87G.ビューティービースト アーキテクチャ

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 ノマド『ローグ』船団。

 60万隻という大船団にコバンザメの様に張り付く115隻の小船団は、今はその内部も静まり返っていた。

 台風一過というヤツだ。

 約30時間前、ローグ船団は旗船フラグシップをはじめ、多くの船に強制捜査ガサいれをかけられていた。

 キングダム船団への不法行為に関し、その容疑者を軒並み引っ張られて行かれたのだ。


「だからって強制排除パージなんて事にはならねーよ。そんな事に意味もねぇ。もし連中がこっちを切り捨てようってなら、その時はこっちも勝手にやるだけ・・・・・・・だ。なあ?」


 そんなキングダム船団と自警団ヴィジランテの追及を逃れたチンピラ達が、溜まり場に集まっていた。

 非常灯しかいていない格納庫の、制御室コントロールルーム。斜めにり出した窓からは、ゴチャゴチャと難民キャンプのように密集した簡易小屋の屋根が良く見える。

 そこは、ローグ船団の主要グループが用いる、アジトのような場所だった。


 その場には、見た目でも特にガラの悪いのが集まっていた。

 アゴにドクロの刺青を入れたスキンヘッドのマッチョ。ナイフのように鋭利な単眼の痩せ型モヒカン。金髪を逆立てたタンクトップのグラサン男。小柄ながら鍛えられた体躯の坊主頭。背中から頭にかけ金属剥き出しなサイボーグ。カラダの要所しか隠してない怠惰な雰囲気のグラマラス美女。青い肌に全身刺青の長髪イケメン。その他。

