第1章 俺のターン! 俺は異世界に召喚されるようだぜ!

第1話 俺のターン 俺と【コントラスター メアリー王女】

「召喚に答えてくださいまして、誠にありがとうございます。さっそく契約いたしましょう」


目の前にいる見覚えのある女性はこの状況がさも当たり前のように話しかけてくる。


「なにこれ?コスプレ?」


ふっと疑問に思ったことが口に出てしまった。


「こすぷれとは何でしょう?あなた様のお名前ですか?」


おぉう、さらっと白を切られた。なにこれドッキリ?サプライズ?アメイジング・フォレスト社のサプライズであのカードに何か仕込まれていて、眠らされた後、どっかに運ばれてこの状況を撮影!とかしてたらいやだな、その場合俺の名前はコスプレになるのか?それだけは断固阻止せねば!


「いや、俺の名前は京極集。京極が苗字で、集が名前だ」


見た目ファンタジーなメアリー姫だが日本語をしゃべってるから、苗字で通じるだろう。いや、そもそもメアリー姫の姿で日本語をしゃべっているのが違和感バリバリだな。


「おや、召喚者であるあなたがそのように簡単に名前を名乗ってよろしいので?」


何を言っているのかわからんが初対面の相手には自己紹介は必要だろう。しかし、念の入った演技だな。会話でなんとか主導権を握ろうとする姿が堂に入っている。ここまでくると感心するな。


「そうはいってもお互い名前を知らないと話にならないのではないですか?メアリー姫」


くわ!っとメアリー姫の目が見開く。かなり驚いているみたいだ。なぜだろう?


「なぜ、あなたはわたくしの名前を知っているのですか!」


なぜと言われてもカオス・アメイジングの人気キャラである彼女の名前を俺が知らないわけがない。逆に聞きたい、なぜ俺が知らないと思っているのか。ってそうか聞けばいいのか。


「それこそなぜ俺が知らないと思っているのですか?あれほど有名なあなたの名前を」


カオス・アメイジングにおいて彼女は創世記と呼べる時代から存在し、いまだに根強い人気を誇るキャラクターなのだ。かくいう俺も女性キャラでは1、2を争うほど好きなキャラクターである。そういう意味ではアメイジング・フォレスト社に感謝だな。ここまでそっくりなメアリー姫と話すことができるなんて。


「わ、わたくしが有名?あ、ありえませんわ。わたくしの事はかなり厳重な機密のはず……」


1人狼狽しているメアリー姫をみて思わずほほえましくなる。しかし、演技も様になっているし衣装の着こなしも見事だ。まるで本当のメアリー姫みたいだ。


「さて、メアリー姫。うろたえているお姿は大変可愛いので眼福ですが、俺にもこの状況を教えていただけませんか?」


軽いジャブを放ちながら現状確認のために説明を求める。何もわからないまま拉致られたままでは俺も困るのだ。


「か、かうぁいいなど、どと」


あっ、ジャブがききすぎた。メインのほうが届いてない。


「まぁ、そこはどうでもいいです。現状の説明をお願いします」

「ど、どうでもいい……」

「えぇ、現状の説明のほうが俺には大事ですね」


この状況では何をしてもいいのかすらわからない。ちらりと周りを見ると状況確認が少しだけできた。


まず、セットなのかわからないが俺が立っているのは石作りの祭壇のような場所。

足元には見たことがあるような魔法陣がかかれているな。なんかうっすらと光ってんぞコレ。まぁ、意味はないんだろうけど。

それから先ほど避けたはずの段ボール入りのコレクションと先ほど光を放った新カード作成セットが足元に置いてある。ってちょっと待て、俺に断りもなくコレクションに触れったっていうのか?これはちょっと許せねぇ。

まだ、おろおろしながら「あぅ」とか「うぅ」とか言ってるメアリー姫に問いただす。


「メアリー姫?これはどういうことですか?」


怒気をはらんだ声で段ボールを指さし確認する。


「ひぅ!そ、それは……」


ものすごくおびえているな、だがそんなの関係ねぇ。人のコレクションを勝手に触れるなんざコレクターからしたら万死に値する行為だからな。


「それは?」

「わ、わかりません。あなたの持ち物ではないのですか?」


ほほぅ?こやついいよるわ。これはもちろん俺の物だろう。しかし俺が聞きたいのはそういうことじゃねぇ。


「そういうのを聞いてるんじゃないんですよ。なんでこれがここにあるんですかねぇ?」


キレ気味に問いただす。相手の言い分によってはいくらメアリー姫のコスプレ娘といえど許せない。


「しょ、召喚者を呼び出した時にはその方のシンボルが同時に召喚されることもあります。その、それはそのせいかと……」


ほーん、あくまで「わたくしわるくありませんわ!」を貫くわけね。しかしカオスアメイジングの世界観をよく勉強してるコスプレ姫だ。言い訳も世界観にマッチしている。


「これは俺にとって命と同じくらい大切なものだ。それを勝手に動かされて、しかも何の説明もない。あなたは俺に喧嘩を売るためにこのようなことをしたのですか?」


まだだ、まだ本気でブチギレてはいけない。冷静に考えれば、おそらくやったのはスタッフだろう。ここにいるコスプレ姫はあくまで俺と演技をしているだけなのだ。そう思えば、少しだけ怒気がおさまった。しかしいまだ何の説明もされないのは納得できないな。


「そ、そのようなことは決して」

「であるならば責任者を呼んでいただきたい。」


流石にスタッフに文句を言うくらいはいいだろう。どうせこんな喧嘩腰のところをカメラで撮っていたとしてもカットされるか取り直しだろう。だいたいこういうことはやる前に最低限お互いの同意が必要だろうが!まったく。


「責任者ですか?」

「あぁ、スタッフとか、監督とかいないの?」


メアリー姫のコスプレ娘は見た目十代後半だからな、三十代のおっさんが責めるのもなんだかちょっと心苦しい。大体少しお門違いだしな。


「すたっふやかんとくというのはわかりませんが、あなたを召喚したのは間違いなく私です」


おー、設定にこだわるねぇ。しかしこれでは文句も言えないな、しかたない。


「じゃあ、メアリー姫はなんで俺を召喚したわけ?」

「それはもちろんあなたと契約していただくためです!」


握り拳を胸元にぎゅっとにぎり、フンスという荒い息が聞こえてきそうなほど堂々と言われた。なんだろう、ようやく台本の道筋にでも戻ったのだろうか?


「あー、で?なんで俺なわけ?」

「それは、優秀な異世界のコントラスターを呼び出すことを条件として召喚をしたのがあなただったのです」

「んー?」


コントラスターってのはカオス・アメイジングの世界で召喚する者の事だ。ちなみにプレーヤーはコントラスターとなり契約した召喚される者たちの力を借りて相手を倒す。メアリー姫はカオス・アメイジングの世界【クインティプル】のキャラクターであり召喚者という設定だった。

だからこそ解らない。優秀なコントラスターっていうのなら世界大会優勝者を連れてくるべきではないのだろうか?言っちゃ悪いが俺はプレイングでは世界大会はおろか地方大会の優勝も怪しいレベルである。もちろん戦術や流行っているカードをネットで調べたりするくらいのことは行っているが。


「悪いが俺は優秀なコントラスターには程遠いぞ?【クインティプル】の歴史なら詳しいがな」

「え!?」


またもやコスプレ姫は停止する。なんだこの娘、予定外の言葉にはめっぽう弱いのか?


「それに俺なんかと契約したってたぶん役に立たないぞ?大体どうやって契約するんだよ」


カオス・アメイジングの公式では呼び出した召喚者にコントラスターが契約を行う。というのが書かれていたがその方法は様々だった。

コントラスターと深くかかわる召喚者たちの物語には契約の内容が書かれていたがそれこそ千差万別だった。

召喚の度に魂を求める者。

召喚の度に血を求めるモノ。

出会い頭に頭に齧りつこうとするもの。

膨大な知識の代わりに寿命を半分要求する者。


あれ?物語だから当たり前のように読んでたけど現実になるとものすごく血なまぐさいね。なにこれ怖い。


「け、契約はコントラスターと召喚者の利害が一致すればおのずと出来るはずですわ」


んー、つまりWin-Winの関係になる様に契約を交わせばいいのか。つってもなぁ、俺に対するメリットが思い浮かばん。


「利害ねぇ、メアリー姫は俺にどんな条件が出せるの?」

「じょうけん……ですか?」

「そっ、条件」


こっちから提示できるものがない以上相手から聞くしかない。コスプレ姫が何をさせたいのかわかればこの状況もなんとなくわかるだろう。

どうせ撮影が終わるまでの間だけだろうし、世界観にマッチした条件なら受けてやるか。どうせ俺に不利になるような条件なんてそうそう出てこないだろう。


「わ、わたくしはあなたに共に戦ってほしいですわ!」


おぉう、まぁコントラスターなんだから当たり前か。呼んだんだからそれに答えて戦ってほしい。


「それで、メアリー姫は何を出してくれるの?」


希望があれば、要求もする。じゃなきゃあ不公平だからな。


「わたくしを」

「はぁ?」

「わたくしを差し上げますわ」


一瞬、何を言っているのかわからなかった。メアリー姫がもらえる代わりに一緒に戦ってほしい。

ふむ、それなんて言う勇者?

姫をもらう代わりにクインティプルで戦えと。そういう台本なんだろうなぁ。

可愛い姫さんが俺の嫁になる。俺はその代わりに召喚者として夫として戦う。ほー、悪くない条件だな。物語としてはありふれているが当事者になるとこうも魅力的にうつるもんか。しかしなぁ……


「こんな三十代のおっさんでいいの?」


いくら台本の通りのセリフとはいえコスプレ姫の見た目は十代後半。三十半ばの俺と並び立つと若干の犯罪集がするな。いや、逆に親子っぽくなるか?あー、見た目やたたずまいからしてないな。よくてぱっと見、平民上がりの護衛がいいところだ。


「さ、三十代なのですか?見た感じわたくしと同じくらいだと思っていましたわ」

「んな馬鹿な」


最近気になるメタボ気味の腹をなでながら自嘲気味に答え……。

あれ?腹が出てない?それどころかこの感触は……。


「腹が割れている……だと?」


体重計に乗るのも怖くなってきて見た目にもどんどん増えていく腹の肉が気になっていたはずの俺の腹筋は6つに割れていた。それはもう見事なシックスパックだった。


「え?なにこれ?俺の体なんで急に引きしまっちゃったの?特殊メイク?」

「召喚者は全盛期の姿で現れることも珍しくありませんからその影響ではないでしょうか」


全盛期の姿って、俺の腹筋側がわれていたのはたしか18の時だ。その頃までは体力と時間の割のいいガテン系のバイトを選んでいたからだ。大学に入ってからは身体を使わずとも塾の講師でそれ以上稼げるようになったからな。あの頃が俺の肉体年齢的には全盛期だろう。

だけど、そんな昔の情報どうやって知ったんだ?当時の塾はもうないはずだし、我ながら情けない事だけど当時の俺の姿だって知っている人間はそんなに多くない。

いくらアメイジングフォレスト社でも俺ごときにここまでするか?何が目的だ?んー、わからん。


「あ、あの」

「うん?」

「お考え中のところ悪いのですが、それで、その、契約はしていただけるのでしょうか?」


あー、うん。そういう話だったね。

どうしよっか。このまま考えても、らちが明かない事だけは確かだな。情報が少なすぎて問題の解決案も落としどころもわかんねーわ。

しかたない。誰かわからん相手の手のひらに乗るのは癪だけど、こんな状況になっているってだけでも俺の方が折れるのは仕方ないよな。

ってことで。


「まぁ、契約を受けるのは構わない」

「本当ですの!?」

「あぁ、だが条件がある」


こんな状況下だ。少しでも俺に有利な条件を引き出さないとな。


「条件ですか?」

「あぁ、まず確認したいんだがメアリー姫を貰う条件だな」

「ご、ご不満でしょうか?」

「いや、不満とかそういうことじゃない。メアリー姫の何がもらえるかを明確にしたいだけだ」

「全てです」

「は?」


何言っちゃってんのこのコスプレ姫。


「全てです。わたくしの体も、心も、オドも、作り出したマナさえも。力も、権力も、能力も、あなたがわたくしとこのクインティプルで戦ってくれる間はわたくしのすべてをあなたへ貸出します」

