104G.ノーマター ジャスト・レディ・ゴー

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 天の川銀河、スキュータム・流域ライン

 共和国圏、デリジェント星系グループ本星『ヴァーチェル』。

 コア・コラプション・クエーサー社研究都市。


 飾り気も面白味も無い白い建造物が、無数に並ぶ広大な区画エリア

 ところどころで黒煙が上がり小規模な爆発も起こっているが、それ以外に動く物はほとんど見られない。

 都市の災害対応セーフガードシステムによる無人機ドローンが活動している程度だ。


 その中心部、最も高い段々に高さを増すビルの足下から、ローグ大隊のヒト型機動兵器、ボムフロッグが地下へ進入していた。

 ビル、施設の中央棟直下には、大規模な搬入口が存在する。

 全高15メートル台のエイムも入り込める広大な空間で、大型車両や重ねられたコンテナなどが大量に置かれていた。

 ローグ大隊は、ここから要救助者と重要な機材を運び出す手筈になっていた。


「作戦時間は30分だ! 全員降下艇に押し込んで送り出せ! この場の責任者は!?」


 歩行する灰白色に青のエイムが、胸部装甲を開きコクピットハッチを開放する。

 そこから飛び出す赤毛のオペレーターは、施設内の通信網を使い人物の呼び出しをかけていた。

 相手は、避難住民と残された社員をまとめているという、コア・コラプション・クエーサー社の資材管理部部長だ。

 60代の痩せ形、プロエリウムの男性で、畑違いなのに成り行きで後始末を押し付けられる形となった不運な事務職である。


「わ、私です! CCC社MM部のキーン=ウェイです! よく来てくれました!!」


 通信と同時に姿を現した社員は、ビジネススーツも大分くたびれていた。

 星系全域が敵に覆われ、その上に大勢の人間の命を預かる重責を突然背負わされたら当然と思われる。

 周囲を固めている船外活動EVAスーツ姿の保安部員も、どこかホッとした様子だった。


「すぐに全員乗せてください! 上の船団もいつまで宙域を確保できるか分かりません! 降下艇の定数いっぱいに乗ったらどんどん送り出して! ローグは避難誘導を手伝え! 邪魔になる奴は構わんから排除しろ!!」


 レーザーライフルで武装したローグの兵士を引き連れ、赤毛の大隊長も責任者の痩せたおじさん部長の方へ駆け寄る。

 言われるまでもないと、すぐ近くで待機していた人々へ呼びかける不遇の管理職。

 すると、エイム同様に着地してきた降下艇へと、大勢の人間が勢いよく群がって行った。


「もう乗らないぞ! 別のに乗れ!!」

「他のに乗れよ! 他にも船あるだろうが!!」

「家族なの一緒に乗せて!!」

「もういっぱいだろ! 早く飛べよ!!」

「こんな船で本当に大丈夫なのか!?」


 無数の避難してきた人々が、複数のドアから溢れ出している。

 重力圏と真空中を行き来する降下艇は、十分な・・・数が用意されているはずだった。

 1機あたり20人程度が乗るシャトルから、詰め込めば2~300人は運べそうな輸送機、完全に貨物用であるコンテナを抱えた貨物機まで。

 いずれも共和国政府が用意した物だ。


 一刻も早く逃げ出したい社員や惑星住民の混乱振りは相当なモノで、群衆整理をする保安部員やローグのチンピラ兵士は大分押され気味だった。

 それでもどうにか降下艇を送り出したのを確認し、唯理はもう一方の仕事を進めようとする。


「共和国政府からは機材も持ち出せという話でしたが?」


「え? え、ええ、最優先はデウ――――あ、いえ、研究データのクローズドサーバーと、次がその関連機器……。とはいえ時間も限られてますから、持ち出せる分だけ持ち出せとの指示を受けていますが…………」


「積み込みはそちらだけで? 手が足りないならこちらからエイムを出しますが」


「は……それはありがたいのですが……。その、脱出できるのは何人程度になりそうでしょうか?」


 共和国政府からは、ヒト以外に物も回収するよう要請されている。

 とはいえその辺は機密が関わるらしく、詳細は唯理も聞いていない。

 具体的な作業と運ぶ機材については、現地の担当者である資材管理MM部部長に問わねばならなかった。


 ところが、その苦労してそうなお疲れ気味社員から出る、不穏な科白セリフ


「残り20分、全員を回収する予定ですが」


「は!? え、いえ、ですがー……このペースで残り20分で、約100万人を救出するのは難しいかと、素人目には…………」


「…………100万ときたか」


 赤毛は心底からのしかめっツラになった。共和国政府から聞いた話と全然違う。

 何が『取り残された人数は5,000人程度と思われる』だ200倍とかサバ読み過ぎだろふざけやがって。

 あるいは、重要なのは機材だけで、ヒトの方は人命救助という姿勢ポーズだけのつもりなのか。それとも、悪意ではなく杜撰ずさんな人数管理の賜物か。

 ある程度人数が少なく見積もられるのは予想されていたが、ここまでとは想定外である。


『「100万」!? 100万っつったか!?』

『全然話が違うじゃねーかよ!? 100機そこそこのボートじゃ足りねーだろ!!?』

『おいどうすんだ隊長!? このまま続けてイイのかよ!!?』


 エイムで混雑の整理にあたっていたローグの兵士達も、流石にあまりの事に動揺していた。

 どれほど強力な船団の援護があっても、星系全体がメナスの巣窟。それに現在も、ローグの第2、第3、第4中隊がメナスと交戦中だ。

 長居したい場所じゃない。


 だが、今回の作戦で用意された降下艇は、約100機。

 30分で1万人という、当初想定されていた要救助者の2倍を収容出来る体制を整えてきたが、実際にはそれどころではなかった、と。

 単純に50時間かかるとなれば、チンピラだって焦りはじめて当然である。


「全員落ち着け。作戦行動を継続しろ」


 無理やり乗り込もうとする人々を振り払うようにして、また1機降下艇が飛び立っていった。

 赤毛の隊長は、やっぱり問題が起こった、と思いながらローグに命令を念押しし、かぶりを振って船団長に通信を繋ぐ。


『多少の人数の違いはあると思っていたが、やってくれたなビッグブラザーも。5,000人と100万人じゃえらい違いだ』


『そちらの状況はどうです? 船団内のクルーの状態は?』


『メナスの迎撃は問題なく継続しているが、やはり緊張のせいかヒューマンエラーが目立ってきている。ここに来て前提条件の変更は少々良くないな。

 メナスの方も前後6惑星圏内の艦隊が集結中。シミュレーションでは12時間でこちらの防御容量を超える。

 しかし……やはりこれはプランBか?』


『一応共和国側の言い分け……はイイとして、判断を聞いておきたいところですね。プランBに切り替えるのは既定路線にしても、その後の救助したヒト達の対応が違って来ますから』


『了解した、そっちの交渉は進めておく。だがユイリ、100万は流石に船を打ち上げる・・・・・・・にしてもキャパオーバーじゃないか?』


『出来るだけやりますし、ダメなら「C」に移行でよろしく。あと共和国に文句言っといてください』


 軌道上のキングダム船団は無事だが、旗艦フォルテッツァをはじめとする超高性能戦闘艦を以ってしても、予断を許さない状況らしい。

 だが、こうなる事も予測して訓練など準備していたのが、不幸中の幸い。

 まだ僅か12hながら時間があり、唯理と船団長は速やかに計画を変更する事とした。


「R001からローグ全隊に通達! 18分後に計画をBに変更する! 第2から第4中隊はLZ-02の防衛に移行しろ! 第5中隊はここで要救助者を警護! 第1中隊は地下ルートから建造ドッグへ向かい現場を確保する!!」


