二十年後の勇者伝説
柳ユキノリ
序:二人の出会い
穏やかな昼下がりの町中に、突如として石畳を蹴る
「どいたどいた!」
「フリック様お待ちを!」
制止する門番の横をすり抜け、フリックは城壁に囲われた町の門から、そのまま外へと駆け出していく。
「大変だ!フリック様がまたおひとりで町の外に!」
そう叫ぶ門番を尻目に、フリックは手綱を
やがてフリックは街道を外れ、草原の中、馬を走らせる。行く先は決まっていなかった。今日はあの山の
「この先は馬じゃ行けないか……」
山の麓の森の中は徐々に険しくなって行き、足場も悪くなってくる。フリックは馬を降りると、その馬を近くの木に
水音を目指して木々の間を抜け、草をかき分け、奥へ奥へと踏み入っていく。やがて視界が開け、フリックは小さな滝壺へ出た。水面が太陽の光を反射し、キラキラと光っている。その光に包まれるようにして、滝壺の中に人影が立っていた。赤い髪を腰まで垂らした、一糸
少女は印象的な瞳の色をしていた。それは幼いころに見た、鮮やかな夕日を映した
「うわあっ!ご、ごめん!」
一瞬の間の後、フリックは勢い良く後ろを向いた。
「
フリックの背中から、ぱしゃんと少女が水から上がる音がした。少女はさほど動じている様子もなく、フリックの足元から布を拾い上げると体を拭き始めた。フリックは顔を赤らめ、目を泳がせながら背中の気配を探る。
「もうよいぞ」
そう言われ、フリックが振り向くと服を着終えた少女が立っていた。
「なんだ、子供じゃないか……」
フリックが少女の
「きさま!女の裸を覗いておいてその言い草か!」
「あ、ああ、悪かったよ、でもわざと覗いたわけじゃないんだ……」
少女の剣幕にフリックは
「お前、名前は?」
無表情に少女が問う。
「フリックだ、ベルモナ王国の……君は?」
「アクラだ」
「アクラはどこから来たんだい?」
「山だ。山に住んでおる」
アクラ、と名乗ったその少女は山の
「山の
フリックは驚いた。ベルモナ王国の北に位置するハクラナン山脈。そこには狩猟を
「ここで人に会ったのは初めてだぞ」
アクラは濡れた髪を手ですきながら言った。彼女は見た感じまだ十歳かそこらだろうか。しかし山暮らしとは思えぬ白い肌と、整った顔立ちにぱっちりと主張した大きな目、その中で
「フリック、聞いておるのか?何しにこんな所に来たのだと聞いている!」
アクラの声に、はっと
フリックはこほん、とひとつ咳払いをすると、アクラの問いに答えた。
「……いや、まあ冒険さ!それと修行かな」
「お前もまだ子供だろうに、ひとりじゃ危なかろう?」
「ははっ、さっきの仕返しか?俺はもう、立派な剣士なんだぜ!」
フリックは腰に差した剣を抜くと、アクラの前で振ってみせた。
「俺は強くなりたいんだ!強くなって、勇者フリックと呼ばせてみせる!」
フリックは剣を掲げ、目を輝かせてそう宣言した。真っ直ぐと天を
「フフッ」
「笑うか?」
フリックは剣を収め、アクラを見た。
「いや……よいのではないか?私も強い男が好きだ」
この物語はそれから五年後、フリックとアクラの再会から始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます