が出来上がった。
「このマス目ひとつひとつが店舗である。そして、ひとつの店舗に1名ずつの高校生が存在する。10000人の高校生が、10000の店舗ににひとりずつ閉じ込められているということだ。……スマイルバードもここまでチェーン展開するのに本当に苦労したものだよ。さて、本来は縦100マス、横100マスの計10000マスなのだが、この説明では、簡易的にこの100マスで説明する」
100マスの中の中心に近いマスに、黒い点が打たれた。
「諸君らの誰かがこの店舗にいたとしよう。その場合、コピー機によって移動ができるのは上、下、左、右の、この4マスである」
黒い点から4方向に矢印が引かれた。
「ただし注意が必要だ。一度移動をしてしまうと、元の店舗は使用不可能になる。焦って移動すると、もう戻ることはできない。後悔することになるかもしれん。慎重にな」
ニワトリの無限増殖による使用不可能を言いたいのだろう。何も知らずに移動してしまったが、果たして僕はこれで良かったのだろうか。若干の不安がよぎる。「慎重にな」という言葉が、どうも引っかかった。
「また、これらのコンビニのマスの配置は実際の位置関係とは全く関係のないランダムなものになっている。福岡の店舗から左に移動すると宮城の店舗かもしれんし、宮城の店舗から下に移動すると北海道かもしれん。こればっかりは、移動してみないとわからんというわけだ」
確かに、東京の右が広島だった。
チキングは、若干の背伸びをして一番右上の角のマスに黒い点を打った。
「じゃあ一番右のマスがさらに右に移動するとどうなるのかという話だが、この場合はこっちに移動となる」
左上の角のマスに点が打たれる。
「そして、ここから上に移動するとどうなるのかというと、こっちに来る」
左下の角のマスに点が打たれる。
「縦100マス、横100マスの、四角い店舗配置図が、無限につながっていると考えてくれればいい」
携帯の着信音が鳴った。まさか、さっきかけた中の誰かが折り返してきたのか?
と、期待したが、音の出どころはアニメの中の世界だった。
ニワトリが羽毛の隙間からスマホを取り出す。
「これで私の説明は終了とする。諸君、頑張ってくれたまえ!……はい、スマイルバードでございます。もしもし?」
そう言いながら電話を取って奴は画面から消えていった。ふざけたシナリオのアニメだ。
画面が暗転し、その中に「http://」から始まる白い文字でアルファベットが表示された。これは、何かのアドレスのようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます