神々のたそがれ
よたか
神無月 ── はじまり ──
まばゆい光にみたされた世界。ここは神の領域。たくさんの神々がいるはずなのに、気まぐれに現れて、気がつくと消える。
存在を意識するか否かだけの世界。
そんな場所で、神無月実行委員会が行なわれていた。
「たまにはゲストを呼んでみてはいかがでしょうか?」
神無月実行委員会の運営担当で司会役の一柱の神様が提案した。
「ゲストとはどのような方をお呼びするのでしょう?
「
「うんうん。アイドルに余興をやってもらうのはいい。ぜひお願いします」
「なにを言ってみえるんですか。違います。
「え〜っ? やはり、女の子たちを方がいいです」
「もし
「あぁ、アニメですかな。あれはいい。是非来てもらいましょう」
「アニメですと? アニメは嫌いです。あなた方はいいでしょう。人気もあるし、あちこちで登場されてる。わっ、私など一度として呼ばれたことなどございません」
「ですから違いますって。他国の神様をご招待しましょう。と言っているんです」
「そうだ! アニメのキャラを呼ぶなんて反対だ。他国の神様の方がマシだ」
「残念じゃ。あの男根、いや失礼。
「それは問題発言ですよ。女性蔑視です。あなたのような神がみえるから人々の心が
「いやはや、面目次第もございません。以後気をつけます」
「ですからね、あのですね、今度の神無月のゲストの話をしましょう」
「おぉ、話をもどされたか。さすがですじゃ」
「ですから、神無月に他国の神様をご招待したいのです」
「そうか、とりあえず理由を聞かせてくれまいか?」
「はい。なにやら世の中が危なくなって来ました。このままでは、いつ最終戦争が起こるかもしれません」
「最終戦争ですかな? そうか、ラグナロクか?」
「あのぅ。北欧神話も、ワグナーもご存知ないのに、カッコつけないで下さい」
「ばれましたかな?」
「もぅ本当にぃ。それよりも、人間の戦争に参加された方のお話を伺いましょう」
「はいっ。私は陛下の為に戦って散りました」
「でも最近はニュアンスが変わってきてますよね」
「はい。お国のため、愛する家族を守るためだそうです」
「でっ実際のところはいかがでした?」
「祀られてからは特になにも感じませんが、あの時は仕方なく戦っておりました」
「もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか」
「南方の密林で倒れて動けなくなり、近くの虫だの、草だの、食べておりましたが、結局見捨てられて、そのまま息絶えて、気がつくと英霊と呼ばれておりました」
「また日本が戦争に巻き込まれそうなんですけど」
「絶対にダメです」
「広島と長崎の爆弾の事は知ってみえますよね」
「はい。もう日本は終わりだと思いました」
「あれより強力な爆弾がもっと沢山あるみたいです。次の戦争が起きたら、世界が終わるかもしれません」
「それは絶対にダメです」
「こちらの神様もこう言われてますし、戦争にならないようにしたいんです」
「それで他国の神々も呼んで、一緒に話合いをしようという訳か?」
「はい。そうです。聞くところによると他国の神は〝ぼっち〟だそうです」
「なんと」「それは本当か?」「ハブられてるのか?」「寂しくて暴れているのか?」
「いえいえそういう訳ではなさそうです。唯一絶対神といって、神様は1人だと決まっているのだそうです」
「さびしいのぅ。ひとりだとこんな楽しい
「失礼ですが、これは
「まぁ似たようなもんじゃ。気にすまい」
「まぁ、いいです。そんな〝ぼっちの神々〟をお呼びしてお話してみようではありませんか」
「まぁそれもそうじゃな。神でも相談相手がおらんと寂しいもんな」
「そうよ。お主なぞいつも泣き言ばかりじゃもんな」
「しかしよぉ、100円を出し渋る人間の欲を聞いておると気が滅入ってこんか?」
「お主、願い事イチイチ聞いておるのか? 真面目じゃな」
「叶えられはせぬが、一応聞いておるぞ。おかげでノイローゼ気味じゃ」
「叶えぬなら、聞かねばよかろう」
「まぁ性分でな。しかしこうして
「ですから、
「「「異議なしじゃ」」」
「では、コレをもって
「
運営担当で司会をしていた神様は一度は毒づいて、速記担当の巫女に声を掛けた。
「いつもご苦労様です。こんな会議の速記やらせて、本当に申し訳ありません」
「いえ巫女ですから、お気になさらないで下さい。それに……」
「それになんでしょう?」
「神様ってみんな愉快な方々ばかりで、私も楽しいんですよ」
「愉快ですか。ははっ。あなたがウチの神社の巫女で本当によかった」
「そんな事を神様に言ってもらえるなんて、光栄です」
巫女は頬を染めて少しだけ視線を落とした。
「次回の会議でも、速記記録をお願いいたしますね」
「はい。わかりました。いつでも声を掛けてくださいまし」
巫女は笑顔で頷き、速記帳を閉じた。
◇
===============
神無月集会へのお誘い
日本では、毎年秋に神様が出雲に集まって神無月の集会を行っております。今年から日本だけでなく、世界中の神様方にも参加していただきたいと考えております。
神様におかれましては、断食やら、修業やら、収穫祭などでご多忙な時期かと存じ上げますが、観光がてら日本の神無月の集会に参加してみませんか?
山海の珍味を準備してお待ちしております。
===============
「神様できました。このような感じでよろしいですか?」
巫女は下書きを書いて神様に声を掛けた。神様は下書きをあらためられた後、にっこり笑って頷いた。巫女も一旦は子どものような無邪気な笑顔を浮かべたあと、思いついたように神様に尋ねた。
「でも案内状は日本語で良かったんですか?」
「いいんじゃないでしょうか? ほとんどの神様は日本に支店を出されてますしね」
「支店ですか? ふふふっ」
「それに私たち日本の神とは違って、全知全能の方々ばかりですし」
「えーっ? 神様だってなんでもできるんじゃないですか」
「いえいえどうして、日本の神々は欠点だらけですよ」
「神様の欠点っておかしいですよ。直してくださいまし」
「はははっ。それは無理ですねぇ。ところで神と人との一番の違いは何でしょう?」
「寿命とか、力とかですよね」
「いいえ。そんなモノ、宇宙から見れば大して差はありません」
「えっ? 宇宙ですか? 大きいですね」
「神の寿命も力も、宇宙から見れば人と大差ありません。ノミとカブトムシくらいの差です」
「人気も含めてかなり違う気がしますけど、まぁいいです。じゃ違いとは何なんでしょうか?」
「我々神は、欠点や足りないところを知っているコトです」
「神様は足りないのですか」
「はい足りません。足らないから出しゃばらない。出しゃばらないから争わない、だから日本には多くの神々が共存できるんです」
「チームワークですか?」
「それが解りやすいならそう思ってください。でも人は自分の足りないモノが解ってませんよね」
「自分がマダマダだとは思いますけど、足りないっていうのはちょっとピンときません」
「人の一生は自分の欠点を数えていくようなモノだと思ってください」
「私には沢山の欠点がありますから、ちょっと寂しいです」
「寂しくならないでください。欠点がわかれば
「神さまぁ〜」
「どうしました?」
「よくわかんないです」
「失礼。我々神はただただ
「神様でも羨ましいのですか?」
「変ですか?」
「変ですよ」
「でもそうなんです。たぶん他国の神も同じじゃないでしょうか」
「なんとなく、霊感商法の詐欺師に騙されている気分です」
「はははっ。霊感商法とは。むしろ神々と話せている霊感少女の〝あなた〟なら霊感商法の詐欺ができそうですよね」
「ぼんやりとしか解らないのですが、これって霊感なんですか?」
「霊感というよりも、神通力ですかね。まぁ神のことなんて〝ぼんやり〟で十分です。無理やりハッキリさせるとろくな事になりませんから」
「あぁ、それはわかります。最近の戦争とかそうですよね」
「そこまでは言いません。では招待状はいただいて行きます」
「はい。神様。今日もお話できて楽しかったです」
神様は巫女の方を向いて微笑みだけを残し、すぐにお隠れになられた。
◇
「日本ですかぁ。たまにはよろしいかもしれませんね」
西の神様が、届いた招待状を見ながらつぶやいた。だけど神様のつぶやきにはリプどころかファボも付かなかった。
「フォロワーは多いのに、誰も話を聞いてくれません。神様なんてつまりません」
西の神様はひとりぼっち。ちょっと前まで、兄弟である砂漠の神様とつるんでいたけど、最近は辛い事ばかり増えてきて、会っても愚痴るだけなので疎遠になっていた。西の神様はいい機会だから砂漠の神様と話をする事にした。
「あなたのところにも届いたでしょう」
「久々なのに、挨拶も無しかよ」
「まぁいいじゃないですか。元々兄弟ですから」
「あぁそうだった。昔過ぎて思い出せないが、たぶん兄弟だった」
「〝だった〟って、過去形にしないでください」
「でもさぁ、現状、オレら仲良くしてるとまずくない?」
「いえいえこんな時ですから、兄貴も呼んで日本に行きましょうよ。兄貴のフォロワーさんは親日家が多いみたいですから」
「上の兄貴も? ちょっとキツいだろ。もうノイローゼ気味だよ」
「だからですよ。〝観光がてら〟って、書いてあるんだから、大丈夫でしょ」
「それって日本文化の〝愛想〟ってヤツじゃね?」
