第二章 vs.タブラ・スマラグディナ

一、彼女は至高の四十人を憎む

 ナザリックのNPCたちは、原則として全ての至高の御方々に忠誠を誓っている。


 己が創造主と、最後までナザリックに君臨してくれたモモンガことアインズに対してはとりわけ深い忠義を感じていることから、そこにある程度の差は出てくるにせよ、やはり四十一人全てを神のように崇めていることに変わりはない。


 原則として。

 すなわちそこには、例外もある。


 守護者統括 アルベド。

 こめかみからは山羊に似た角を、腰からは黒き翼を生やしたサキュバスだ。

 階層守護者において防御では他の追随を許さない性能を誇る。


 本来は「ビッチ」設定だったのだが、異世界転移前にモモンガが軽い気持ちで「モモンガを愛している」設定に変えてしまった。


 本人は自分が「ビッチ」だったことを覚えていない。


 書き換えられた設定は、その元のものが何だったのか、NPCたちにも分からなくなる。記憶を探れば出来事や事実は浮かぶし、現状に沿った形で思い起こせるものもあるが、そうでないものもある。


 今の己の感情が、いつから芽生えていたのかは分からない。


 それでもアルベドはたしかに、

 モモンガを除く至高の御方々を、殺したいほど憎んでいる。








 玉座の間。

 ナイトメア・カーニバルの始まり。

 足元が沈み込む感覚。周囲のシモベたちの昏睡。


 アルベドはすぐさま臨戦態勢を取ったが、敵の攻撃はない。

 そもそも気配がない。


 美しい顔には動揺の片鱗へんりんもなく。

 淡々と半透明の窓マスターソースを開き、そこに示されたナザリック内の情報を確認していく。

 全情報を精査するほどの余裕はあるまい。優先順位をつけ、いくつかのことは切り捨てて手早く進める。


 少なくとも、裏切り者はいない。

 階層守護者たちは目覚めている。


 デミウルゴスに『伝言メッセージ』を送った。

 出来る限り迅速に連携をとり、状況確認と情報共有を行いたかったのだ。


 しかし反応がない。


 アインズにも『伝言メッセージ』を送ることを考え、すぐさま却下する。

 もしも危険な状況であるならば、わずかなりともあの御方の集中を乱すわけにはいかない。


 急ぎあの御方のもとに参上しなければ。

 最強の盾として。


 漆黒の鎧を手早く身にまとう。

 装備をととのえ、いくつかのアイテムを携行けいこうする。

 その間にも、思考は目まぐるしく動く。


(シモベたちは眠らされた。けれどアインズ様と階層守護者は目覚めている……この結果の違いがレベル差によるものなら、セバスや桜花聖域のあの子が眠っていることの説明がつかない)


 目覚めている者はみな、世界級ワールドアイテムを所持していた。

 これが敵の攻撃を防いだ理由ならば、敵がシモベたちを眠らせた手段もまた世界級ワールドアイテムであった可能性が高い。


 推測出来ることは、それだけではない。

 少なくとも、もう一つ。

 確かとまでは言えないまでも、可能性が高いと認めるに足る仮説がある。


 アルベドの縦に割れた瞳孔が、糸のごとく細められる。


 敵が突如として、このナザリック内部に現れたという事実。

 あらゆる警戒網、あらゆる罠をかいくぐって?

 第一階層から馬鹿正直に順番に転移門をくぐってここまで下りてきた、というのはさすがにない。

 そこまでされて気付かないというのは、いくらなんでもあり得ない。


 転移が制限されているはずのこの拠点で、転移門以外の転移手段を利用して深層に達したとみなした方が、まだ納得がいく。


 転移制限を無視する転移アイテム、ないし能力?

