フエンナ

 僕が駅前ロータリーまで行くと、交番前で婦警姿のアディーが、ジャガーとオオカミのアニマロイドを両サイドに従えて待っていた。後ろには、ちゃっかりチトマスもいるじゃないか。


「オカダさーん、御無沙汰してます~」

 

 アディーは、僕を逮捕しそうな勢いで駆けてきた。いつにも増して垂れ目で満面の笑み。チトマスもポーズを決めての登場。


「お久しぶり! 男装の麗人ことチトマスです。最近女性にモテモテで困ります」

 

 チトマスは、なぜか男物のスーツを華麗に着こなしている。歌劇団の男役に推薦したいところだな。いつもスッピンのままだが……。最近、教員を目指して鹿命館大学に編入したというチトマス……教育現場でその才能を開花させるのか。

 二人に揉みくちゃにされてデレデレしていると、シュレムそれになぜかマリオットちゃんまで僕の脇腹をノックした。せっかく折れた肋骨が治りかけているのに、何すんのよ!

 そういえば婦警とスーツコンビに置き去りにされたままのアニマロイドはスケさんとカクさんなのか?


「スケさん! 女子高生からジャガーのボディに戻ったんだ?!」

 

 近寄ってよく見るとスケさんじゃなかった。


「久しぶりでござる、オカダ殿」


 左衛門とガーファンクルだった。何だか紛らわしい奴らだな。ということはスケさんとカクさんはどこに行ったのだ?


「うふふ、やめてってばカクさん!」


 カクさんは本当にどうやったのだろう、タイトなスカートの中に顔を突っ込み、アディーのガーターベルトを引っ張って脱がそうとしていた。


「ええやんか、あんたにはまだ悪戯してないはずやで! 大事にするから記念に一つ欲しいんや! な、ええやろ?!」

 

「オイ、一体何の記念だ……」


 チトマスはカクさんの尻尾を鉛筆削りに突っ込んでハンドルを回し、先っぽを削ってピンピンにした。


「ぎゃあああ!」


 カクさんは新たな武器を手に入れた。ちくちく・テール・スピアーだ。

 う~ん、教育者を志す人間がやる事にしては斬新だ。将来生徒となる若者の身が心配になってくる。



「こっちよ、こっち。オカダ君!」


 振り向くと可愛らしいメイド服を着たスケさんがニコニコして立っていた。頭には正真正銘、自前のネコミミが風に逆らってピンと屹立している。


「エヘヘ、ちょっと恥ずかしいけど似合うかな?」


「???」


 アディーは説明してくれた。スケさんは、その人間離れした美貌からモデルにスカウトされ、オーミモリヤマ市の復興事業としてアイドル活動まで始めるという。そんな馬鹿な! これがサプライズ? 何でメイド服? アンドロイドだし中身は100歳オーバーのババァなんですよ!

 駅前の交番からスーツ姿のゴールドマン教授が出てきた。小奇麗にするとイギリス紳士風で渋いなあ……髭も似合う。


「残念ながらスケさんのオリジナルボディでの復活は無理だったよ」


「人間の姿の、今の方がいいと思うぜ!」


「総督府地下のファクトリーを利用すれば修理できるかもしれないが、いかんせん忙しくてな」


 それでもアディーとスケさんは感心して教授を称えた。


「やはり教授はバイオニクス界の第一人者ですね。弟子入りしたい程、尊敬しちゃいます」


「……おっと、先に弟子になったのはボクだよ」


 この声は……ひょっとして、あの子?

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