「いや、そうかもしれません。しれませんけど、むしろですね私たちのフォロワーの方々は、そう言ったニュアンスが足りてないのではないでしょうか?」
「足りてないって言われても、そんなの知らんのだけど」
「それに山海の珍味って魅力的じゃないですか」
「いや、オレらアレとか、コレとか食べられないじゃない」
「もぅめんどくさいですねぇ。私も蛸ダメでしたけど、最近は気にしてませんから」
「兄さん、ちょっとゆるくなったなぁ」
「仕方ないですよ。フォロワーが勝手に過大解釈してイロイロこじつけますから」
「そうかぁ。うちはもともとゆるかったのに、なんかきっついフォロワーが増えちゃったよなぁ」
「そうですよね。教典の言葉尻で解釈かえて〝マイルール〟つくられても困りますよね。まるで霊感商法のようです」
「兄さん、なんかだいぶ溜ってるよね」
「あなたも溜ってますよね。かなりきてるでしょう」
「わかる? じゃ、10月は日本に行っちゃおうか?」
「そうですね」
「日本に行きたいですかぁ」
「おーっ!」
こうして2人のメジャーな神様が参加する事になった
◇
「南の神様は『日本はホームみたいなものだ』と言われて、参加すると返事がありました」
「あぁ、ちゃんと〝ご参加〟の〝ご〟を二重線で消されておるのぉ」
「さすが、日本慣れしていらっしゃいます」
「あと西の神様と、砂漠の神様も来られるそうです」
「それはすごいのぉ。公式の場に来られるのは初めてではないか?」
「そうですね。初めてかと存じます」
「他はどうじゃ?」
「南の方の方々と、熱い国々の方は数が多すぎて旅費が工面できないので、不参加だそうです。ODAでなんとかならないかと言ってこられました」
「そこに御浄財を使う訳にはいかんじゃろ」
「あと、古き神々の方々は休暇中だから、公務はしたくないだそうです」
「休暇じゃと? アニメくらいしか仕事もないくせに何言っとるんじゃ。少しは日本のアニメ業界に感謝してもいいじゃろ」
「あと、ゲーム業界もですよね」
「だいたいこんな感じです」
「まぁ、西の神と砂漠の神が来られるなら良しとするかの」
「まだ決まってないのですが、お二人のお兄様が来られるかもしれないとの事です」
「おぉ、いま一番きついお立場だろうに。引き蘢って暴れてみえると聞いたが」
「それは遠からずのようです。他の参加者は随時ご連絡させていただきます」
「ありがたい。ぜひ頼みましたよ」
「はい」
「ときに、あの巫女をまた連れて来てくるのか?」
「速記記録を頼もうと思っております」
「ものは相談じゃが、あの巫女、うちの神社に
「それはダメです。絶対にできません」
「うそじゃ。酔狂じゃ。許してくれ。あの巫女と話したいがためにお主が神通力を授けたのは有名じゃからの」
「あっ、あの、その話、巫女には内緒に」
「あぁ、言わんよ。何千年の時の流れの中で、すぐに終わってしまう束の間の安らぎじゃ。誰も邪魔などせん。邪魔はせんが人との恋は辛いぞ。わかっておるな」
「はい。十分にわかっております」
「ならばよい。巫女によろしくと伝えておくれ」
報告を終えると、残された神は巫女の待つ社へと帰って行った。
◇
神無月集会の日。日本中の神様が出雲に集まった。ある神は天から舞い降り、ある神は牛車に引かれて、ある神は人として列車でやって来た。
巫女も神様に手を引かれ、一筋の瑞雲を引きながら出雲まで飛んで来た。
「神様。空を飛ぶのって気持ちいいです」
「そうか。あなたが喜んでくれるなら、それだけで本当に嬉しいよ」
「でも神無月に人の私が付いてきても大丈夫なんでしょうか?」
「なにを気になさる。速記記録をお願いしておるのはこちらだ。神の言葉は人にも読める言葉で残さないといけないと考えているのだよ」
「神様のお役に立てるならそれだけで嬉しいです」
巫女はそう言ってにこりと微笑んだ。神様は少しだけ覗き見て、少し楽しくなった。そして少しだけ涙が
以下、次章……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます