第十八話 

 エレーナの停学は、その日の昼には全校生徒の知る所となっていた。竜也にも謹慎処分が下された。

 その理由は、竜也が女子更衣室に忍び込む様子が防犯水晶カメラに鮮明に映っていたからだった。


 竜也が、地下迷宮ダンジョン入口にある部屋のプレートを見上げている所……。左右を見回し用心しながら扉に近付いて行く所……。扉を数センチ開け、中の様子をうかがう所……。ゆっくり扉を開け、部屋の中に侵入する様子が明確に記録されていた。


 部屋に掲げられていたプレートが読めなかった事などは全部説明したのだが、謹慎処分は免れなかった。

 昼まで事情聴取を受け、こっぴどく怒られて竜也は解放された。今は宿直室で、謹慎処分中だ。一週間、図書室にさえ行く事は許されなかった。ブラッドウッド材の扉の鍵も没収されてしまった。


 エレーナは、夕刻になる今でも生徒指導室で反省させられている。彼女は相当精神的に参っている様子だった。停学は一週間。しかし彼女の思考からは退学という言葉が読み取れた。

 前回の停学の時に母親と何かあったらしい。絶望に囚われた心は、能天気な竜也の心をも汚染しかねない勢いで、漆黒の闇に飲み込まれていった。


 竜也は、宿直室の自分のベッドの上で、心配気にエレーナの心を読んでいた。あまりにも強い精神力の持ち主のエレーナは、滅多な事ではくじけない。しかし、竜也を召喚してからこの方、エレーナは想像を絶する受難の日々に精神を蝕まれ続け、ついにたがが外れてしまったのだろう。不屈の精神力の持ち主だけに崩れた後はもろいようだった。


 下校時間になり、やっと懲罰房と化した生徒指導室から解放されたエレーナは、人気の無くなった学院内を生気の無い足取りで歩いていた。


 いまだに地下迷宮ダンジョンでの戦闘訓練用の長衣ローブを着ている事に気付き、いったん女子更衣室に向かう。緩慢な動作で、制服である純白の長衣ローブに着替えて教室に戻る。すでに全員が帰路に付いているらしく教室の中も無人だった。


 自分の席に腰を下ろし、机上の模様の一点を身動みじろぎもせず見据え続ける。いつの間にか辺りは薄暗くなり始めていた。


 機械的な動作で席を立ち、そのまま教室を出る。二年生の教室、三年生の教室と通り越し、帰路に付くには階段を下りなければならないのだが、階段を上り始める。三階を通り越して屋上に出る。


 藍色の空が広がる禍時まがときは、魔の住人が活動を開始する時間帯だ。その禍時の狂気にいざなわれたかのようにエレーナは、屋上のフェンスを乗り越える。


 縁際に立ち、サラスナポスの町並みを見つめる。そこかしこに明かりが灯り、夕食を作る煙が細い糸となって中空に立ち上っていた。


 エレーナは、両手を左右に広げバランスを取りながら屋上の縁ギリギリの場所を歩き始めた。もし誰かがこの様子を見ていたとしたら、悲鳴を上げそうなほど危うい様子で歩を進めて行く。


 ちょうど校舎の反対側までやって来る。グラウンドには人影が無い。下校時間をかなり過ぎてしまっているので当然と言えば当然だった。


 そのままフラフラと危なげな様子で屋上の縁を一周する。

 再びサラスナポスの町並みが見えたと思った瞬間だった。エレーナは足を滑らせて屋上から転落してしまった。


 恐怖や悲しみ、未練といった感情は一切湧いてこなかった。自分が死ぬ事になんの感慨もなく、他人事のように遠ざかっていく空を眺めていた。


 急に睡魔にでも襲われたかのように眠くなり眼を閉じる。ただ眠るだけという感じでその感覚に身を任せる。


 地面に激突した衝撃にしては、随分と柔らかい衝撃に眼を開ける。のろのろと起き上がり自分の下敷きになっている者を見下ろす。


 竜也だった。彼はエレーナを受け止めようと、彼女の落下地点に身体を滑り込ませたのだ。無茶にも程があった。落下の衝撃は、竜也が全て肩代わりする形になっていた。地面に叩き付けられた彼は、瀕死ひんしの重傷である事は明らかだった。それでも上半身を起こそうともがいている。


