いろのひと、母
your
Prologue
交錯する2人
川凛 冴香 かわりん さえか 教育実習生 担当科目 数学
大瀧河 秀夜 おおたきがわ しゅうや 在校生 中学2年 3組
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彼はずっと【色褪せた世界】の中で生きていた。
けれど彼は、彼女と出会って
彼の【目に映る世界】は、少しずつ変わり始めた。
彼女はずっと【モノクロのセカイ】で生きている。
そして彼女は、彼と出会うも
彼女の【目指すセカイ】は、少しも変わらなかった。
彼と彼女が出会ったのは、彼女が【中学校の数学教師】となる為
彼が通っていた中学校へ【教育実習生】として訪れた時だった。
彼女の担当する学年の生徒の中に【彼】は居て
彼と彼女は、彼女の教育実習期間である【3週間】だけ同じ学校に居た。
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彼は激昂して、右手の握り拳で、机を思い切り『ドンっ』と叩き
「アンタに俺の何が分かんだよ!なぁ?」と叫び
彼女は
その教室内に響いた大きな音と声に『ビクッ』と反応して、驚いていたら
彼はバッグを持ってから、自分の机を蹴り上げ、周りにあった机や椅子を吹き飛ばして、教室の扉を『バンっ』と勢いよく閉めると、そのまま教室を出ていった。
騒動から一体何事かと駆けつけた先生や生徒は、教室に1人取り残された彼女を見て
「サエちゃん、大丈夫?」
「川凛先生、何かされなかったか?」
「冴香先生、怪我してない?」
「川凛先生、一体何があった?」
「だから注意したでしょう。」
口々に声をかけて心配していたが
彼女は
「大丈夫です。大変お騒がせしてしまい、申し訳ございません。」と謝りながら、深々と頭を下げていた。
その後
駆けつけて下さった先生と生徒に手伝って頂き、倒れた机や椅子を元通りにしたら
彼女は『校長先生』に
「校長室へ来るよう。」言われ、校長室の前で一呼吸し、扉をノックしてから
「川凛冴香です。」と緊張した声で言うと
「はい。どうぞ、お入り下さい。」部屋の中から【校長先生の声】が聴こえてきて
彼女は促されるままに
「はい、失礼します。」と答えてから、扉を開けて静かに入室すると
そこには
『校長先生』と『教頭先生』に、教育実習中の指導を担当して下さる『山田先生』が待っていらして
彼女は更に緊張したが、何とか目の前に居る先生方へ、先程の【騒動の経緯】を一通り全て説明した。
彼女の話を聞き終えてから
まず口を開いたのが、険しい表情をした『教頭先生』だった。
「これだから私は、教育実習生を受け入れるのは反対だったんです!
水元校長や山田先生に、他の先生方が『受け入れましょう。』と仰って
山田先生は、【あの生徒】が居るクラス担任でありながら、実習生を指導すると仰るから。
川凛先生!
分っているとは思いますが、改めてこれだけは、ハッキリと言っておきますから。
貴女は、本来この学校に【関係のない人】なのですから、あまり生徒たちを刺激しないでくれますか?
それに問題を起こして困るのは、貴女の方なんですよ!」
彼女が厳しく叱責を受けていると
『水元校長先生』が、すかさず間に割って入り
「まぁまぁ、教頭先生。少し落ち着いて話しをしましょう。
それとですね。生徒の事を悪くいうのは、教育者として見逃せませんよ。」
険しい表情をして言うと
『教頭先生』は、申し訳なさそうな表情をしながら
「そうですね。申し訳ありませんでした、水元校長。」自らの非を認め
「はい。分かってくださればいいのですよ。」
水元校長先生は、ギクシャクした雰囲気を変えようと、普段の優しくて穏やかな表情に戻り
「川凛先生。
私たちはこれまで共に学校で過ごしてきて、川凛先生の仕事ぶりに、他の先生や生徒との接し方を見てきたからこそ、非常に真面目で礼儀正しく、教員として能力も十分におありのようで、優秀な方だと皆が思っていて、貴女の事を応援しているのですよ。
川凛先生を大いに期待しているからこそ、だからこうして厳しい事も言います。
確かに教頭先生が仰る通り、貴女が今この学校で接しているのは、普段の周りに居るような友人方とは違い、思春期を迎えた多感な年頃の子ども達なのです。
ですからこの事をいつも忘れず、普段から心して十分な配慮を持ちつつ、生徒とは接して下さいますようお願いします。
でなければ、貴女が教職員として教鞭を取る事は、きっと叶わないでしょう。
今後二度とこのような事が起こらないように、以後気を付けて下さい。
もしまたこのような問題が起こりましたら、生徒の為にも学校の為にも、貴女の実習は取り止めさせて頂きますので、くれぐれもこの事を忘れず、残り僅かな実習をこれまで以上に頑張って下さい。」と、厳しくも優しい言葉を掛けてから
「このあとの事は、担当の山田先生にお任せしますから、宜しくお願いします。」
水元校長先生は、その後の対応を『山田先生』に任せると
山田先生は
「はい、水元校長。
わかりました。
冴香先生とは、この後2人で話しますので。」と険しく真剣な表情で話しつつ、彼女の方をチラリと見た。
水元校長先生は、一度頷いてから
「はい、そうですね。お願いします。
ではこの話は、これにてもう終わりとしますが、教頭先生よろしいですか。」
そう言って教頭先生の方を見ると
すると、暫く黙っていた教頭先生が口を開き
「まぁ水元校長と山田先生がそこまで仰るのでしたら、私からもうこれ以上は何もありませんので、川凛先生は下がってください。
ただ山田先生とは、少しお話がありますので。
山田先生、この後少々お時間よろしいでしょうか?」
まだ少し腑に落ちないような表情をしていたけれど、それ以上は何もおっしゃらなかった。
山田先生は
「はい、大丈夫ですよ。分かりました。
それなら冴香先生は先に職員室へ戻って、残っている作業の続きをして待ってて下さい。」
今度は少しだけ、いつもように優しく彼女へ微笑みかけた。
「誠に申し訳ありませんでした。それでは、失礼致します。」
深々と一度頭を下げてから、彼女は1人で校長室を出て、その場をあとにする。
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