 むろん、頭の片隅に想定しよう。

 睡眠無効のはずのシモベさえ眠らせるだけのアイテムや能力という、これもまたあり得なさそうなものに、やはりあり得なさそうな可能性を重ねることになるが、完全に除外するのも愚かしい。


 だが、『どんな不可能も可能にする』などという仮説よりも、

 もっとあり得そうな仮説がある。


 転移制限は効いている、と仮定しよう。

 このナザリックで転移門や罠を利用せず、階層間を縦断して転移するならば、通常の手段として考えられるものは……


 一つには、アインズが使用する魔法『転移門ゲート』。

 そしてもう一つは、アイテム『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』。


 今ではナザリックでも一部のシモベが所持しているが、外部に持ち出すことは許されていないもの。


 本来ならば、至高の御方々だけが所持を許されたもの。


 宝物殿に保管されている、ないしはシモベに与えられていたそれが、どういうわけか奪われたという仮定も成り立つ。


 だがその場合、いついかにして例の至宝を得たのかという問題が持ち上がる……

 と、考えている間に。


 仕度を済ませ、アインズから下賜されていた『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使用しようとした彼女は、周囲の景色が一ミリたりとも変化しないことに気付く。


 リングは使えなくなっている。

 何らかの方法によって。


 アルベドの口元が歪む。


 至高の御方々だけが本来所持するはずのアイテム。

 何らかの権限をもってその動作を制限することも、御方々ならば可能なのでは?


 認めよう。

 最もあり得そうな可能性。

 実にシンプルな結論。


 ナザリックの深層に突如として出現する。

 リングの力を制限する。

 シモベたちに不可解な作用を及ぼす。


 侵入者を未知の存在に設定するならば、あり得ないと思えることが。

 彼らのうちの誰かであったならば、拍子抜けするほど簡単になりそうだ。


 シモベたちを眠らせた何者かは、突如として現れた。

 たとえば、円卓の間に。

 いつもそうしていたように。

 いつも「りある」からそうしてナザリックへ帰還していたように。


 彼女はなんら留保なく、

 他のNPCたちのように無意識に考慮の枠外に置いてしまうことなく、

 その事実を受け入れた。


 アルベドは迷わずアインズのもとへ駆け、


 その途上、廊下の柱の陰よりぬっと姿を現した者に対して、驚きはしなかった。


 そうであってほしかったのか、

 それ以外の者であってほしかったのか、

 自分でも判然としないまま。


「久しぶり、アルベド」


 その姿は、醜悪。


 ぶくりと膨れた水死体のごとき身体に、タコの頭が付着したような奇怪な容姿を、ボンテージのようなもので覆っている。


 ブレインイーター、

 後衛、

 魔法職、

 通り名は『大錬金術師』。


「……タブラ・スマラグディナ様」


 鎧で隠された顔に、浮かぶ感情を押し殺し。

 冷静になろうと努め、その名を呼ぶ。


 頭では分かっている。

 油断させる方がいい。

 ほかのNPCたちのように、心からの歓迎を装って。

 相手を神と崇めているかのように――


 ぎしり、と噛みしめた奥歯が軋んだ。


 ……ふり、など。

 出来るだろうか。


 他の相手ならば。

 もっと別の状況だったなら。

 心の準備をする時間があれば。

 違っていたのかもしれない。


「……私たちを捨てるだけでは、ご満足いただけませんか」


 低く。

 押し殺した声で。

 アルベドは問うた。


 タブラは沈黙している。

 左に首を傾げる。


 ああ、そうだ。

 宝物殿に初めて入ったとき、パンドラズ・アクターが再現してみせた仕草。

 この御方の――くせ


 アルベドの設定を、あれこれと。頻繁ひんぱんに。身勝手に。

 書き換え。書き加え。削除し。また書き加えて、するときに。

 よく見せた、その仕草。


 覚えている。

 削除された自分、消された設定の自分の、何かが失われていく痛みとともに。

 新たに与えられた設定を身に染み込ませ、今度こそ満足いただかなくてはと使命感を募らせた。


 まだ、タブラ・スマラグディナを、

 己が創造主を、誰よりも愛していた頃の。


 愚かしい追憶と不可分の――


「今度は私たちを、壊しに来られたのですね」


 声が。

 ひび割れる。


 笑う。

 わらう。


「それでしたらもっと――もっと早くになさるべきでしたのに」


 捨てるよりも、壊してほしかった。

 捨てられた絶望が、少しずつ色を変えていく前に。


 愛したまま、壊されたかった。

 あなたがその手で破壊を選ぶなら、私は喜んで身を差し出しただろう。


 あなたが望むなら、自ら捨て駒となってナザリックを裏切り闘ったかもしれない。

 興味もなく放り出すのではなく、せめて――壊すだけの労を、いとわずにいて下さったなら。


 苦しかった。

 捨てられたと認めることが。

 あなたに愛されなかったと受け入れることが。


 ……ああでも、

 もう、苦しくないんです。タブラ様。

 だって私は、

 あなたを、あなた方を――欠片かけらも愛していない。


 アルベドは片手に軽々と武器を握り、構える。

 んだような緑色の微光を宿した巨大な斧頭を持つ武器バルディッシュ


 慈母のごとき微笑は亀裂きれつを含んで歪んでいる。


「死ね」


 疾風のごとく飛び出したアルベドは――

 視界からふっとタブラが消えたことに、驚き踏み留まる。


 アイテムか?

 スキル?


「ナイトメア・カーニバル」


 背後から聞こえた声に、はっとして向き直る。

 創造主は構えもせず、悠然ゆうぜんと触手をたゆたわせ、アルベドを見つめている。


 漆黒のカイトシールドを構え、またいざというときに備え、全身鎧にスキルをかける準備をする。


「今このナザリックで起きている物事の名称だよ」

「……ナイトメア・カーニバル……」


 警戒を深めながらも、周囲の状況に気を配る。


 頭に血が上りすぎている。

 タブラ以外に敵が潜んでいる可能性もあるのだ。


 この場を振り切り、アインズ様のもとに駆けつけなくては。

 あの御方の盾とならねばならない。


 だがその前に、情報を得られるなら得ておきたい。

 じりじりと後退しつつも、タブラを見据える。


 彼は悠然として、淡々と続ける。


「謝肉祭の呼び名は各国によって異なるんだ。カーニバル、カルナバル、カルネヴァーレといったものは、どれも同じインド・ヨーロッパ語族にある。ウラル語族にあたるハンガリーではファルシャングと呼ばれる。ドイツ語において前者に近いカーネヴァル、後者に近いファシングといった具合に複数の呼び名があるのは歴史的関連からいっても興味深いね」


 ……何を言っている?

 時間稼ぎ? 無意味な情報?

 分からない。そもそも知識にない固有名詞が多すぎる。


 タブラは前に出る。

 はっとして、とっさに迎撃スキルを準備。

 詠唱に入るようならば切り替えるが、無詠唱で使う魔法ならば、このスキルで十分だ、と計算して。


 だが、タブラは仕掛けてこない。

 のんびりとして、緊張感の欠片もなく。

 まるで講義でもするように。


「まあ同じインド・ヨーロッパ語族でも、北ゲルマン語群にあたるアイスランド語ではキョトクエズユハウティドと呼ぶんだけどね。まったく言語というものは奥が深いよ。出来ればこれらの語群がいかに枝分かれし発展してきたかについて調べたい」


「……くっ!」


 混乱を振り切るように、アルベドは動いた。

 めるなと言わんばかりに、しかしカウンターを警戒して細心の注意を払い、一撃を叩き込む。


 タブラは避けない。

 攻撃がすんなり入ったことで、かえってアルベドは不安を抱く。

 さっと後退し、防御に構える。


 常に防御と反撃を第一に考えて戦術を組み立ててしまう。

 それが彼女の強みであると同時に、弱みでもあった。


 タブラはまったく動じていない。

 アルベドの渾身の一撃を避けもせず。また回復しようともしない。

 何事もなかったかのように、一歩を進み出る。


 アルベドはびくりと身を震わせる。


 心の奥にうずきを覚える。

 この御方が何を考えているか分からない。


 幾度となく覚えた恐怖、

 この御方を愛していた頃から芽生えていたそれが、

 胸を覆っていく。


 タブラは一歩以上には進まない。

 腕を組み、初めて小さく、笑いのようなものをらす。


「にわか知識の蘊蓄うんちく講義ほど有害なものはない。でも思い付くと、記憶をたぐってあれこれ引っ張り出さずにはいられないんだ。困った性分だよ」


 アルベドは視線をさまよわせる。

 かぶとがその動揺を覆い隠してくれていることを祈る。


 なぜ、仕掛けてこない。


 タブラの装備は、かつてナザリックを去る前の最強装備ではない。

 戦闘準備が整っていない?

 ならば戦線を離脱しようと試みるはずではないのか。


 そもそも闘うつもりがない?

 ならば停戦を呼びかけてくるはずだ。


 勘違いだと、ナザリックに帰還しただけで敵対の意志はないと、それが嘘であれ真であれ、呼びかけることは有効だと――少なくとも試すだけの価値はあると、認めて当然ではないか。


 タブラが「さて」と切り出すので、アルベドは身構えた。

 だが無意味なことだった。


「カーニバルの語源には諸説ある。かつてローマ帝国内で話されていたという俗ラテン語で『carnem levare』、すなわち『肉を取り除く』とみなす説が一般的かな」


 講義、講義、講義。

 それはアルベドに目眩めまいを起こさせる。


 過去がフラッシュバックする。

 閉じ込めたはずの記憶に干渉し、共鳴する。


 思い出す。

 創られてから、捨てられるまでの。

 幾度となく繰り返された――


 破壊と創造、

 削除と更新、


(……いやだ)


 講義、講義、講義。

 設定を組み上げながら、

 絶え間なくぶつぶつと、

 垂れ流される蘊蓄うんちくの、

 すべてを拾い上げて、

 完璧に演じようとして。


「そもそもカーニバルとは何だったのか。

 たとえばこんな説がある。カーニバルは元々、キリスト教流入以前からのものであり、春の到来を祝うものだったって。その原初的な形態は実に野蛮だった。一週間におよぶ無礼講のお祭り騒ぎのあとに、それら狼藉ろうぜきの責任を大きなわら人形に押しつけ、火あぶりにしたんだ」


 講義、講義、講義。

 それが始まるたび、

 絶望が身を覆う。


 ああまた、私は私ではなくなる。

 別の私に造り替えられる。

 いまのこの私は、もうすぐ消える。


「根源の話を紐解ひもといていくのは時間がかかるな。問題設定がまずかったみたいだ。『元来カーニバルとは何だったのか』ではなく、『本来カーニバルとは何だったのか』にテーマを変更しよう」


「……っ、いい加減に……!」


 講義、講義、講義。

 求められるものはそのたび変わる。


 きっと失望させたからだ。

 タブラ様のお望みになるとおりに、在れなかった。


 今回も失敗、

 次こそはきっと。


 耳を傾け、

 必死に追いかける。


 どうか、どうか。

 今度こそは。


「本来カーニバルは、肉に別れを告げる宴だった。四旬節の断食の前に行うわけだから、まさに『肉を取り除く』宴だ。ドイツ語ではファストナハトとも呼ぶんだけど、これは『断食の前夜』という意味で、こっちの方が説明としてはすっきりするか」


「黙れえええぇぇっ!」


 叫びながら、

 アルベドは飛びかかる。


 脳裏に浮かぶ、いくつもの、

 消されたはずの自分たちの、悲しい絶望と、

 それでもすがり、愛されたいと訴える顔が、

 彼女の理性を吹き飛ばす。


「カーニバルの期間には地域差があったようだけど、基本的には一週間だったらしい。その最終日はたいてい火曜日だった。これを『肥沃な火曜日マルティグラ』と呼んだり、『告悔火曜日シュロブ・チューズデイ』と呼んだりした。最終日に告悔を行う習慣があったというから。そうそう、パンケーキ・デイという呼び名もあったらしい。最終日にパンケーキを食べる習慣があったんだ。これは四旬節に入る前に卵を残さないための習慣だったとか」


 攻撃は当たっているのに、

 タブラは避けようともしないのに、


 講義は続く。


 まるで再び、アルベドを造り替えようとするように、

 今のアルベドを否定して、新たにすげ替えようとするように。


「その翌日は灰の水曜日――Quadragesima四旬節の始まりだ。ローマカトリックが救世主メシアと呼んだ御子の復活を祝う祭りにいたるまでの四十六日間が幕を開ける。四旬は四十日だけど、ここでは日曜日を除くために六日おまけがつく」


 声に乱れはなくて、

 落ち着き払っていて、

 アルベドの抵抗など何でもないことのようで、

 取るに足りぬどころか、

 そもそも認識の範疇はんちゅうからさえ弾かれているのではないかと、

 

 不安、恐怖、焦燥、

 憎悪、敵意、殺意、

 その奥底で揺らめく、あのときの記憶。


 このナザリックを去られたはずの、タブラ様は。

 あの日、私のもとに戻られて。


『            』


 その言葉とともに、

 タブラ・スマラグディナは託したのだ。

 アルベドに、圧倒的な破壊力を持つ世界級ワールドアイテム――『真なる無ギンヌンガガプ』を。


 猛攻を仕掛けるアルベドは、

 しかし究極の武器たるそれを取り出さない。


 階層守護者の命よりも貴重なそのアイテムの価値ゆえに、ではない。

 そんな考慮をする余裕は、とうに失われている。


 タブラが少し身じろぎしたかと思えば、

 すかさず攻撃を中止して防御スキルの発動準備に入り、

 タブラがかすかに首を傾げた気がすれば、

 すぐさま退避を優先して盾を構え、


 いっさい攻撃を受けていないアルベドの方が、追い詰められている。


 それでも逃げ出したいと思わないのは、

 ……思えないのは、


 きっとそれが他でもない創造主、タブラ・スマラグディナだからで。


「四旬節は償いの期間でもある。祈り、断食、慈善を通して悔い改め、節制する。といって、これも時代によって地域によって変化は被ることになるんだけど……煩雑はんざつになるから今はおいておこう」


 ここにいたっても、なお。

 彼はアルベドになんら呼びかけを行わない。

 意図を明かさない。

 明かす必要も認めないというように。

 路傍ろぼうの雑草でも眺めるように。


 ……否。

 そうじゃない。


 タブラはアルベドを見ている。

 見つめている。

 観察するように。

 観測するように。

 かつてそうしていたように。

 まだアルベドが彼を愛していた頃のように。

 まだアルベドが彼に愛されていると信じていられた頃のように。


(……やめろ)


 アルベドの中で、心がきしむ。

 預けられた世界級ワールドアイテム。そのときかけられた言葉。

 記憶が、ゆがんでひずんで浮かんで回る。


 理解出来ない。

 何を考えているのか分からない。

 分からない分からない分からない分からない分からない分からない。


 どれだけ分かろうとしても、

 あの御方は手を差し伸べてくださらない。


 テストされ、

 見限られ、

 失望され、

 捨てられたはずではなかったのか。

 なのに、何故、


 あの日、


『            』


(……うるさい)

(忘れろ)

(忘れろ)

(忘れろ)


 慟哭どうこくは幾重に重なって。

 かつて失われ、消された設定の彼女たちが、

 いまここに在る彼女と共に、喚き叫ぶ。


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い愛しい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い愛しい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い愛しい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い愛しい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い愛しい憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い


 気付けば、

 彼女は左手に『真なる無ギンヌンガガプ』を――




 広範囲を薙ぎ払う暴虐の嵐が吹き抜けた。

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