生き延びてやる!~召喚学園と勇者のコナンドラム~

あいあい あい

第1話

 俺には前世の記憶がある。

 

 俺の名は立月龍一、「たちづきりゅういち」と読む。聞いたことがある名のはずだ。

 

 運ばれてきた馬車から降りて、学園の門を目にした瞬間、記憶がよみがえってきたのだ。

 「ん?これって、この門って、どこかでみたような?」

 突然の異世界召喚という非日常に、舞い上がっていたところへ、頭から冷水を浴びせられたような感じだった。

 「あ、『王立アリュシア学園勇者候補生』の始まりのシーンと同じ門じゃん!」

 思い出したのだ。


 「王立アリュシア学園勇者候補生」とは、そう、あの、国民コミックと言われるほどの人気を誇るマンガだ。アニメ化もゲーム化も何度かされ、「王学」とかの略称で呼ばれている、あの学園モノの勇者マンガだ。

 異世界に召喚された主人公が、修行の末、魔王討伐の旅に出る、という陳腐だけど王道のストーリー。

 その、召喚された主人公が異世界について学び、剣と魔法の基本を身に付けるため、通うのが、王立の、軍の士官学校だ。

 マンガの第一部では、その士官学校における、主人公の3年間の学園生活が主体として描かれる。

 

 異世界に召喚された勇者が仲間たちとすごす、学園での冒険と日常生活という、王道だけど少しひねった、非現実と日常がない交ざった物語。それがオーガクの第一部だ。

 

 第二部では主人公たちが学園を卒業して修行の旅にでる。

 でるのだが、コミックはそのあたりから「作者都合」による休載と中断が多くなって、話はほとんど進まなくなった。

 今は、魔大陸に渡ろうと船出して、海賊と会戦中に魔の海域に突入したあたり。

 魔王討伐はまだまだ遙か先だ。


 とはいえ、学園生活が主体の第一部の人気は高く、アニメ化やゲーム化もされた。

 主題歌の中の一シーンの再現がネットで世界的に流行したこともある。

 

 もちろん、俺も愛読していた。

 毎週、掲載誌の発売日の朝にコンビニで購入し、しかし読まずに耐えて、学校を終え帰宅してから読む。

 その週刊誌には他にもいくつか人気の高いマンガが掲載されていて、それには通学中に目を通していたけど。

 友人からの情報も遮断して、これだけは自宅でじっくりと読む。

 そんな生活を続けていた。


 いや、続けていたはず、と思う。

 だけどなぜか、記憶が曖昧だ。

 しばらく、コミックの存在さえ忘れていた。

 異世界召喚と聞けば、少なくとも俺なら、即座に思い浮かべる話のはず。


 コミックの第一話と、アニメ化された際のオープニング・シーンにでてきたのが、今、目の前にそびえ立っている門だ。

 脇にある門柱には、奇妙な飾りが、縦に刻み込まれている。

 このぐねぐねとした形はマンガとアニメで何度も見たと同じものだ。

 普通の日本人には読めないが、今なら、「王立アリュシア学園」と書いてあることがわかる。

 召喚時に身に付いた翻訳魔法のおかげだ。

 コミックを思いだした瞬間、脳裏に稲妻が走った。


 召喚?

 そう。

 俺たち、48人は、異世界から召喚されたのだ。

 全員が日本人で、年齢もほぼ同じだった。

 だが、俺のいた日本とは異なる、様々な時代や世界の日本からも、召喚されてきているようだった。

 俺のいたのは「平成28年」の、「東京オリンピックを間近に控えた」日本。半数くらいが同じ世界からのようだ。

 まあ、簡単に区別できないだけで、実際には違う世界なのかもしれないけど。


 俺が召喚されたのは、家に帰る途中で、駅の改札から出たところだった。

 足下にちらちらと緑色の輝きがきらめいた。

 「ん?なんだ、これ」

 びっくりした俺は、とりあえず、その場を離れようとしたんだけど、緑の光は俺の動く先にも付いてきた。

 すぐに、ちらちらしていた光は円形の線画になり。

 線画は模様が読み取れるように強く太くなり。

 光はどんどん強く、目映くなり。

 「なんだこれ。たすけ」

 二回目の叫びは悲鳴になったけど、そのときには、視界の全体が目映い光に包まれていた。

 

 気がついたら、石造りの広間で横になっていて、周りにも大勢の人が倒れていた。

 それを、変わった模様や飾りのついた白っぽい服の人たちが介抱してくれていた。

 医者や看護婦のシンプルさとはまた違う服の、神官や巫女とか神父や修道女とか、宗教的な感じを漂わせた人たちだ。

 ぼうっとした頭で、何かのテロにあったのか?とか思っていたら、そばにあった石造りの大きな広間に連れて行かれた。

 身分の高そうな人が来て、君たちは魔王の脅威に対抗するために選ばれて召喚されたのだ、と説明してくれた。

 

 当然、「送還しろ」と憤激して要求する人が出てきたけど、「召喚は女神の御業。神官たちは『お告げ』を受けて迎える準備をしただけ」で、「召喚には関わっておらず、送還の方法も判らない」「過去の勇者は魔王を倒したあと、この世界から消えた」と告げられて、黙り込んでしまった。

 まあ、うそに決まっている、だましてるんだ、と言いつづける人もいたけど。

 それも、抗議と言うより信じられないだけ、言ってないと収まらないだけって感じだった。

 

 その日は、みんな呆然としたまま、ぐだぐだと愚痴りあって過ごした。

 神官たちに、名前や趣味、得意なことを書き取られて。

 水晶の玉に触って、属性判定とやらをされた。 


 翌日、俺たちのなかでも元気を見せた何人かが「召喚勇者」のお披露目の式典とやらに代表として呼ばれて行って。

 残りの俺たちは、馬車に乗せられて、ひとまず、修行のために士官学校とやらに送られることになった。式典に行った奴らは2日ほど後に合流するらしい。 


 その士官学校は、先々代だかの召喚勇者の時に、修行用として創立されたという、由緒ある?学校で、異世界人にも「そこそこ快適」な生活が出来る魔法設備付きの寮もあり(もちろん男女別だ)、目覚めからお休みまで、一日中、戦闘に役立つ魔法やら技術やらを「ぎっちぎち」に詰め込んでくれるのだという。

 馬車で揺られて運ばれているあいだ、俺の脳裏に「ド○○ナ」の調べが流れていたってことは言うまでもない。


 で。

 学園に到着して馬車を降り、門を見た途端に、記憶がよみがえってきた。


 「『王立学園士官候補生』の門だ!」

 ついで、もう一つのことに気づいた。


 俺の名は立月龍一、「たちづきりゅういち」と読む。


 そして、ちなみに、ところで。


「王立学園士官候補生」の第一部には、魔王の手先として学園生活の裏で暗躍し、最後には連続殺人事件の犯人として指名手配、処刑された生徒がいる。

 

 その悪役キャラは、立月龍一という。

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