 追加の命令に、再び仰天させられるローグ大隊チンピラ諸氏。

 そこに疑問が差し挟まれる前に、赤毛の隊長は計画に従い下準備を急ぐ事とした。

 また、100万人という予想外の人数に対応する為、B計画にもアレンジが必要となる。


「ファン、造船ドッグへのルートスキャンを。ローガン、中隊を集めて整列!」


「は、はい! 了解しました!!」


「おい隊長!? 『B』ってなんだ!?」

「『B』って確かエイム無しの侵攻制圧作戦だろ!? ここでやるのか!!?」

「造船ドッグなんて確保して何するんだよ!!?」


 部下のチンピラどもを無視したまま、唯理は資材管理部長に必要な情報の確認を取る。


 研究都市の設備は戦闘による破壊も含め好きにしてよい、という承諾は、事前に共和国政府から得ていた。無論、回収する機材を除く、という事になるが。

 故に、地下にある造船施設と放置された試作宇宙船も、自由に使って問題ないという理屈だ。


 そしてもうひとつ必要になるのが、緊急に船を改造する為の人員という事になる。


               ◇


 ローグ大隊第1中隊。5個小隊、35個分隊、定数は200名で構成されていた。

 研究都市には、地上と同規模の施設が地下にも存在している。地表を挟んで合わせ鏡のように、地下構造体が広がっているのだ。


 第1中隊は分隊ごとに区画エリアの安全を確保しつつ、東側へ進行していた。

 閉塞的な金属の空間、薄暗い照明の通路、一面の窓の向こうで無音の自動機械が動いている、そんな中で各隊は静かに行動を続けている。

 それなりに訓練の成果が出ていた。

 第1中隊のチンピラどもにしてみれば、無人の施設内で警戒体勢を取りながら、部隊移動する意味が不明だったが。


「無人の警備システムが生きている可能性もあるし、メナスの勢力下じゃいつ遭遇するか分からないって言っただろ。

 余計な事考えてないで任務と目の前に集中しろ」


「そうは言ってもなぁ……施設のシステムはマスターコードで掌握してるし、メナスなんて出てきた時点でエイム無しじゃどうにもならねーだろうがよ…………」


 十字の通路に出ると、赤毛の隊長は命令を口には出さず、ハンドサインで2分隊を左右に行かせる。この辺も訓練で仕込んだ。

 ブツブツ言いながらも、中隊長ローガンは自分の分隊を引き連れ、先にある分岐路まで小走りで前進。

 ローグの兵たちはレーザーライフルを周辺に向け、脅威が無いのを確認する。

 一端の部隊行動も、それなりに板に付いていた。

 このような状況を想定して、唯理は訓練を重ねている。


 もっとも、共和国政府と企業に余計なアクションを起こさないよう、想定されたこの状況に関しては、大隊に伝えていない赤毛娘であったが。

 いざという時に命令どおりに動ければ、兵士はそれで良いのである。


「ローガン、エンジニアの保護は」


「11ファーストより11ゴールド、ホイッスラー、そっちの客は問題無いか?」


『11ゴールド、ホイッスラーより11ファースト、ローガン。こっちはなんもねぇ。なんだぁ? こりゃ施設見学かぁ?』


『11グリーン、訓練みたいに撃たれねぇから気楽なもんだ。セキュリティボットとか念の為に撃っていいかぁ』


『11オスカー、偵察ならその辺のボットをいただいて先に送り込もうぜ。てか……この辺全部放棄かよ。もったいねぇな』


『11メトロ、バードより中隊長殿ローガンへ、大隊長殿にその辺のデータカード拾って良いか聞いてくれ』


『001大隊長から第1中隊へ、集中しろと言ったぞ』


 第1中隊には、要救助者の中から募った研究都市の技術者も護衛させていた。

 唯理がその安否確認をさせたら、途端に無駄話で通信帯域がいっぱいになる有様。

 すぐに黙らせる大隊長であったが、隊に広がる緩んだ空気に良くない予感を覚えていた。


 メナスの制圧下にある為か、センサーによる走査スキャンも不調で、危険な状況である事に変わりないというのに。


                ◇


 B計画プランB

 惑星『ヴァーチェル』からの要救助者救出に際し、問題が発生した場合に備えた予備計画だ。


 前述の通り、キングダム船団の首脳部ブリッジは、共和国政府と支配企業ビッグブラザーから与えられた情報の全てが正しいとは考えていなかった。

 故意にせよ不可抗力にせよ、不測の事態というのは発生し得る。

 そこで、通常の降下艇を用いる救出手段以外にも、脱出の方法を考えておこうという話になっていたのだ。


 その方法というのが、CCC社研究都市内にある艤装開発ドッグ内の試作宇宙船を用いる、というモノである。

 CCC社は造船部門を持ち、日夜最新型の宇宙船とその装備を研究開発していた。

 当然その為の設備、つまり実物の宇宙船を建造する能力を持つワケで、現在も地下ドッグに12隻ばかりの船が放置されているのだ。

 案の定、救助人数が事前の説明と全然違うという事態になったので、これに100万人を乗せ併設された打ち上げ施設から宇宙に飛ばそう、というのがB計画プランBのザックリとした概要になる。


 とはいえ、未完成の宇宙船に100万人全てを乗せられるかは全く不明であり、それを可能とする為に土壇場での船の改修が必要となった。

 現場の指揮官、つまり唯理が急遽エンジニアを集めたのは、そういうワケだ。


 なお、25隻の超高性能宇宙船であれば重力圏内にも降下できるが、それがメナスとの交戦に欠かせない存在であるのは言うまでもない。

 下ろさざるを得ないにしても、それはB計画でダメだった場合のみ。

 要するに次の計画プランCで、という事になる。


               ◇


 いくつかのドアが閉鎖されていたものの、ロリ巨乳レイダーの技術スキルもあって、中隊は問題無く前進する事が出来た。

 ロックを外して防災隔壁ブラストドアを解放すると、そこから通路の色や構造レイアウトが変わってくる。

 そこから更に進むと、地下とは思えないほど広大な空間に出た。

 そこは、峡谷と言って良いほどの深さがあり、肉眼では端まで見るのも一苦労な幅と奥行きのある空洞だ。

 そして無数のクレーンや足場に囲まれるようにして、建造途中の大型宇宙船が何隻も鎮座していた。

 避難に適した大型輸送艦も、その中に含まれる。


 だが、その場所に足を踏み入れた瞬間、唯理は自分の嫌な予感が確信のレベルにまで高まるのを感じ、


『R311から001へ、現在第3中隊はマスドライバー区ガンシップ格納庫で待機中。なんだがー……この辺のECMの発生地点を絞り込んだら、どうもその造船ドッグらしいんだが』


