人魚の雫

さくら

プロローグ


 海岸から少し離れた小さな洞窟の奥に、その少女はいた。

鎖に四肢を繋がれ、遠くへ行けないようにとどめられている。

その暗い洞窟の中で、少女の目から零れるなみだだけが光っている。

腕に取り付けられた注射器は決まった時間に少女の血を吸い取る。

痛々しい身体に涕が染み、少女は短く呻いた。


いつもであれば、その呻き以外の声は聞こえはしない。

しかし、その洞窟の入口に這い上がる者がいた。

初めての来客だ。


 這い上がってきたのは少年だった。

苦しそうに水を吐きながらむせている。

大方の水を吐き終えて少年はゆっくりと立ち上がる。

後ろには大波の海。前に続く道を歩むしかなかった。


 足音に少女は深く瞑っていた瞳を緩やかに開き、暗闇の入口の方を見やる。


「……誰?」


 少女の疲れ切った声でも、その静寂な洞窟には響くものだ。

 少年と、少女。

互いに驚いて見開いた顔が、瞳に映り合う。


 それが少年と少女の出会いだった。






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