「どうして……」


 エレーナが、いまだに上半身さえ起こせないで、もがいている竜也を見下ろしながら呟いた。


 どうして、という言葉には色々な意味が含まれていた。どうして居る場所が分かったのか……。どうして助けたのか……。


 竜也はエレーナの疑問に答えず、不撓ふとう不屈ふくつの精神で上半身を起こすと、何事か呟いた。


 しかし気管に血を詰まらせて、うまく言葉が発せられないでいた。

 それでも竜也の心は伝わって来た。命を投げ出そうとした自分への怒り、そしてその感情と同等の大きさで、優しさ、温かさが伝わって来た。


 エレーナの凍り付いた感情は、その熱で徐々に溶け始める。熱い涙が彼女の頬を伝って流れおちる。

 心の感覚が戻ってくると、慌てふためいて竜也の胸に手を当てて治癒魔法を唱える。


 竜也は、暖かい光に包まれて全身の痛みが引いて行く感覚に身を任せる。しかし、徐々に深い眠りに誘われるような感覚には抵抗し、意識をしっかりと保つために胸に当てられているエレーナの手を取ると、じっと彼女を見つめる。


 まだ、言葉を発する事は出来なかったが、ここまで追い詰めてしまった事に対して謝罪の心を伝える。


 エレーナは、竜也の瞳をじっと覗き込む。彼の心は痛い程に伝わってくる。言葉には言い表せない感情がこみ上げて来て涙が止まらなかった。


「私も……ごめんなさい……」


 嗚咽まじりに謝罪の言葉を口にする。凍り付いていた心が溶け、一気に感情が爆発するように頭の中を駆け巡る。


 エレーナは竜也に抱き付き、わあわあと声を上げて泣き出した。


 竜也はエレーナを抱き締め、髪をでてやりながら感情の高ぶりが収まるまで優しく見守っていた。


 —— いったいどれくらいの時間、二人は抱き合っていたのだろう。辺りは完全に闇に包まれ、エレーナが泣き止んでからも、しばらく二人は抱き合ったままだった。


 相手の思考は読めるので、何を考えているのかは分かっている。それと同時に自分の思考も読まれている筈なので、少し気まずい雰囲気になっているのだ。停学になった経緯いきさつを考えると非常にまずい。ぎこちない雰囲気で、どちらからともなく抱擁を解く。


 抱擁を解く間際にエレーナは、素早く竜也にキスをすると、赤面しながら顔を真横に背ける。


「これは、使い魔召喚の儀式の一環で、召喚した使い魔にキスをするっていう、最初にやらなきゃいけなかった儀式なんだからね!」


 —— ツンデレ……?


 竜也は、思わず心の中で突っ込みを入れる。言葉遣いまで砕けたものになっている。

 しかし言葉とは裏腹に、謝罪と感謝の気持ちが見て取れた。


 エレーナは、心を読まれている事に気付いたらしく、誤魔化すように慌てて立ち上がると、どもりながら早口でまくし立てる。


「お、女に沽券こけんは無いけど、私の名誉回復のお手伝いはしてもらいます。いいですね?」


 竜也も苦笑いを浮かべながら立ち上がる。


「僕にも責任があるからね。僕に出来る事は何だってするよ」


  竜也はこの後、何でもすると言ってしまった事を死ぬほど後悔するのだが、今は仲睦まじい雰囲気で他愛ないお喋りに興じていた。


 その様子を物陰から見つめる一つの影があった。ロベリアでは無かった。闇に紛れて物陰に潜むその男は、黒装束に身を包んでいた。二人の様子をじっとうかがうその男の目的がロベリアと異なる事は、携えられた短剣ダガーに見て取れた。