 例外なく、一癖以上のモノを持っているエリートチンピラどもだ。


 他のチンピラと違い、この場にいる者は電子ツールを用いるなどして、犯行への関与を隠していた。

 後先考えずに暴れるバカなど、要領良くやる者の隠れ蓑でしかない。

 他の乗員とキングダムの自警団ヴィジランテが大騒ぎしているのを、溜まり場のチンピラどもはニヤニヤ笑いながら高みの見物をしていたのである。


『キングダム船団の中が冷めるまでは、露骨にやるのは控えろよ。あの船団長は甘ちゃんだが馬鹿じゃない。必要に迫られれば容赦なく実行力のある手を打ってくるタイプだ』


 映像通信で小言をいうのは、ローグ船団長の黒髪に黒アゴヒゲの男だった。

 キングダムの船団長には常に小馬鹿にした薄笑いを見せていたが、チンピラ達へはまた別種の軽薄な笑みを浮かべている。

 船団長もこの場の連中の仲間であり、たまたまその役割を割り振られているだけ、という事だ。


 キングダム船団はめられていた。

 自由船団ノマドはその性質上、過度な規制や法的強制行為を行わないのが基本的な運営指針となる。

 現代の惑星国家に見る強権的な支配を拒否したからこそ、人々は宇宙に出て船団を作ったのだ。そこで再び法や秩序でガチガチに縛っては意味が無い。

 キングダム船団は比較的船団規則パブリックオーダーに厳しいノマドだが、それでも船団の乗員クルー、そして参加する者の自由と選択を最大限尊重している。

 そこにどんな問題が発生しようと、守るべき最後の一線だ。

 それこそが、キングダム船団の意思である。


 そして、ローグ船団という寄生虫は、その類稀たぐいまれな忍耐に付け入るのだ。 

 例えローグ船団相手でも、強制排除パージという手段は自由船団ノマドとして外聞が悪い。ノマドを嫌う惑星国家が攻撃の口実にも使いかねない。

 また、ローグ船団の性質を考えれば、強制執行の際に暴力を伴う衝突となるのは自明の理だろう。先の容疑者拘束の時以上の騒ぎになる。

 キングダム船団側も、最後の手段とするはずだ。


 これまでの経験からローグのチンピラ達は、まだそこまでの事態ではないと推測している。

 今まで様々な船団を荒らしてきた経験による裏付けだった。


 それに、仮に強制排除パージされても問題は無いのだ。勝手にキングダム船団に付いて行けばいい。

 船団としての交流を断たれれば、もはや遠慮する・・・・必要も無い。

 チンピラのリーダー格が言うのは、そういう事だ。

 その上で、キングダム船団がローグ船団に火砲を向けられるとも思っていなかった。


「それで、『G』はいつ戻せる? なんだかんだで結構捕まったからな。一度残った連中の結束を固めたい」


「『結束』ねぇ。まともなノマドみたいな事を言うのな」


「うるせぇよ。バカども放置しておくと、船団の中で勝手にシノギを始めるバカが出るだろうが。

 ここを仕切ってるのが誰か、定期的に思い出させてやらねーとダメなんだよ。

 『G』はすぐ戻せるのか? どうなんだ」


『とりあえずテンプレ通りにキングダム船団へ抗議している。「不当に拘束されたローグ船団の全員の解放」を要求するが、その後で要求のレベルを下げペナルティの軽い者や女性と子供・・・・・の条件付き解放を求める。

 ウチとしても表向きは「G」はただの子供という扱いだからな。堂々と人道主義を展開してやるよ』


 黒アゴヒゲの船団長が、脂下やにさがった得意面で請け負ってみせる。

 そういう難癖・・を付けるセンスがあるから、船団長という役職を振られたのだ。


 ローグ船団を仕切る者たちにとって、『Gジーナ』という少女は仲間ではない。

 立場で言えば共犯者。実質的には便利な道具ツールだろうか。

 しかし、見目麗しい容姿に朗々とした語り口調で、お飾りとして適当な存在であったことも確かだ。

 ただ自由に無責任に生きる口実としてちょうど良かっただけで、少女の語る教義など、誰も信じてはいなかった。


 白い少女を戻す算段をしているが、チンピラリーダー達も黒アゴヒゲの船団長も特に急いてはいない。

 どうせ全てに真剣ではないのだ。ライケン人の儀式を使ったのも、元を辿れば単なる遊びだった。それが思いのほかローグ船団にハマってしまったのだが。

 ローグ船団内部もキングダム船団側も、今すぐ何がどうなる事はないと考えている。

 その予測にしたって、たいした根拠など無い。


 ローグ船団は、非常に強運のノマドと言えた。衝動的な行動、杜撰な航海、その場任せで暴力的な問題解決、と。

 私的艦隊組織PFC『スカーフェイス』の足に使われたのも、こうなると何ひとつ損はなかった。

 その他に致命的な事にもならず、ここまでどうにか旅をして来れたのも、幸運以外の何ものでもなかったのだろう。


 本物の災厄の前では、誤差の範囲と思われるが。


「ん? ああ、そうか分かった。こっちに顔出すように言っとけ」


 ニヤ付いた顔でソファーに踏ん反り返っていた男が、手下のような男から通信を受けていた。

 解放オープン回線ではないので、映像が空中投影されたりもしない。

 内容はすぐに本人から語られたが。


「『G』が戻ったそうだぞ。とっくに解放されてたな」


『……なんだって? そんな連絡は受けちゃないぞ。今の状態ステータスも勾留って事になってる』


「連絡が遅れただけだろ。あんなガキを裏の事情も知らずに拘束しておく意味も無いしな。キングダムの方もさっさと放り出すさ」


 くだんの白い少女、『G』が旗船フラグシップに帰って来ているとの話である。

 それを、特段深刻に捉える者はいない。手間が省けた、これ以上面倒な事を考えなくてすんだ、その程度の認識だ。

 また、『G』が誰と一緒にいるか、そんな細かい事を報告する気遣いの出来る者もいない。


 連絡から30分ほど経ち、ライケン人の巫女はその肩書きに相応しい静謐さをたたえ、ローグ船団のリーダー達のところに顔を出した。

 仲間を迎えると言うより、ペットか使い走りでも帰って来たかのような気分で、『G』にひと声かけようとするチンピラたちだが、


「おかえりぃ、『G』。あれ? そいつら誰?」


「オウオウオウ巫女様の追っかけかー? 俺が世話役の仕事を教えてやろうか?」


「なーにー? このオンナ……」


 全身真っ白な少女は、それらの声を無視するように制御室コントロールルームの中を通り過ぎていく。

 白い少女の周りにいる美女美少女たちも、はやし立てるようなチンピラの科白セリフには応えなかった。

 ローグのリーダー達は、その少女らが危険な存在とは想像もしない。この点だけは、ローグ船団の危機意識の無さだけが原因ではなかったが。


 制御室コントロールルームは、その隅から格納庫を見下ろす作業用通路キャットウォークに出る事ができる。

 ライケンの巫女、普段『G』が宣託・・を公にするのも、この場だ。

 宣託と言っても、『G』は特定の神を崇めているワケではない。

 ライケン人における巫女というのは、ライケンの伝統を正しく理解した上で種族の行動や方針に助言を与える、知恵袋やご意見番といった存在に近かった。


 ライケン人は、誰もが内にケモノを飼っていると言われている。

 それは恐らく本能や野生の精神のようなモノであり、失われつつあるそれを監視し導くのが巫女の仕事でもあるのだ。


 今までは、ローグ船団の者たちはライケンの伝統を都合よく利用してきた。知識を活かす場を求めていた『G』も、ある意味それに協力していた節があった。


 しかし、ここからは違う。


むれのケモノよ、同砲たちよ! なれらの導き手にして巫女たる『G』が、ここに新たな宣託を遣わす!」

「はぁ!? おい『G』オマエ何を勝手に――――――――!!?」


 巫女の宣託は、基本的にローグのリーダー達が自分の意向を下々の者へ・・・・・伝える為に利用されていた。当然、『G』が独断でやる事など許されていない。

 にもかかわらず、これまでは比較的従順だった白い少女の、突然の暴走。

 素っ頓狂な声を上げたローグの男は、マズい事を言われる前に黙らせようとした。

 

「ローグ船団の真の指導者のお言葉でしょう? ご静聴を」

「なぁッ!? テメェらは…………!!?」


 しかし、作業用通路キャットウォークへ出る扉の前には、赤毛の少女が立ち塞がっていた。

 ハンドガンを突き付け、危険な笑みを見せるその少女に、ようやくローグのチンピラ達も事態を把握する。


「誇り高きケモノどもよ! 汝らも知る通り、我らの群は縄張りを争う季節を迎えた!

 ふたつの群がひとつ所に寄り集まれば、序列を争うは必然である! そこに、平等や公平とまやかし・・・・うたう余地など無いのが生物の摂理!

 強き者が弱きを淘汰す! このはライケンの巫女として、新たな群の王を選定する儀式を執り行う事を、ここに宣言する!

 強きケモノは戦士として名乗りを上げよ! 牙を持つのを自負する者は、食物連鎖の頂点に挑むがよい!!」


 そうして、ローグのチンピラリーダー達が止める暇も無く、全ての乗員に白い巫女の宣言は伝わってしまった。

 ローグ船団の裏の支配権をかけた、儀式という名のバトルロイヤルの開催。

 眼下の居住区だけではない、共有通信に乗り全船団に広まる巫女の言葉に、乗員達はざわめき立つ。


 裏の常識において、『G』はローグ船団の指導者だ。他ならぬリーダー達が、その身分を保証している。

 だがリーダー達がローグ船団の乗員に認められているのも、指導者である『G』を守る世話役だと認識されているからだ。

 その少女が一度出した宣言を取り消すような権限は、ローグ船団の誰にも無い。

 リーダー達は、自分で構築した体制に縛られた形だ。

 それも、いざとなれば小娘ひとり、脅し付ければどうとでもなるという見通しがあっての事だったが。


「『G』ぃ……新しいお友達はキングダム船団のヤツらかぁ? 薄情じゃねぇか、俺たち今まで上手くやってきただろぉ? オマエがアホどもを煽り、俺たちが仕切る。なぁオイ!」


 今すぐに胸倉掴み上げて壁に叩き付けたいところだが、白い少女との間には護衛のような女たちがいるので、そうもいかず。

 チンピラは険のある嫌味な笑みを向け、皮肉を言うのが精一杯だ。


「確かに、なれらがローグ船団を支配するのに加担しておった。本来の精神も意義も無い、ただままごと・・・・の儀式を執り行ってな。

 じゃが、今に思うとそれも是とするべきなのじゃろう。なれらは強く、野蛮で、確かに群の支配者であったのじゃから」


 しかし、白い少女は自分の倍ほども大きな男に凄まれようと、全く動じない。

 感情をまるで感じさせない無表情で、正面からローグのリーダー達を見据えていた。


「そして強い者こそがαアルファとして群を率いるのがケモノの掟じゃ。弱き被捕食者が牙あるケモノを率いる道理も無し。

 なれらは今ここで、我こそ最も強きケモノである事を群の皆に示す義務を持つのじゃ。

 弱きは群を率いる資格が無く、そして尻尾を巻いて逃げる者には戦士たる資格が無い。

 なれらはいずれや」


 巫女として裁定者として、堂々と謳い上げる白い少女、『G』。

 その威厳あるたたずまいに、ローグのチンピラリーダー達すら気圧される思いだ。

 あるいは、今になって単なる小利口な子供ではない事を理解した者もいたかもしれない。

 だとしても、常に反抗的なチンピラが、殊勝に相手の言葉を受け入れる事は絶対に無いが。


「…………なんだ? もしかして弟と組んでローグを締めようってハラかぁ!? おいおいケニスはこっち側だぞ?

