巡霊クラブ

@osenbei11

プロローグ

 昼下がりの普通電車は、人もまばらだった。


 乗客はそれぞれ暗黙の了解で、距離を置いて座していた。小説に、スマートフォンに、携帯音楽プレーヤーに、各人が各々の世界に没入する。僕も例に漏れず、スマホでインターネットを見ていた。「人気俳優の○○とアイドルの○○が熱愛」だの、「おもしろ珍事件」だの、好奇心を惹かれた記事を適当にあさる。特に目的があるわけでもない、ただの暇潰し。いつも通りの、平穏で退屈な時間。金曜日の時間割を必修の一限目のみとなるよう調整していた僕にとって、帰宅途中のこの時間は「ほぼ3連休」のスタートという以上の意味を持たなかった。特に何事もなければ。


 年明けの授業開始初週、期末テストや課題の提出日の影がちらつき始めていた。しかし差し当たりそれは大きな問題ではなかった。いつも通りの時間に、突如現れた非日常は、乗降の少ないその駅で乗ってきた。父と同じくらいの年齢の男性が、スマホを操作する僕の真横に腰掛ける。暗黙のルールもお構いなしに。しかし、僕が面食らったのはそのせいでも、スーツにステッキ、シルクハットという男の格好のせいでも多分なかった。


 隣に座った男は、体が少し透けていた。

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