「か、貸出す?」

「そうです。その代わりにあなたのクインティプルでの力と知識がわたくしは欲しい」

「力と知恵か……」

「はい」


んー、なんというか。曖昧だな。

そもそも俺には力なんてないしな。このコスプレ姫が言うクインティプルでの知識だけなら、確かに俺には一角の物も持ってるしな。


「ここでは俺の力はどれほどの物かは想像ができない。ひょっとしたらあなたの力になれないほど低いかもしれない」

「……はい」

「ただし、知識にだけは自信がある。それだけでも構わないなら契約を受けようと思う」


ここで契約を受けないといつまでたってもここから動けそうにない。

それならばひとまず演出でも何でもいいから契約を受けてしまって、この状況が分かる人間から説明を受けるべきだな。


「ありがとうございます。お願い致します」


スカートの裾をすっと掴み深々とお辞儀をするコスプレ姫。見た目がそっくりなだけではなく、こんなところの所作まで綺麗なのは凄いな。完全にコスプレの域を超えてやがる。


「あぁ、それから俺の持ち物には今後一切触らないでほしい」

「と、いうのは?」


本当に何もわからない体で話をするなこのコスプレ姫は。


「この、同じように召喚(?)された冊子の事だ。さっきも言ったがこれは俺の命と同じ程大事なものだ」


と、少しだけしゃがみ大事な大事なコレクションにポンと手を置いたその時だ。


「は?」


俺のコレクションが、カオス・アメイジングの物語冊子がキラキラと光の粒子を放っている。


「え?ちょ?なに?」


あわてる俺をよそに光の粒子が多くなり、冊子自体が発光したかと思えば、その光の粒子が俺の左手めがけて集まってくる。

少しずつ左手に纏う粒子が多くなってきたかと思えば発行している冊子がその光の粒子とともに消えていく。


「はっ!?ちょ!マジか!?」


そうして数分もしないうちに全ての冊子がそこから消えてしまった。


「エー!何コレ!?」

「あの」

「お、俺のコレクションが……」


思わず膝から崩れ落ちる。


「あの」

「なんだよコレ、俺が何をしたっていうのさ」


年甲斐もなくあたりに喚き散らしてしまう。


「あの」

「うるせぇな!なんだ!」


目の前にいる女の子にまで八つ当たりをしている。


「ひぅ!あの、あれはあなたのシンボルで間違いないと思います」

「それが何だよ、あれが俺のシンボルなのは分かりきってるよ!どうすんだよコレ!」


カオスアメイジングの物語冊子といえば俺だ。それは間違いないよ!自他ともに認めるシンボルだよ!


「シ、シンボルであるなら契約者は自由に出し入れできるはずなのですか……」


ん、なんですと?


「どういうことだってばよ!?」

「召喚者のシンボルは召喚者自身の能力で出し入れできますよね?」


いや、よね?って言われても、そんな事聞いた事……あったわ。確かにいろんな物語で召喚者が自分のシンボルどっかから出したりいつの間にか仕舞ってたりしてたわ。


「どどど、どうすればいい?どうすれば出せる?」

「あの、落ち着いてください。落ち着いてシンボルを思い浮かべてみてください」


よ、よし。まだ慌てる時間じゃないってことだな。まず落ち着こう。


3.1415926535


πはいい。円周率という無限に近しいその数字は、僕らに勇気と希望を見せてくれる。

そもそもπっていう響きが最高だと思う。男なら、わかるね?


ふぅ、落ち着いた。それからコレクションのことを思い受かべるんだったな。


「お?」


そうして俺の左手には初代カオス・アメイジング物語の冊子が現れていた。


「おおおおおぉぉぉ!!」


よくわからない謎技術だが俺のこの手に冊子があることは確かだ。

ん?ということはこの冊子、実は俺の物じゃないのか?

実物ならこんなに消えたり現れたりしないもんな。

俺の知らない謎3D技術とかかな。俺のコレクションを元にスキャンとかして実際にあるように見せかけてるのかな?

いやーすげぇわ。質量まで感じちゃうんだもん。最新3D時術ってすごいなー……


「って、そんなわけあるか!」

「きゃっ」


えぇー、もー何コレ?どういうこと?マジ誰か説明プリーズ。


「何コレ?どういう事?どんな謎技術なのさ」

「大丈夫ですか?」

「無理。今凄い混乱してる。」

「シンボルに不具合でもありましたか?」

「あー、そういえば調べないと」


今の現象で確認できたのはコレクションの内のたった一冊だけだ。

最初の冊子が俺の手に握られているだけで、それ以降の冊子は光と消えたまままだ出てこない。

しかし、出てきた冊子もカオス・アメイジング第一弾のナンバリング1の冊子だ。

第一弾の冊子は全部で22冊もある。他の21冊とその後の冊子はどこに消えたのだろうか?

と、パラパラと冊子をめくると不思議な現象が起きる。


「んんー?」


なんと、いくらめくっても最後のページに行かないではないか!

しかもこれ、内容は他の冊子の内容が書かれているぞ?どういうことだ?


「どうなってるんだ?」


と、裏返して冊子を見てみるとまたもやビックリ。そこには第一弾のナンバリング7の冊子の表紙に変わっているではないか。


「表紙が変わってる?」

「先ほどからページをめくっていると時折変わっておりましたが不思議なシンボルですね」


ページをめくると表紙が変わる?

ふと、内容を見てみるとそこには確かにナンバリング7の内容が書かれていた。

さらに9ページほどめくってみる。ナンバリング7の内容はここで終わりのページだ。本来ならここでページをめくれば背表紙のはずだ。

ぺらり、とページをめくってみれば内容がナンバリング8の内容になっている。

すっ、と裏側を見れば……


「ナンバリング8か」

「また本の装丁が変わりましたわ」


つまりは、こういうことなのだろう。

全てのナンバリングが一冊の本になったのだと。

うん、これはもう俺のコレクションじゃないね。

どんな原理か全くわかんないけど、少なくともこんな摩訶不思議な現象を起こしてしまう本は持っていなかったよ。

ということは、とりあえずこの不思議冊子が俺のシンボルということなのだろう。


「うーん、理解も納得もできないけどこういう物なんだろうな」

「シンボルが召喚者に応じてその姿を変えるというのは伝え聞いてはいたのですが、実際に見たのは初めてですわ」


まぁ、そういう設定にされているのだろう。

ひとまずコレクションの是非については後で聞こう。そしてキレよう。目の前にいるコスプレ姫は悪い子じゃない。

悪いのは全部これを企んだ大人たちだ。


考え事をしながらパラパラと冊子をめくっているとふと不思議なページにたどり着く。

そのページは書かれている一部の文字が通常のインクの色であるはずの黒ではなくうっすらと赤く光っていた。

そのページの大半は発行して残り五行程が普通の黒い文字だった。


そしてそのページの名前は【コントラクター・メアリー王女】だった。


「メアリー王女か……」


ふと、気になってしまい口から言葉が漏れる。


「わたくしがいかがなさいましたか?」

「ん?いや、ちょっと気になるページを見つけてね」


※――――――――――――――――――――――――――――――※

「わたしとあなたに契約の証を」

紡いだ言葉にメアリー王女と召喚者は契約の光に包まれた。

二人の間をマナが飛び交い契約の行路であるパスが創られていく。

こうしてメアリー王女は新しい戦いへの力を手に入れたのであった。

その胸に新たな決意の火を灯して。

※――――――――――――――――――――――――――――――※


残った通常のページにはこの記述が残っている。

メアリー王女は第一弾のコントラスターの一人として収録されていた。

そのメアリー王女がコントラスターとして契約者と契約するシーンだ。


「これなんだけど」


と、コスプレ姫に冊子の内容を見せてみる。


「赤く光る文字が美しいですが若干のマナを感じますね。少しだけ光っていない所もあるようですが、わたくしには読めません」

「読めない?」

「はい。わたくしには読めない言語ですわね」


ふーむ。なんで読めないんだろ?

ここまで日本語を達者に操るこのコスプレ姫が、口語だけできて文字を履修してないなんてことがあり得るんだろうか?

それともこれも演技で、実は読めるけど読めないふりをしているとか?


「そっか、読めないか」

「はい。何と書いてあるのか読んでいただいてもよろしいですか?」


どうしよう。読んだ方がいいんだろうか?

内容だけさらっと教えることもできるけど。


「んー、内容としては、メアリー姫がコントラスターとして契約者と契約して、新しい戦いへの決意をする。ってシーンだな」

「それは誠ですか!?」


ものすごく驚いているけどそんな要素がどこにあるんだ?


「うん、簡単な内容だけならね。詳しく読むこともできるけど」

「お願いしてもよろしいでしょうか?」

「じゃあ読むよ。えぇっと『わたしとあなたに契約の証を』」


と、一文を読んだ瞬間に俺の目の前にある白紙のカードが光をあげた。


「うぉ!?何?」

「な、何故いきなり契約の紋言を!?」


二人してテンパっている所に俺とコスプレ姫から、それぞれ白紙のカードに向かって光の筋が現れた。

次第にそれは光を増していく。光の粒子が俺から、コスプレ姫からカードへと流れていく。

そしてカードは少しずつ光を増していく。

ってこれ、さっきも見たような気がするぞ?

え?なに?俺かコスプレ姫も不思議冊子みたいになっちゃうの?

一瞬、大きな閃光のような光を放ったカードは俺の前へと姿を現す。

カオス・アメイジングのカード【コントラクター・メアリー王女】として。


「あれ、メアリー王女のカード?」

「それは契約の証ですわ!」


よくわからんが、白紙のカードが【コントラクター・メアリー王女】のカードになった。

あれ?新しいカードを作る筈だったのに既存のカードが出てきて大絶賛混乱中なんだけど。


「どうして呼び出したコントラスターであるわたくしが、召喚者として契約されたんですの!?」


いや、知らんがな。って、多分さっきの朗読部分か。

そう思い冊子を見ると先ほどの部分が赤く光っている。四行ほど。


「あー、ゴメン。朗読した部分が何かに反応したみたい。そんで、まだ読んでないところまで光だした」

「なんでですの!なんでですの!これじゃあわたくしが召喚される側ですわ」

「そう言われても」


こっちも言われたことをやったらこんな風になったわけだし……。

いや、この言い訳はイカンな。新入社員が初めての仕事を失敗して上司に責任を押し付けている言い訳に似ている。

知らなかった俺も悪い。

そして何かやらかした時はその原因の追及。その改善。そしてその後のフォローが大事だと言われているからな。

しかし、原因ははっきりしている。俺の知識不足。これはさっきからずっと考えている後回し。今現在何とかしようと思っても何故か話がずれるコスプレ姫しか目の前にいないからしょうがない。

そして改善。これはそんなに難しくないな。この後スタッフさんたちと打ち合わせなり台本を見せてもらえば俺だってそれらしく立ち回れるし教職だってやぶさかではない。ただ、少しだけOHANASHIしなきゃいけないことがおおいデスけどね?

そんでフォロー。フォローか……。


「えっと、メアリー姫?」

「なんですの!?」


未だにテンパってるコスプレ姫に譲歩と提案を申し込む。


「なぜか出来てしまった契約なんですけど、これについて聞きたいんですがいいですか?」

「わ、わかりましたわ。わたくしとした事がはしたないお姿をお見せして申し訳ありません」


とりあえず混乱からは立ちなおったようだ。


「では、まずこの契約なんですが俺は意図せず行ってしまいました。これを解約することはできますか?」


契約書をはさまずに口約束だけで契約したようなもんだ。クーリングオフみたいなことはできないのかな?


