ヒキニク!~ヒキニートの異世界転生狂騒曲~
kapuri
第1話 おはよう。おやすみなさい。
十二ダースベイ○ーの登場シーンで流れるテンションの上がるBGMが聞こえる……。
しかし今の俺はそのBGMを聞いても全くテンションが上がらない。
それもそのはずだ。今の俺は布団の中に身体を入れていて、目覚めたばかりなんだから。
「……うるせえ」
布団にもぞもぞともぐりこむ。音を遮る手段として。
映画のシーンではテンションが上がる曲だが、目覚ましに使うと管弦楽器の音が相まってかなりの騒音だ。
しかしそれは取りも直さず目覚ましにうってつけということであり、今もこうして俺の惰眠を解除する
布団から腕を出し、感覚だけでスマホの停止ボタンをタップしようとする。
するといつものルーティンが功を奏してか、ベイ○ー閣下は
そのまま惰眠を貪ろうとも考えたが、時間も時間なので、なんとかやる気を出して起きることに決めた。
起き上がると、窓から差してくる日光が顔を眩しく照らしてくる。目を細めて高く登っている太陽を
次いで部屋の中に視線をやると、いつもの光景が目に入ってくる。
正面の机の上にはPCが置かれており、スリープ状態でおっきするのを今か今かと待ち構えている。
その横には32インチのテレビがローボードの上に、BDレコーダーが中に据えられている。
ローボードの前にはPONYの最新据え置き型ゲーム機が配されていて、こいつはすでに準備万端おっきしている。
どうやら電源を切るのを忘れていたらしい。テレビの方は切った記憶があるが、TS4の方は切った記憶が一切ない。
それにしてもこの据え置き機の名前。擬人化したら性転換してかわいい女の子になりそうなのだが、どうなのだろう。性転換だからイケメンにもなれて男女どちらの人気も獲得、売れ行きもぐんぐん伸びそうである。名前もふぉーちゃんとフォー君|(様)でどちらもいけるし。まあ、男の俺からすればふぉーちゃん一択でフォー君は願い下げなのだが。
思考が脱線して山手線から京浜東北線に行きかけたが、俺の部屋にあるのはあとコンポ、中央に小さめのテーブル、それくらいだ。
ベッドから降り、立ち上がって「ん~!」と伸びをして筋を伸ばし、血液を巡らす。
それを終え、腕をだらりと垂らすと、自身の「ある状態」に気づく。
「……腹減った」
独り言ち、部屋から出て階下に降りて行った。
※
用を足し、顔を洗って歯磨きをしてから、シリアルをミルクと一緒にかき込んで、また歯磨きをして二階に戻ってきた。歯磨き大事。
この家は俺の家ではない。親の家だ。つまり実家ということだ。
上京して、社会の荒波に揉まれた俺は、揉まれしだかれもみくちゃになって落ち武者として実家に帰ってきた。
現在は就活としてハニワ|(ハニーワーク)に通う日常を送っているのだが、ここ最近は、ハニワに通うのも
寝すぎてだるい体を動かして、机の前の椅子に座る。
PCの電源ボタンを押し、デスクトップ画面が表示されるのを数瞬待ち、それが表示されるとマウスを動かし操作し始める。
開いたままのブラウザのタブをクリックし、動画投稿サイト「ヌコヌコ動画」のホームページを表示させる。
ヌコヌコ動画は多種多様な動画が投稿されており、時間をつぶすにはもってこいのサイトである。俺のような半分自宅警備員の人間には無情なる時の流れを忘却の淵に送ってくれる天国のような――翻って見れば麻薬のようなサイトなので、大変助かっているのである。
ポインタをすっと動かしてランキングをクリックし、日間ランキングを見る。
なにか面白い動画上がってねえかなあ、と思いながらページをスクロールすると、ランキング一位のサムネが目に入った。
サムネには暗黒の球体――動画タイトルを見ればわかるがブラックホールが映されており、そのタイトルは「MASAの職員がブラックホールを作れるか試してみた」とある。
タグには「ブラックホール」、「サムネブラックホール」、「これがホントのサムネブラックホール」、「サムネブラックホールボム」、「サムネブラックホールマイン」、などと書かれており、この動画が尋常でない求心力――及び吸引力を有していることが見て取れた。
(MASA――航空宇宙局の名前があるから信憑性があるように見えるけど、釣りの可能性もあるな……)
そう思い訝しみながら動画タイトルをクリックした。
その瞬間――。画面が紫色の混じった漆黒に変わり、液晶が水がうねるように歪み始めた。
「ちょ! おいおいおいおいなんだこれ……!」
とっさに立ち上がり、モニターから距離を取る。
その球体の中心は何かが渦巻いていて、風のようなものが吹き荒んでいるように見える。
と覗きこむように観察していると、球体がボンッ! という音ともに肥大化し、外側に風力を発生させ始めた。
「お、おい……! ま、まさかこれって……!」
と言い終わると同時にPCが吸い込まれた。次いで机が吸い込まれ始める。
「う、うそだろ……。これってほんとにブラックホー、――っ!」
そんなことを言っていたら体が引っ張られ始め、ようやく身の危険を直に感じ始めた。
どんどん大きくなっていくブラックホールから視線を外し、周りに目を向けると、ベッド、布団、ゴミ箱、テーブル、テレビ、ローボードとレコーダー、TS4、カーペットが、徐々に浮かび上がって動き始めていることに気づいた。
「……や、やべえ……!」
そう言って扉に体を向けると――
扉は視界に入ってこなかった。
なぜなら俺の体はすでに浮いていたから。
それに気づくと同時に徐々に景色が動き始めた。
(……ブラックホールに吸い込まれるとどうなるんだっけ? 超重力の圧でぺちゃんこになるんだっけ……?)
そう思い至った瞬間手足をばたつかせ始めたが、浮いた体はすでに横向きになって動き始めており、何の意味も成さなかった。
「だ、誰か! 誰かっ! 助け――」
ブラックホールに近づいたことで吸引力が増し、加速がついてもうダメだと思ったとき。
「おわあああああああああああああああああああああああああ――」
俺の意識は電源が切れたようにブラックアウトした。
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