 エレーナと竜也は、手を繋いで聖堂と校舎の間の通路を歩いて行く。


「エレーナは気を張りすぎなんだよ。これからは、もっと肩の力を抜いて気楽に物事に取り組むようにした方が良いよ」


 エレーナは、竜也の肩に寄り添うようにしながら彼を見上げる。


「うん……。その代わり、私の肩にかかっている重荷を貴方も一緒に背負ってね」


 竜也は安請合いをしてしまう。エレーナが自殺を考える程の重圧だ。竜也のひ弱な身体に伸し掛かったら、ひとたまりも無く潰れてしまうだろう。


「がんばってね、私の勇者様」


 正門前までエレーナを見送りに出てきた竜也は、彼女の言葉にこれまで感じたことの無い充足感を覚えていた。彼女の為なら何だってやってやると言う気概が湧いてくる。


 エレーナは、名残惜しそうに繋いでいた手を放すと竜也から離れる。


 その瞬間だった。物陰から音も無く現れた黒装束の男は、竜也に向かって短剣ダガーを繰り出した。


 寸分違わず心臓めがけて繰り出された短剣ダガーに、竜也は眼を見開く事しか出来なかった。


 驚異的な反射神経の持ち主のエレーナでさえ、心臓への軌道をわずかに逸らせる事しか出来なかった。


 胸を貫かれて倒れていく竜也を、エレーナが受け止める。暗殺者が目の前に居るのも構わず、その男に背を向けると血が噴き出している竜也の胸に手を当てて治癒魔法を唱えようとする。


 男は魔法を妨害する為に、エレーナの肩をつかもうとした。しかし、その瞬間、背後に殺気を感じて大きく真横に飛び退る。


 男が今までいた場所に魔法の矢が通過していく。男は魔法の矢が飛来してきた方角へ向き直る。


 そこにはロベリアがたたずんでいた。ロベリアはチラリと竜也の様子を盗み見る。エレーナが何とか対処してくれているのを見て取ると男に向き直った。


 右手を頭上に掲げると、淡い緑色の輝きを放つ大剣が空間を割いて現れる。その大剣をつかみ取ると、重さを感じさせない勢いで大剣を振り回しながら構えを取る。


 男の後ろから、もう一人の人影が現れた。今日の当直当番で学院に残っていたサバティーだった。


 学院に不審者が侵入した事を防犯水晶カメラで察知したサバティーは、男の目的が何なのかを知る為に遠くから様子をうかがっていたのだ。男は学院に侵入すると聖堂裏に忍び込み何か様子を盗み見ている様だった。


 そこにエレーナと竜也とロベリアを発見する。ロベリアは隠密三魔法である【姿隠し】インビジビリティー忍び歩きスニーキング【消臭】デオドライザーで姿を隠していた。発見できたのは、使い魔であるサスケの敵探知能力のお蔭だった。


 男は二人を尾行して行き、正門前で犯行に及んだのだ。その驚愕きょうがくの素早さにサバティーは青ざめていた。


 エレーナと竜也の、どちらかを狙っている様であったが、不意を突かれたとはいえ、まさかエレーナ程の手練れが遅れを取るとは思ってもみなかったのだ。


 男はロベリアとサバティーを交互に見やり、その後で竜也の様子をうかがう。心臓をわずかに逸れているとはいえ、致命傷と言っても過言ではない傷を負わせている。いまエレーナの魔法を中断させるだけで、似非えせ勇者は完全に死に至るだろう事を見立てると、男はまたしても竜也に向かって踏み込んで行き短剣ダガーを繰り出した。


 エレーナは、自分の背後から顔のすぐ横を通過する短剣ダガーに、全く動揺することなく魔法の詠唱を続けていた。


 ロベリアが短剣ダガーを弾き飛ばす。弾かれた勢いで踏鞴たたらを踏んでいる男に追いすがり、大剣を振り下ろす。


 男は、短剣ダガーで受け流すと懐に飛び込む。

 カウンターで放たれたロベリアの回し蹴りを、更にカウンターで繰り出した肘で撃退する。


 男の肘がすねに思いっきりヒットしたにもかかわらず、ロベリアは全く体軸をぐらつかせることなくハイキックに繋げていく。


短剣ダガーを身体に突き刺すにはまだ距離もあるしハイキックに対応できなくなると見た男は、やむなく短剣ダガーを足に突き付けた。


 ロベリアは、器用に回し蹴りの角度を変えて短剣ダガーを避けると、回し蹴りの勢いで振り回した大剣を男へ叩き付けた。


 男はかろうじて短剣ダガーで受け止める。しかし大剣の勢いで吹っ飛ばされてしまう。


 その様子を竜也は、上半身を起こして戦慄せんりつしながら眺めていた。


 エレーナは、まだ竜也の胸に手を当てて魔法を唱えている。まだ魔法は途中の筈だ。それに魔法詠唱が最後まで行われたとしても、胸を貫かれる程のダメージで、すぐに動ける筈が無い。


 男は驚愕きょうがくの表情で竜也を見やる。暗殺は失敗したという事を悟る。


 男は踵を返すと逃走にかかる。しかし見えない壁にでもブチ当たったかのように何もない所で跳ね飛ばされた。


 サバティーの魔法だった。見えない障壁を作って逃走を妨害する。男が障壁に跳ね飛ばされてバランスを崩している隙に、魔法の槍を掲げ持つと男に向かって投げつけた。


 魔法の槍は男の心臓を寸分の狂いなく貫いた。男がその場に突っ伏すように倒れ込む。しかし、倒れ込んだのは黒装束の服を着込んだ木の人形だった。


 逃げられた事は、誰の目にも明らかだった。


「タツヤ殿、大丈夫ですか?」


 サバティーが竜也の元に駆け寄る。ロベリアもその後に続いていた。


 竜也は仰向けに寝転がっていた。起き上がろうともがいている所を、エレーナに押さえ付けられている様だった。


 何に興奮しているのか、サバティーには見当が付かなかった。


 やがて治癒魔法の詠唱が終わる。見た目だけなら傷跡も無くなっていた。


 竜也は、寝転がっている状態からロベリアの下乳を凝視ていた。彼女は今、学院の制服である純白の長衣ローブを着用している。


「間違いない! 地下迷宮ダンジョンで僕を助けてくれたおっぱいだ!」


 エレーナを筆頭に、全員の視線が軽蔑の眼差しになる。何に興奮しているのかと思えば、またこれだ。

 その冷たい視線を受けてなお竜也の心は熱くたぎっていた。


 竜也は、起き上がるとロベリアと対峙する。


「地下迷宮で僕を助けてくれたのは、ロベリアさんだよね?」

「知りません」


 ロベリアは冷たく言い放つ。


「その下乳が何よりの証拠だよ!」


 竜也は、したり顔でロベリアの胸を指差す。完璧な物的証拠とでも言いたげな口調に、さすがのロベリアも冷静ではいられなかった。


「な、何を言っているのですか!」


 赤面しつつ両手で胸をかき抱き、少しでも竜也の視線から逃れるように横を向く。


板金鎧プレートアーマの胸の部分は空洞だったとか考えられませんか? 私がエレーナさんの鎧を着る事は、胸がきつすぎて不可能ですが、エレーナさんが私の鎧を着る事は、可能なのですよ」


