第101話 夢と理想と現実と

「わぁスゴいね、あーくん。マンガのヒーローみたい!」

「あったりまえだ! だってオレだぜ? けんシュバーッ!」

「桃太郎の衣装ピッタリじゃない。来てくれるお父さんとお母さんの為に、おゆうぎ会ガンバろうね」

「うん、せんせい」

「じゃあ、桃太郎その2その3その4も集まってぇ!」


 ◇◆◇◆◇


「えーっと……はい、じゃあ。配役はこれで決まりだな。委員長、号令」

「起立、礼」

「……」

「残念だったねあーくん。今年はメインやれなくて……でも、こういうのは順番だからさ。私は沙悟浄好きだよ」

「ずーっとやれてたのに……カッパって」

「でも、台詞は三番目に多いみたいね。頑張ろうよ、衣装は任せてね?」


 ◇◆◇◆◇


「仕方ないよあーくん。問題あって今年から劇じゃなく美術展示なのは。私達のジオラマも一番いい場所に」

「私“達”だって? アイツらサボってたじゃねーか?」

「で、でもほら……賞を貰えたじゃない」

「これ全部作ったの俺だぞ? 名前だけの班長の癖に表彰状を持ってきやがって、手柄独り占めしてんだぞ!?」


 ◇◆◇◆◇




 どうして誰も俺を見ようとしない。

 どうして誰も俺に振り向こうとしない。

 どうして誰も俺がスゴいと認めない。


『そうやって怨み事を言い続けているだけで、お前は満足なのか?』


 そのチャンスを潰したのはお前だ!

 あれは俺の、俺だけのゴーアルターだった。

 折角、頂点に立てるはずだったのに……気持ちにブレーキを掛けて、ウジウジといつまで経っても行動しない。


『現実はアニメみたいに上手くはいかないんだ』


 そんなの気にしてたら失格だろ? 活躍してこそスーパーロボット乗りだ。

 そうさせたのがお前自身なんだよ!?

 願望はあるのに、自分の実力不足を嘆いては心の中で押し止める。

 それが嫌だったんだよ、ずっとな。


『それが、お前が生まれた理由?』


 ゴーアルターだって、それを望んでいたんだ。

 変われない者は操縦士失格さ。

 その名の通り、変わり往く者……ゴーアルターだからさ。

 だから変える必要があった。

 お前だって、あの時に望んだはずだろ。

 でも、お前自身が変わるまで待っている時間は無い。


『人は簡単に変わることなんで出来ない』


 そうさ。

 本当に変わりたいなら強引にでも行動しなきゃ。

 ブルってる弱い心なんて要らない。

 熱いハートだろ、大事なのはさ。


『熱い? お前のは、ただの自分勝手だろ』


 その言葉はブーメランだ。

 たって、俺とお前は一緒だからな。

 わかっているんだよ、そんなよは初めからな。

 けど、お前よりはゴーアルターを上手く扱えるんだ。


『なら、どうしてお前はゴーアルターから下ろされたか教えてやろうか? お前が変わらなかったからだ。ゴーアルターにしがみつき自分では何もしなかったからだろ』


 違う! 俺は変われるはずだったのに、それをお前が否定したんだ!


『それがどうしたんだよ。そもそもお前はイミテイトなんだろ? 地球を侵略しに来た敵だろ』


 …………ッ。


 ──そこについてはボクが話すよ。


『マモルか』


 ──地球にやって来た多くのイミテイト、イミテイターは冥王星に集めた。もう敵意はないのだけど、一部は今も地球で“人間”として生活しているよ。


『そいつらが行動を起こすことは無いのか?』


 ──どうだろうね。少なくともゴーアルターの呼びかけに来なかったって言うことはイミテイトとしての本分を放棄したってことかもね。


『本分?』


 ……言ったろ、神殺しだ。


『言ったか? そんなこと……』


 ──イミテイトがどうして生まれて、何処から来て、何故こんな力を持ってるのか? ヒトに変わってしまってから思い出せなくなった。でも、こんなボクらを生み出した創造主への復讐……それだけは魂の奥底に深く刻まれている。


『マモルも神様を恨んでるのか?』


 ──まさか、ボク自身は寧ろ感謝してるよ。この体に成れて嬉しかった。


『そうか……でも、それはマモルとしてなのか? イミテイトとしてなのか?』


 どっちだっていい。

 どっちでもある。


『それじゃワケわからんだろうに』


 そうなんだから、そうなんだよ。

 お前であって、お前じゃない。

 地球にいる奴等も本人と思って暮らしている。

 だから、無理に問い詰めるんじゃないぞ。

 そっとしておいてやれ。


『お前は、どうするんだよ?』


 ……お前ならどうする?


『質問に質問で返すなっつーの』


 辛いぞ、銀河放流なんて。

 想像できるか? 永遠に宇宙をさ迷うなんてこと。

 俺達は半永久的に生きれる。

 なまじヒトの心を持ってしまったばかりに耐えられる訳がない。


 ──ボクが居るよ!


 あ?


 ──ボクが……アルクと一生、一緒にいる!


 『駄洒落かよ』

 ダジャレかよ。


 ──……ダメかな?


 ……。

 …………。

 ………………構わねぇよ、勝手に居ろよ。


 ──本当!? あぁ、ありがとう……。


『…………』


 で、お前はどうするんだ?


『何がだよ』


 地球に、帰れるといいな。

 そもそもだ、どうやってここまで来たんだよお前。

 礼奈の魂を目印にして来たんだよな?

 振り返ってみろよ、ここから礼奈は見えるか?


『……、…………っ』


 やっぱりな?

 あのGアークとか言うのが何もかも吹き飛ばしたもんな。

 地球が何処かもわからねえよ。


『わ、わかるよ。そんなの、わかるに決まってんだろ』


 一面の光は全て星、星、星、星、星。

 わかりやすくしたからお前は俺を辿ってこれたんだ。

 そもそも土星を越えた辺りから、気を失ってたお前をここに連れてきたのが俺だからな?

 俺は知らねえよ。

 何も手伝わないからな。

 自業自得さ、ざまあみろバーカ!


『バカ……?』


 そうさ、バカだよお前は。

 ただの大バカ野郎さ。

 そのクールぶってる所、ただのコミュ症がカッコつけてるんじゃあねぇぇぇ!


『あ……うぅるっせぇぇえええよ! お前に何がわかるって言うんだよぉぉっ!?』


 わかるだろッ! お前は俺なんだから、そんなことぐらいはッ!?


『俺がお前なんだろっ!? 逆だろうがっ!』


 ──いい加減にしてッ!!


『……』

 ……。


 ──不毛だよ。こんなの、自分同士で言い合ってさ。いつまで経っても終わらないよ。アルク、ボクらは負けたんだ。潔く認めようよ。


 …………俺は……嫌、だ。


 ──ボクだけはアルクが凄いって認めるから。アルクはボクだけのヒーローだよ。それで……いいでしょ?


 ………………。


 ──冥王星に戻ろう。ボクたちの居場所を、また一から作るんだ。今度はもっと未来に生きよう。永遠に続く、ボクたちの物語を……。


『マモルっ!』


 ──じゃあね。今までありがとう、楽しかったよ。他の皆にもよろしく伝えてね。


『待てよ、おいっ!』


 ──最後まで、あの子に勝てなかったのは残念だけど……ボクはこれでいいと思う。


『何言ってんだよ、行くなって! 俺達は』


 ──大好きだよ、歩駆。




 ◇◆◇◆◇



「…………マモルっ!」

 歩駆は夢から目を覚ました。


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