第48話 ワルキューレの騎行

 ミカ・ヴァルキリーは巨大な白い翼を背中に出現させ、飛び上がった。

「金閣寺、あたしを盛り上げる音楽を頂戴!」

 ヱルゴールドは、世界のヱルにハッキングし「ワルキューレの騎行」を放送する。ミカにもアストラル通信で鳴り響く。

「アイ、この星でのあんたの支配を終わらせてやるワ!」

 ミカは白い翼を、ジェット機のように水平に固定している。メタルドライバーが来たコースを辿るようにミカ・ヴァルキリーは飛行した。マッハ十を軽々と超えていった。ミカのアストラル物質体は、風圧の衝撃を受けることもない。

 まずダークフェンリルを破壊しなければならない。それはロンフーの時空圏内に存在している。

 東シナ海上空を通過すると、ミカ・ヴァルキリーは中国大陸上空に入った。すでにロンフーの時空圏である。地上から嵐のように対空迎撃ミサイルが撃ち上げられ、ミカ・ヴァルキリーに次々襲い掛かってゆく。ロンフー軍の攻撃は、メタルドライバーなどに比べると、はるかにローテクだ。ミサイルはミカ・ヴァルキリーのアストラル・シールドに遮られ、アストラル物質体の手前で爆発する。ミカのスピードがあまりに早くてほとんどのミサイルは肩透かしに終わる。スクランブル発進した戦闘機も追撃するが、ミカ・ヴァルキリーに追い付かない。ミカのスピードに追いつける戦闘機やミサイルはほとんど存在しなかった。しかし、前方からステルス戦闘機の大編隊が近づいてきた。

 「ワルキューレの騎行」を聴きながら身も心もヴァルキリーになりきって、アドレナリンが全開になっているミカのルビースピアーが降られる度、前方から飛んできたステルス戦闘機はカウンターで次々爆発し、落下していく。ミカ・ヴァルキリーの飛んだ軌跡に、ロンフーの大軍が蹴散らされた残骸が地上へと落ちていった。

 戦闘機の編隊を撃破した時、突然雲間から光の洪水が降ってきた。ミカ・ヴァルキリーは身をよじって回避しようとしたが、突然のことでミカはアストラル・シールドで避ける間がなかった。ミカ・ヴァルキリーは高度一万メートルからキリキリ舞になりながら落下していく。光が降りた地上の砂漠は、幅数百メートルに渡って爆発の巨大な炎が吹きあがっている。

 あやうくヴァルキレーションを解除され、等身大の姿に戻るところだ。地上から二百メートルまで落ちたところで体制を立て直した。身長ほどもある黄金に輝くツインテールをなびかせ、上空を見上げる。ミカは空からプラズマ攻撃を受けている。それは、メタルドライバーではないらしい。メタルドライバーなら雰囲気で察知している。再びプラズマで浮き上がると、さっきと同じ光が天から襲いかかってきた。そのプラズマ光は地上に巨大な白煙を舞い上げて、次々降りてくる。ミカはアストラル・シールドを展開しながら、ハチドリのような敏捷な動きで飛び回り、天から次々放射される光を避けていった。

 どうやらロンフーの誇るプラズマ兵器の射程範囲に入っているらしい。しかし、一体上空に何があるのか、ミカにも正体が分からない。逃げ場はない。シャンバラへのゲートのあるヒマラヤが近いゆえの兵器だと思うが、ミカに引き返す余裕はなかった。

 ミカは空から降りしきるプラズマの攻撃を避け、天空へと駆け上っていった。しかし、どこまで行ってもその正体は見えない。その代りに自分に向かって白い光が次々と降ろされていく。危険が増す中、ミカ・ヴァルキリーは宇宙へと抜けていった。

宇宙まで上昇したミカ・ヴァルキリーを待っていたその物体を目視すると、ロンフー軍の巨大軍事衛星が地球の軌道に浮かんでいた。ミカ・ヴァルキリーより大きい、五百メートルの衛星は、間近からプラズマ光を発射した。

 それは、全自動でミカをターゲットに攻撃してきた。間近で受けるプラズマの砲撃は、アストラル・シールドを通しても強力な衝撃を感じ、突破される可能性さえもあった。もはや直撃は避けなければならない。盾は通用しない。体をひねってギリギリで攻撃をかわし、ミカ・ヴァルキリーの持つルビースピアーは槍身を伸ばし、軍事衛星を貫いた。それは一端沈黙した後に、宇宙空間で大爆発を起こして炎を身にまとい、幾つかの塊に分裂しながら地上へ落下し始める。その破壊の光は地上からも観測できるほどだ。ミカはロンフー軍を壊滅させたのである。「ワルキューレの騎行」のフィナーレと共にミカはヒマラヤ山脈へと急降下していった。

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