しや

第1話:Prologue


 彼岸の境界が、不鮮明に揺らぎ、視界が一面赤に彩られる。

 真っ赤な池が光景として広がっているわけではないのに、一点がもたらした赤が強烈で、全ての色を塗りつぶしたような感覚に陥ったのだ。

 窓から気まぐれに吹く風が、意思を持たない身体を不規則に動かす様は生きているかのような非道な錯覚をもたらす。

 錯覚は現実ではなく、死の絶望は揺らがない。

 ゆらり、ゆらりと死の塊が眼前に突き付けられて、金縛りにあったように動けない。

 ゆらり、ゆらりと動く真っ赤なリボンが、太陽を直視しているように視界を染め上げる。

 死を眼前にして、叫ぶでも嘆くでもなく時間の許す限りを眺め続けた。

 

 だって、それは――美しかったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る