魔王に攫われるはずの王女ですが勇者があらわれません

コトリノことり(旧こやま ことり)

《ワルツ0曲目》

0- お前は誰だ

「お前は誰だ?」


そう問うてきたのは、アシュランの5倍はありそうな大蛇だった。群青色の鱗に、澄んだ川の底のような瞳。


「あのお方の護り手」


山彦のように響く声にアシュランは動じず答える。青々とした姿をしたその大蛇は、ちろりと真っ赤な舌をのぞかせる。


「お前はどこから来た?」


白いドーム型の部屋は大理石でできていて、その石自体が発光しているのか明るい。このままワルツでもはじまりそうな部屋だな、とアシュランは苦笑する。


「あのお方の右手から」


そっとアシュランは腰にかけていた愛刀に手をかける。漆黒の襟詰めの騎士姿に、黒い鞘。黒髪黒目のアシュランのためにあるかのように、刀身まで黒い刀(アッタン)。


「お前はどこへ行く?」


「あのお方の行くところ、すべて」


そしてアシュランは剣を抜き、大蛇へと飛び掛った。

さぁ、ワルツの始まりだ。

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