第49話 山田太郎殺人事件 02
最初に海の潮風と述べていたからある程度は想像していたと思うが。
クルーザーというのだろう、そこそこの大きさの船に乗っている。
外にパラソルと椅子という憩いのスペースがあり、私達はそこに座っていた。
もっとも、私はベビーカー上だったが。
流石にハイハイできる赤ちゃんを放置するわけにはいかないだろう。下手したら海へ転落してしまう可能性もあるから。私はそんな愚行を起こさないが、〇歳児を抱える母親としては当然、そんなことはさせないだろう。それに兄が、結果として手を握っているので、ベビーカーごと転落するということもないだろう。ベビーカーは転落しても私は大丈夫だ。そんな理由もあって兄は手を繋いでいてくれるのだろうか? そうであればすごくかっこいい。だがそこまで兄が考えているとは思えない。私のメッセージを聞くために繋いでいてくれるだけだろう。
その兄が口を開く。
「これから旅行だよー。とある島に行くんだよー」
そうだ。
私達は旅行をしているのだ。
母親が新聞広告かインターネット広告かは分からないがどこからか見つけてきたモニター公募に当たり、二泊三日で遠出をしているのだ。
しかもこのモニター、離れ小島での本格的な雰囲気の中で殺人事件が起きる中で犯人を捜せ、という推理物のアトラクションに対してのものらしい。
そんなものに母親が応募したのは、私達が要因である。
というか、私のせいである。
私が兄にせがみ、現代の推理小説全般を借りてページを捲って読んでいたことが、母親の目には『推理小説大好きな子供達』と映ってしまったのだろう。それ故に喜ばせようと応募したら当たったらしい。まあ、同伴者一名まで、という条件であったため、当たった後に主催者側に確認して〇歳児は同伴OKということがなければ、まさか私と兄だけという訳にはいかないので母親と兄だけで向かわなくてはいけなかったのだから、母親としては冷や冷やしただろう。流石に主催者側も〇歳児は不可、とはしないだろうとは思うが。あれって宿泊施設や食事関係などでの制限だろうし。
と、いうことで、私達は家族で船で離れ小島に向かっているという訳だ。
私は、存外、このモニターを楽しみにしていた。
流石に人の生き死にが実際にある中で推理するのは不謹慎だから、こういうアトラクションで謎解きをするのは、かなり楽しみだ。
心配だったのは船に初めて乗ることだけだったが、やはり結構揺れるものなのだな。三半規管が揺さぶられて気持ち悪くなる理屈が分かる気がする。幸いにして私はそんな状態になってはいないので、心配だった酔いは無かったのだが。
そう。
あそこで海に向かって垂れ流している、見知った人物の様には。
「あのー大丈夫ですかぁ?」
母親が心配そうに声を掛けると、その人物は看板から乗り出していた頭を戻し、口元に手を当てながら首を縦に振る。
が、その動作も酔いを加速させたようで、再び看板から頭を飛び出させる。
駄目じゃん。
普段も別の意味で駄目駄目だけど、今日はもっと駄目じゃない。
というか、どうしてここまで、という疑問が湧く程、最近の彼女との関わりが深くなっている。
本当に何故いるんだろう。
あのポンコツ刑事は。
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