罰ゲーム

蜜缶(みかん)

「あのさー、罰ゲームで男と付き合えって言われてんだけどさー、1ヵ月だけお願いできる?もちろん付き合ってるフリでいいからさ!」



人気のない化学室でオレに全く頭を下げずにそうお願いをしてきたのは、学校で知らない人はいない不良グループの1人、東条 至先輩だった。

学校の校則に反抗しまくったその風貌は、白髪に近い金髪で、片耳に1つだけピアスがついていて、制服はもちろん着崩している。

もともとのつくりが男前だから何をやっても似合うのだろうが、平凡なオレはこの何とも言えない威圧感に、正直ビビる。

「あの人たちと目があったらすぐ逃げろ!」とそこらじゅうで噂されていたから、かかわる機会がなくとも東条先輩のことはもちろん知ってはいたが、東条先輩とは話すのどころか、こうして向き合うのも初めてな筈だ。

(…何でオレ?…っていうかそもそも)


「…それって罰ゲームって言っちゃダメなヤツなんじゃないですか?」

「ほんとはねー。だけど相手も罰ゲームだってわかってないとフェアじゃないしさー。今誰も見てないから大丈夫、大丈夫。」

「はぁ…」

へらへらした笑顔を崩さない東条先輩に、オレの口から出たのは返事というよりため息に近い。


「…何でオレなんですかね。東条先輩オレのこと知りませんよね?」

「知ってるよー、ちょっとは!鈴木君て雛ちゃんの弟っしょ?オレ実は雛ちゃんのこと好きでさー…罰ゲームがてら雛ちゃんの弟と仲良くなれて、雛ちゃんの情報も仕入れられたら一石二鳥!みたいな?」

雛というのはオレの1コ上の姉だ。姉ちゃんはこの学校では割と可愛いと有名だったらしく、オレが入学した当初はどの鈴木が雛の弟なんだろうと興味半分で少し探されていたが、平平凡凡なオレは似ても似つかないとすぐにそのリストから外れていた筈だ。


「…なんでそれ知ってるんですか?姉ちゃんにも口止めしてあるはずなのに…」

「あ、やっぱりそうなんだ!雛ちゃんはさ、言うなって言われてるからー…って誰にも教えてくれないらしいんだけどさ。でもやっぱりかー!君すっごく雛ちゃんと雰囲気似てるよね!だからすぐわかったよ」

東条先輩は今までのへらへらした笑顔をさらにくしゃりと歪めて、本当にうれしそうに笑った。


(はめられた…)


…でも、雰囲気が似てるなんて、初めて言われた。

いつも何かにつけて姉ちゃんと比べられては自分はできそこないだと言われていたのに。

だから姉ちゃんにも口止めをしていたのに。


改めて東条先輩を見る。

威圧感のある風貌に、へらへらして何を考えてるのかわからない笑顔。

この人のどこまでが本当で信じていいのかわからないけど、でも似ても似つかないオレの中から姉ちゃんの面影を見つけ出すくらい、姉ちゃんのことが好きなのは本当なんだろうと、なんとなく思った。



「…1ヵ月つきあったとして、オレにはなんかメリットありますか?」

「ふはっ!君ホントおもろいね!妙に冷静っていうか。んーそうだなー…とりあえずご飯とかめいっぱい奢るよ」

「はぁ…わかりました。そのかわり、オレが弟ってこと内緒にしててくださいね」

「りょーかい」



そうして、オレは東条先輩と1月だけ付き合うフリをすることになった。


 


その場ですぐ連絡先を交換し、その足で先輩たちの溜まり場である屋上へ向かい、「オレたちつきあうことになりましたー」と宣言。

お仲間さんたちは「お前騙されてんだぞー」という感じでにやにやオレのことを見てきたが、「オレは罰ゲームだって知ってるんだからなー」という強い気持ちで見返してやった。


その後は、毎日登下校をしようと言われたけど周りにばれたくないオレはそれを丁重に拒否させていただいたので、

実際に付き合ってるっぽいことと言えば、昼飯を一緒に屋上で食べたり、放課後不良の溜まり場に行ったり、デートっぽいことをするくらいだ。

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