 それに俺らだって、舐めた事をしたヤツは身体にテメェの立場を教えてやってきたんだ。いまさら俺らに逆らうヤツなんていねぇよ!」


 ローグのリーダー達も、小細工と口先だけで船団の裏を纏めて来たワケではない。

 それなりに暴力的な手段にも慣れた手合いばかりだ。

 不正が無かったとは言わないが、今回のような儀式も初めてではない。

 この場にいるのは、確かにローグという群において、最も強い者たちだった。


「ローグ船団だけなら、なれらが最も強いかもしれんな。だが今回はキングダム船団の者も儀式に加わる事になるのじゃ。

 挑まれた以上、なれら群の王は受けて立つ義務があろう」


「はぁ!? ワケがわかんねー! なんでキングダムがこっちの事情に首突っ込んできやがるんだよ!? くだらねー入れ知恵したもんだなぁ『G』!!!」


「別に構わんじゃろう? 要は誰が群の頂点に立つか。勝った者が負けた者の上に立つ。それだけの事じゃ。それに、先にキングダム船団にちょっかい出したのはなれらじゃからのう」


「おい……王の儀式は武器無しが決まりだよな? 軟弱なキングダムの連中に、素手の戦いなんて出来るのか? ああ??」


「キングダム船団側もそれは承知しておる。ローグ船団の流儀に合わせようというのじゃからな」


 このあたりでローグのリーダー達も、今回の件がキングダム船団側からの侵略であると理解が追い付いてきた。

 その上で、自分達の土俵であるという事も分かり、徐々にニヤケヅラを取り戻していく。

 キングダム船団の思惑がなんであれ、単純な殴り合いで自分たちが負けるとは毛頭思っていない。


「もしかしておねーちゃん達が儀式に出るのかー? 『ルタドール』ならセクシーなコスでやってもらわねーとなー! ギャハハハハハ!!」


「なぁちょっと待てよ、この勝負で俺たちが勝てばキングダムも俺たちの支配下って事か!?」


「この儀式が正式にローグ船団の指揮権を認めるものなら、そうなんでしょうね」


 早くも楽勝気分のチンピラが、『G』に同行したキングダム船団の美女美少女にあざけるような科白セリフを投げかけていた。

 事実、赤毛の少女は儀式に殴り込むつもりだったが、それをわざわざ言うつもりも無い。

 中には、勝った者がふたつの船団の全てを握るかのような都合の良い勘違いをしている者もいたが、無論そんなワケも無い。

 キングダム船団は、船長会議と旗艦艦橋により手堅く運営されているのだ。

 ローグ船団のように、通常の船団運営を隠れ蓑にカルトが幅を利かせたりはしていない。


 そして、今回の儀式というのも、公的に船団の運営を左右するものではない。ローグ船団における非公式でローカルな行事に過ぎないのだ。

 キングダム船団側は、これを利用するだけ。船団の指揮権を云々されるいわれは無かった。


               ◇


 ローグ船団は、旗船フラグシップ船橋ブリッジではなく、実質的に一部の乗員により支配されている。

 故に、ローグ船団の身勝手をやめさせたければ、船団トップ同士の話し合いなどではなく、実力を以ってローグ船団の本当の支配者たちを押さえ込めば良い。

 その為の方法も、他ならぬローグ船団側が用意してくれている。

 何故ならば、ローグ船団の支配はライケンの巫女『G』の儀式と、船団のリーダーたちによる暴力で成り立っているからだ。


 白い少女『G』の説明を聞いた上で、キングダム船団はその儀式ゲームに乗る事とした。

 儀式の内容は、原始的で野蛮な生身によるバトルロイヤル。地下の闇試合、バトリングとも異なる、ルール無用の潰し合いだ。

 これに勝利した者が実質的にローグ船団を率いる、というのが巫女とチンピラのリーダー達が掲げる公約である。


 では、そんな野蛮極まる儀式に、キングダム船団側はいったい誰を送り込むか、という話になるのだが。


「おいその格好は必要なのか…………」


 高速貨物船パンナコッタの客室キャビンにて、オペ娘のフィスはこの上なく荒んだ目を向けている。

 その視線の先にいるのは、トラじまのマイクロビキニ的な姿の赤毛娘、村瀬唯理むらせゆいりだった。


「なるべく野生に近い姿で己の力を示すのが習わしじゃ。EVAスーツは問題外じゃが、EVRスーツなんかも興醒めじゃな」


「興醒めだとかそういう問題じゃねーだろ。こんな素っ裸みたいな格好で、しかも素手で殴り合うとか正気じゃねーし。狂ってる」


「イイじゃないか! この格好なら今すぐメインイベントだって張れるぞ!!」


 神妙な顔で頷いて見せるホワイト少女、『G』だが、オペ娘の懸念は全く晴れない。

 一方で地下格闘界の女王、コリー=ジョー・スパルディアは全く関係ない私的な事でテンションを上げていた。

 対戦希望者と言うより、もはやプロモーターのようだ。

 それも仕方が無いというほど、赤毛娘の姿はキマっていたのだが。


「それにしてもなれ……そんな美しくも恐ろしいカラダを見たのは、は初めてじゃ。ライケンの古強者にも、そのようなカラダの者はおらんかったぞ」


 ライケン人の中で生まれた『G』、ジーナ=クレスケンスは、当然ながらライケン人の身体を良く見知っていた。

 野生動物の特徴を色濃く残す彼の種族は、基本的に身体能力に優れている。

 高重力に適応し、圧倒的な膂力を誇るロアド人。

 対してライケン人は、筋骨隆々にてしなやかに躍動する天然の狩人だ。


 そんな『G』でも、赤毛の少女の身体付きは溜息が出ざるを得ない。


 肩などは一見して華奢だが、お腹や腰は引き締まり、くびれながら皮下の鍛えられた筋肉が浮いて見える。

 かと思えば、左右の胸は膨らみも豊かで、キュッと持ち上がったお尻から太モモにかけては程良い肉付き。

 出るところはたわわに、引っ込むところはスッキリと、ひとつのカラダが文字通り奇跡のバランスを体現していた。


 しかも、『マイクロビキニ』と言うのも便宜上そう呼ぶしかなく、実質的には雑に布で縛ったのみ。

 その為、食い込んだ部分やハミ出した箇所が、蠱惑的な肢体を一層引き立ててしまっている。

 パレオのような腰巻も、太モモの付け根からお尻の下の肉をチラチラ見せてしまっているので、隠すどころか完璧逆効果だった。


 こんな見た目で、赤毛の美少女はローグ船団のゴロツキどもと殴り合いに行くのである。

 エロ過ぎるやら怪我しないか心配やら、フィスの目付きが険しいのはそういうワケだ。

 ちなみにエイミーは早々に興奮し過ぎて倒れた。


 キングダム船団の上層部は『G』から話を聞き、ローグ船団の『儀式』に乗り込み主導権を得るという作戦に出る。

 当初、唯理はこれへの参戦を反対されていたが、参加者選抜において最も高い格闘戦能力を示したのもこの赤毛だったので、外すに外せなかったのだ。


 起源惑星Earthから現行人類プロエリウムの祖が宇宙に出て、約2,500年。

 相も変わらず同じような事を繰り返している人類だが、科学技術の発達と肥大化した人道主義や倫理感は、確実に人々から暴力を奪っている。

 それは、野蛮で粗野なローグ船団も例外ではなかった。


 そんな温い暴力ごっこに興じるローグ船団の野良犬に、真に戦争を極めた時代から赤毛のオオカミが襲い掛かる。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


強制排除パージ

 自由船団からの追放処分。個人、あるいは合流した別船団に対する罰則。

 船団内規則パブリックオーダーへ著しい違反を行った際の、最終的な措置とされる。


・ルタドール

 起源惑星の一部地域で用いられた言語で、戦士や闘士の意味。

 現代ではショービジネスとしての試合を指し、特に女性同士の戦いの事を言う。




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