四月第一週 土曜日 花見 終了 夕方
コンビニで買って帰ってきたものは、概ね好評だった。お釣りとレシートを星野先輩に返し、買ってきたペットボトルを一人一人に渡す。飲み足りない人も居たようだが、そこはこの後個別にということで。ちなみに飲み足りなかった人はさっきお釣りを渡した星野先輩だ。自分の名前に合わせているのか、首から下げた星型のネックレスをいじっている。
大島さんもスイーツを女性陣に配っていく。どれにするか迷っているのだろう。黄色い声が聞こえてきた。
「緑ちゃん気が利くぅ~」
「え~、どれにしよっかなぁ?」
「アタシこれがいい!」
「私これっ!」
「え~、ず~る~い~。アタシもそれ狙ってたのにぃ~」
酔っている所為もあるのだろう。中々白熱しているようだ。中にはカロリーを気にする人もいたが、それは無駄な抵抗というやつだった。せっかく新入生が買ってきてくれたのに、という声に押され、その実『私は高カロリーを摂取するのにお前は逃げるんか、アァン?』という女性の見えない本音に背中を押されスイーツを手に取ってしまう。
そして思うのだ。少しぐらいならいいかな? っと。その『少し』に今まで何度泣かされてきたのか知っているのに、ああ今一人、また一人と高カロリー食品(スイーツ)を手に取る。そして酔いがさめて嘆くのだ。やめておけばよかった、と。
……何故ここまで言えるかって? ねーちゃんがいつも言っているのだ。そして俺に八つ当たりする。やめてもらいたい。マジで。
「み、緑ちゃん写真撮ってるの?」
本西さんの声につられて見ると、確かに大島さんが自分のスマホでスイーツの撮影をしているところだった。その表情は真剣そのもの。
「うん。私Tw○tterで食べたものとか、写真に撮ってアップしてるんだ。最近はコンビニスイーツがお気に入りなんだよ。中嶋君のクライアントでもできるよね?」
「あ、早速使ってくれるんだ。写真のアップロードもできるよ。何か欲しい機能があったら言ってね」
純粋に、自分の作ったアプリを使ってくれることがうれしい。やっぱりコミュニケーション手段としてTw○tterを使ってる人は多い。もう少し改良しないと、とは思うのだが一人では限界がある。もう一人ぐらいアプリ開発の協力者がいてくれればいいのだが……。
「あー、そういう人いるよね」
「アタシも写真、撮ろうかな」
「俺も俺も」
「緑ちゃ~ん。俺にやり方教えてよ」
「緑ちゃんのアカウントどれ? 俺とフォロワーになってよ~」
前半は女性陣の和気あいあいとした会話だったのに、後半は男性陣の欲望が隠し切れない会話が続く。酔いがさめても、大島さんと仲良くなりたいという勢いは止まらなかったらしい。
だがTw○tterのアカウントということで、今度は大島さんも笑顔で了承する。ガッツポーズを隠さない男たち。
「中嶋君。ちょっと」
呼ばれて振り返ると、福良先輩が俺を手招きしていた。
何だろうと思いながら、若干距離を空けながら近付く。夏輝のようにくっつかれて、藤井先輩にキレられるのはごめんだ。
「何警戒してるの?」
「え? 別に普通ですけど」
「ふぅん。まぁいいわ。この桜の樹を、中嶋君のスマホで撮って欲しいんだけど」
「いいですけど、何で俺なんです?」
「別に中嶋君だけじゃないわ。年に一回サークルの活動誌を作って、大学に提出しないといけないのよ。それで写真が必要なの」
「なるほど」
言われて見回せば、確かに何人かの先輩たちは桜の樹の写真を撮っているようだ。
「それで、この樹でいいんですか?」
「ええ、そうよ」
そう言われて桜の樹を見上げる。俺は福良先輩に二つの理由で感心していた。
一つ目は、桜の写真のこと。酒とナンパに夢中になっている先輩がいる一方、何だかんだで福良先輩はきちんとサークルの事を考えていた。
二つ目は、写真の被写体に選んだ桜の樹のことだ。福良先輩からしたら、きっとこの桜の樹以外目に入らなかったのだろう。
福良先輩が選んだこの桜は、藤井先輩が今日のために朝早く起きて押さえた特等席で見れる桜の樹だった。
駅からこの花見席に来る途中で見た、福良先輩の笑顔を思い出す。何だかんだで、福良先輩は藤井先輩の事が大好きなのだろう。俺はスマホを構えて、写真アプリを起動。自分もそういう彼女が欲しいと思いながら、俺はシャッターを押した。俺が押したタイミングで隣からもシャッター音。
福良先輩も、この桜の樹の写真を撮っていた。
「中嶋君」
「何? 大島さん」
こちらに小走りで向かってくる大島さんに、俺は振り向く。
「中嶋君もフォローしといたから、私もフォローしといてね?」
「え、俺大島さんにアカウント教えたっけ?」
「ううん。でもアプリストアに載ってたアカウント、あれって中嶋君だよね?」
「そうだよ。よく気がついたね」
俺は自分のTw○tterのアカウントを、アプリストアにある『Noisy myna』の開発者覧に公開しているのだが、まさか大島さんがそこからアクセスしてくるとは思っていなかった。
アクセスする人は同じアプリ開発者だったり、俺の作ったアプリの苦情を言う人がほとんどだったからだ。
大島さんはTw○tterだけでなく、アプリそのものについても興味があるのかもしれない。
「リフォローお願いね」
自分のTw○tterのアカウントを確認すると、確かに俺のフォロー数が増えていた。リプライでも『フォローしました! アプリ作れるなんてすごいね! m○xiとか他のSNSもやっててアプリもスマホに入ってるけど、もうTw○tterしかやってないや! リフォローよろしく! あと、これからよろしく!』というメッセージが届いている。
大島さんはどうやらTw○tterだと元気キャラらしい。アカウント名はGreenB0622。アカウント名に自分の名前である緑、『Green』が既に他の人に使われていたため、アカウント名に血液型と誕生日を混ぜたのだろう。
俺は『ありがとうございます。これからよろしくお願いします』と大島さんにリプライを送った。リフォローする時のリプライで、何故だか敬語になってしまうのは俺だけだろうか?
俺は今日増えたフォロワーをまとめてリフォローした。きっと大島さんから俺のアカウントだと聞いた他のサークルのメンバーが、フォローしてくれたのだろう。
BlueDragon0407は小川先輩だろうか? 確かに龍のように元気な人なので、『Dragon』その名前に違和感は感じなかった。
そろそろお開きなのか、北斗さんが立ち上がって皆を見回している。
「じゃあそろそろお開きにしたいと思います! いいかな?」
だめでーす! と合いの手が聞こえてきて、北斗さんが困った顔をしていた。
それが何故だか無性に面白くて、なんだか今日という日が、俺にはかけがえのないようなものに思えて、涙が出るほど俺は笑った。
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