「それは難しいと思います。すでにわたくしとあなた様とで契約が結ばれてしまいましたから」


またそういう設定か。ややこしいな、こんなの一端反故にして新しく契約してるところを撮り直せばいいじゃないか。ってそうか。


「ではメアリー姫から俺にもう一度契約することはできますか?」

「え?」


そう、解約できなくてもメアリー姫から契約するという事実さえあれば、きっと台本通りになるだろう。


「どうですか?」

「いえ、その、分かりません」

「分からない?」

「えぇ、おそらくですが前例がないのです。少なくともわたくしは知りませんし、それらしい事を聞いたこともありません」


んー、スタッフが設定し忘れたのかな?まぁ、最初はメアリー姫の契約を俺が受け入れる。ちゃんちゃん。で終わるつもりだったのに俺がやらかしたせいでこんなややこしい事になっちゃってるんだろうな。


「とりあえずもう一度契約をやってみますか?」

「よろしいのですか?」


まぁ、提案だけはする。できるならそれでいいし、できないなら今ある契約を上手く誤魔化せばいいんじゃないかな?


「元々そういうお話でしたでしょう?」

「ありがとうございます」


そういうと、コスプレ姫はふぅっと大きく深呼吸をした。ようやく台本通りに進みそうなんだもんな。散々引っ掻き回しちゃってゴメンね?


「それでは、始めます」

「いつでもどうぞ」


先程までの表情とは一転キリッとした覚悟のある良い目をしている。こういう表情ができる人間は良いな。好感が持てる。


「それでは『わたしとあなたに契約の証を』」


先程とはちがい、メアリー姫の胸元にある大き目のネックレスから淡く優しい光がぼぅと灯る。

そしてゆっくり、その光がふわふわと俺の方へと向かってきて……。


バチンッ!


メアリー姫のカードがその光を打ち消した。ご丁寧にやってきた光の進路を遮って。


「な、なんでですのぉ!!」


うん、ほんとなんでなんだろうね?やっぱり本人同士の契約とはいえ多重契約はダメってことなのか。


「あー、メアリー姫。落ち着いてください」

「わたくしが、この日の為にどれだけ奔走したとおもってますの!納得できませんわ!」


まぁ、このクオリティを作り出そうとおもったら相当の努力は必要だよね。


「メアリー姫、契約の内容は先程おっしゃっていた事で良いのでしょう?それならば俺としては問題ないと思うのですが?」

「え?」


こうなっては最後の手段。そもそも俺達二人の契約なんだからどっち主体の契約とかうやむやでいいんじゃね?どうせさっき言ってた内容なら、どっちが甲でどっちが乙でもそんなに変わりはないだろう。


「俺がメアリー姫にできうる限りの力と知恵を貸す。その代わりにメアリー姫は俺がこの世界にいる間すべてを貸してくれる。って内容ですよ」

「ほ、本当ですか?」

「えぇ、男に二言はありません」


これで納得してくれるといいんだけど。


「本当に、本当ですか!?」

「えぇ、かまいませんよ」

「あ、ありがとうございます」


さて、これで大まかな台本通りの内容になるのかね?ってその他にもいろいろ聞きたいことはたくさんあるんだよな。結構驚きっぱなしでスルーしてしまったことも多いけどわかる人に説明してもらわにゃ、納得できんことも多いぞ。


と、ふつふつと再度湧き上がる怒気を腹の中に貯め始めたその瞬間。ずっと手にしていた冊子の開いていたページの最後の行が赤く光った。

さらに、ほぼ同時に浮かんでいた【コントラクター・メアリー王女】のカードが俺の右手へと飛んできた。

あわててそれを手に取ると俺の持っていた冊子はなぜかカードバインダーに変身していた。


え?何コレ?

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