「ローガン! 全員に警戒態勢を取らせろ! 何かいるぞ!!」


『ハァ!? 「何か」ってなに――――――――!!?』


 外で警戒中の第3中隊からの報告と、赤毛の大隊長の命令、それに異常事態の発生はほぼ同時だった。


 天井のハリ付近からゆるゆると降下して来る、複数個の奇妙な造形の物体。

 それは、全長3メートル前後。

 全体に比して長い昆虫類に似た3本の脚部に、2本の腕部、殻を背負ったような頭部一体型の胴体。

 その胴体の下から前足のように突き出された、細い2本の砲身。

 何より特徴的なのが、装甲の隙間や胴体中央の目らしきアナから漏れ出す、暗緑色の光。


「まさかコイツ……メナスか!!?」

「クソが出やがった!?」

「こんなヤツ知らねーぞ!!」


 これまで誰も遭遇した事のない、エイムよりヒトの方に近いサイズのメナスだった。


 そんなモノが突然目の前に現れ、度肝を抜かれるローグ第1中隊。

 しかしそれでも、地獄の訓練により刷り込まれた習性が、即座に兵士たちを応戦させる。


「分隊は散開しろ! 各個に応戦! 周囲に警戒しろまだいるぞ!!」

「チクショウこっちにもいた! エネミーコンタクト! 141交戦する!!」

「115は通路に引っ込んで援護しろ! ケツにも警戒!!」


 対人型とでも言うべきメナスが、前足の銃身から荷電粒子弾を放つ。

 壁面に着弾し高温の粒子がまき散らされるが、ローグの兵士は怯えるでもなく一心不乱に走っていた。

 施設の制御室のひとつに走り込む第2小隊第7分隊は、そこを防御陣地に使い応射を開始。

 タイミングを合わせ、分隊の6人が一斉にレーザーライフルを発砲する。


「外の連中は入って来れねーのか!?」

「施設自体封鎖されてやがる! こっちから開けねーと!!」

「んな暇ねーぞ!!」


 クラゲのように浮遊しながら、対人メナスは荷電粒子弾を撃ち続けていた。

 置かれていた電源ボックスが吹き飛ばされ、身を隠していたローグのところにまで爆風が飛んでくる。船外活動EVAスーツのおかげで負傷する事もないが。

 レーザーで撃ち返すも、一撃でメナスを落とすには至らない。エネルギーシールドに拡散させられているのだ。

 造船施設の外で待機中のエイムに処理させたいが、完全に閉鎖されているので外部からの侵入は不可能。

 それこそ、人間サイズの兵器でもなければ、入り込めないのだろう。


 空中から大隊を狙い撃つ高脚メナス、その数8体。

 レーザーはメナスに対して決定打にならず、展開は一方的なモノとなっている、ように見えた。


 ところが、第1中隊もやられっ放しのままではない。

 視界ゼロの砂嵐の中、向かう先から飛んでくるプラズマ弾を相手に絶望的な訓練に臨んでいた経験は伊達ではないのだ。


「叩け叩け! シールド落としてやれ!!」

「133! そっちからマーク4のケツが狙える!!」

「151、152分隊! ターゲットマーク2に集中砲火! 3! 2! 1! 撃て撃て撃て!!」


 粘る中隊はすきあらば火力を集め、対人メナスへのダメージを積み重ねる。

 気が付けばメナスは包囲される形となっており、攻撃の目先を変えては背後を分隊のどれかに突かれるという状態だった。


 しかも今回は訓練とは異なり、歩兵ローグだけではなく専門家部隊ラビットファイアも同行している。

 機械であるメナスにウェブネット・レイダー、ファクション=テクニカの電子攻撃ECMは非常に有効に働き、更に赤毛の大隊長のレールガンが対人メナスを穴だらけにした。


「ウォう……敵にしても味方にしてもおっかねぇ隊長殿だなオイ」


「……レールガンか? この前みたいな事もあるし、俺も予備に一挺ぶら下げとくかな…………」


 ローグが拮抗させている横から赤毛の部隊がぶん殴っていく事で、対人メナスもやがて圧倒されていく。

 15分ほどで最後のメナスも撃ち落とされ、造船ドッグ全体を確保する事が出来た。


 とはいえ、それで一息吐いている場合ではない。

 急がなければならないのは、ここからである。


「ローガン、お前の小隊ともう1小隊は引き続きメナスを警戒、他は作業を支援させろ。ファン、ここの設備のコントロールを掌握、サラ、メイとジョーを連れてマシンヘッドを調達して待機」


 第1中隊の隊長と直属の部下たちに指示を出す大隊長。

 その時、死んだフリか一時的に機能停止しただけなのか、墜落していた対人メナスが突然浮き上がった。

 念を入れて破壊しておこうとした寸前、赤毛の少女の科白セリフに気を取られた、一瞬の狭間。


「隊ちょ――――――――!?」

「おい危ない――――――――!!」


 咄嗟に叫ぶローグの兵士とラビットファイアの隊員だが、既にメナスの銃口は光を灯して唯理の方へと向けられており、


「ヒュッ……!!」


 ドドンッ! と。


 赤毛の少女は、肩のホルスターからハンドレールガンを抜き撃ち一閃、メナスのド真ん中をブチ抜く。

 しかもそれだけに終わらせず、距離を詰めながら立て続けに2発発砲。

 最後に前蹴りを叩き付け、蹴倒したところで至近距離からレールガンの連射でトドメを刺した。


「キングダム船団がこの上に戻って来るまで、あと10時間半! それまでに船を改造し100万人を詰め込んで軌道上に打ち上げるぞ!!」


 そんな惨状をまるで無かったかのように、さっさとメナスに背を向ける赤毛の大隊長殿は、ローグのチンピラどもと連れて来られた作業員のヒト達へ拳を突き出し激を飛ばす。

 一連の流れを見ていた者たちは、『おぉー』と無条件に応える以外、成す術を持たなかった。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・降下艇

 重力圏内で破綻なく飛行できる宇宙船の呼称。

 重力制御は船体が大型になるほど自重と重力とのバランスを取るのが難しくなる為、必然的に小型となる。


・クローズド・サーバー

 データ保護を最優先にしたデータサーバー。

 ネットワークから隔離されているのは無論のこと、現場にいる人間にもアクセスできない場合が多い。

 企業幹部や役員しかアクセスできない、自動で情報を集め続けるブラックボックス。


・ヒューマンエラー

 操作上における人的ミス。

 どれほど機械と技術が発達しても、扱うのが人間である以上ミスは無くならない。


・防御容量

 敵性脅威を迎撃し得る、自身の防御能力。

 これを上回る攻撃を受けると、致命的な損害を負う事となる。




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