 サラリとひどい事を言う。


「僕は一言も、僕を助けてくれた人が板金鎧プレートアーマを着ていたなんて言ってないよ」


 ロベリアは、冷静さを失って墓穴を掘ってしまった事に気付く。


「地下迷宮で僕を助けてくれたのは、ロベリアさんだよね?」

「だったらどうなのですか?」


 ロベリアは不承不承認める。

 竜也は、ここで思考をフル回転させる。


「僕はあの時、僕にとって非常に重要な何かがあった……。いや、聞いたんだよ……」


 竜也はロベリアの胸を注視する。そこに真実が詰まっているとでも言うように……。


 氷点下にまで下がったエレーナの視線でさえ、今の竜也を止める事は出来なかった。


「そうだ! 確かロベリアさんは『ここはレベル1の者が来る所ではありません』って言ったよね?」

「それがなにか?」

「僕のレベルが正確に分かるって事は、僕と同じ世界から来たからじゃないの?」

「いいえ、違います」


 ロベリアは、いつもの調子に戻って無表情で答える。


「学院に常時来てないのは、ログアウトして現実世界に帰ってるからじゃないの?」

「ログアウトの意味が分かりません」

「じゃあ、右手人差し指を軽く振ってみてよ」

「何故ですか?」

「良いから振ってみてよ。振れないの?」


 ロベリアは黙り込んだ。


「右手人差し指を振ったら、メニュー画面が出ちゃうから振れないんだよね?」


 ロベリアは全くの無表情で、何のリアクションも返してこない。


「僕と同じ世界から来たという証拠も、実は目の前にあるんだよ」


 竜也は、ビシリとロベリアの胸を指差す。


「そのおっぱいが何よりの証拠だよ!」


 またしても、したり顔で言い放つ。

 意味が解らなかった。確固たる自信は何処から沸いて来るのか理解不能という表情で、ロベリアはエレーナに視線を送る。助けて欲しかった。


 エレーナは、もうこれはどうにもならない事を悟っていた。おっぱいの事となると竜也は止まらないのだ。


「この学院で一番大きなそのおっぱいは、パラメーターを操作して作り上げた物なんでしょう?」


 竜也の言葉は、もうロベリアの理解を超越していた。開いた口が塞がらなくなっていた。


「いや、規格外の大きさまで操作できるのはGM権限か……。もしかしてロベリアさんってGMなの?」


 ロベリアにはGMとは何なのか意味が解らなかった。その意味を聞こうと口を開きかけた瞬間、竜也の怒りが爆発した。


「どうしてキャラ作成時に、女性の胸の大きさは自由に設定出来たのに、男性のアレの大きさを変える設定は無かったの? おかげで僕は……」


 ロベリアは、気が遠くなっていく感覚を感じていた。竜也の声も遠ざかっていく。こんな男と思考を共有しなくてはならないエレーナを気の毒に思う。


「ねぇ、聞いてるの? この件は、ちゃんとクレームとして処理しといてよね!」


 ロベリアは卒倒しそうな身体にムチ打ってなんとか耐える。どうやら一瞬気を失ってしまったようだ。エレーナが同情の眼差しを向けて来る。


「まって下さい! GMとは何なのです? 私はそのGMとやらが何なのかさえ知らないのです」

「GMってゲームマスターの略だよ。ゲーム管理者? またはゲームサポートスタッフ? とかだよ」


 竜也自身も明確には分かっていない様だった。そして、そう説明されても全く意味が分からなかった。


「それに、もし本当に僕が異世界に召喚されたのだとしたら、何故チート能力とか無いの? ラノベとかだったら、まず間違いなく何かしら凄い能力を神様からもらったりするよね? 他の使い魔達はみんな特殊能力を持ってるのに、僕だけ持って無いってのも、おかし過ぎない?」

「タツヤ殿は、他に例のない異能を持っておられます。しかもユニークスキルとでも名付けられる程の物をお持ちです」


 竜也の顔が一瞬戸惑い、その後パッと輝く。


「本当? 僕はどんな能力を持ってるの?」


 ロベリアは少し言葉に詰まる。


「そのあまりの特異性の為、現在詳細を調査中です。この件はエレーナさんと相談しながら能力を伸ばして行こうと思っています」


 竜也は、内心でガッツポーズを作っていた。自分にも特殊能力があった事。しかも他に例のない異能という事だ。そしてエレーナの先程の言葉が脳内でリフレインする。


「がんばってね、私の勇者様」

「がんばってね、私の勇者様」

「がんばってね、私の勇者様」


 すべてにやる気が出てきた。


 ロベリアは、これ以上この男に係わるのはまずいと判断し、竜也の気が一瞬逸れた隙に逃げに掛かった。サバティーも何やら口実を作って逃げていった。


 —— よっしゃーっ! やってやるぜーっ!


 エレーナは、燃えている竜也を消火しようとしているかの如く、冷たい視線を竜也に向け続けていた。


「あれ? ロベリアさんは? サバティー先生は?」


 竜也は、つい先ほどまで周りに居た人影を探す。

 エレーナは、そんな竜也を見て、盛大に溜め息を吐いた。

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