4(完)
何も考えたくなくて、そのまま自宅へ帰ったら一直線で布団へ向かい、寝た。
朝起きたら携帯に先輩からの着信が何件か入っていたが、正直、もう何話していいかわからないし、何も聞きたくないし。折り返すことはできなかった。
(終わっちゃったな…)
先輩はオレの嫌がることは強要しなかった。
だからこのままオレが折り返さなかったら、きっと無理に連絡取ろうとしてこないだろうから、このまま音沙汰なくなってしまうんだろう。
昨日走ったせいかいつもより重い体を持ち上げて、顔を洗いに洗面台へ向かう。
…オレは寝ながら泣いていたのだろうか。鏡に映ったその顔は、目が腫れて余計ブサイクに見えた。
ピンポーン
まだ朝早いのに誰だ?と思って時計を見たが、自分が寝すぎていたようで、時計を見たらすでに10時30分だった。
親が出かけているのか、誰も玄関へ向かう気配がないので自分が向かう。
「はーい」
ガチャ、とドアを開けると、そこには昨日と同じ服を着た東条先輩がいた。
「………おはようございます」
「…おはよう」
まさかの展開に頭が真っ白になったが、よく考えたら自分に会いに来たとは限らないことに気づく。
「あー…姉ちゃんですかね。ちょっといるか見てくるんで待っててください」
「や、違うから!…オレ、雛ちゃんじゃなくて翼と話したくて来たんだ」
先輩はいつものへらへらした笑顔とは違い、なんだか情けない顔をしていた。
「…オレと話すことなんて、もうないでしょ。罰ゲームももう終わったんだから。…それともなんですか?きっちり明日までやらなきゃいけないんですか?」
「や、違くて。罰ゲームはもう終わりでいいんだけど…昨日のあのままで終わったら、翼はもうオレと一緒にいてくれなくなるだろ?オレは罰ゲーム終わっても、今までみたいに翼と一緒にいたいと思ってる」
(先輩も一緒にいたいと思っていてくれてたのか…)
…少しホッとする半面で、素直には喜べない自分がいる。
「…それは、姉ちゃんの情報仕入れるためですか?」
「違うよ。ごめん…オレが最初にそう言ったからだよな。確かに最初はそうだったけど、翼と一緒にいるの楽しくて…雛ちゃんとか関係なしに一緒にいたいと思ってる」
そう言った先輩の顔は、眉毛を下げて情けないけど、いつになく真面目に見えた。
わざわざそんなことを言うために、後輩の家まで訪ねて来てくれたのか。
先輩のその気持ちに胸がじんとする。もう1度、この人を信じてみてもいいのだろうか。
「…先輩、昨日はどうしてあんなことしたんですか」
「昨日は…ほんとごめん。その…なんか、ねーちゃんにオレの連絡先知らないって言っちゃったーとか言ってる翼がやたらかわいく思えて。可愛い、って思ったら、スゲー無意識でしちゃったんだ。だから自分でもびっくりして…ほんとごめん。罰ゲームでとか、姉ちゃんの面影見たとか…そんなんじゃ、絶対ないから」
「…かわいいってなんですか」
「や、だってさー…思っちゃったんだもん。ほんとごめん」
恥ずかしげもなく連呼されるその言葉に、思わず顔をそむける。
先輩は、オレ相手にキスしてくれたのか。
姉の代わりではなく、自分にキスをしてくれたということにものすごく安堵している自分がいる。
そんな自分に余計恥ずかしくなり、顔が一気に熱くなる。
「なぁ翼…」
「…はい」
「オレさ、昨日…このまま翼ともう二度と話せなくなんのかなとか思ったら、本気で嫌で…そんで夜からずっとここで待ってたんだ」
「…は?本気で言ってるんですか?何やってるんですか…!」
「…ホントに何やってんだろうって、自分でも思う。」
驚くオレに、先輩は情けない顔して笑う。
「オレ、こんなに誰かに必死になんの初めてなんだ。無性にキスしたくなったのも、翼が初めて。…雛ちゃんのこと可愛いと思うし、好きだと思ってた…けど、こんな風に自分抑えられなくなるほどの想いは、正直なかった」
「……っ」
先輩の真剣なまなざしに、思わず息をのむ。
「翼へのさ、こういう感情思ったら…今まで好きだって思ってたのはただの好みとか憧れみたいな感じで、大した気持ちじゃなかったんだなぁって思う。…これが好きってことなのかなぁって、なんかすごい、思って…」
先輩は真っ赤になって何も返せないでいるオレを真剣に見つめてから、すうっと大きく息を吸って頭を下げた。
「オレと付き合って下さい!今度はフリじゃなくて、本当に!」
「……罰ゲーム、じゃ…ないですよね?」
「絶対にない!」
「…1ヵ月だけとか言わないですよね?」
「ずっとがいいです!」
がばっと勢いよく顔を上げた先輩の顔が真っ赤で、涙目で。
オレはその時、無性にキスしたくなるという気持ちを、初めて知った。
終 2014.11.22
(本当の恋愛は初心者×敬語でズバズバ)
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