マルガリータ

 ケプラー22b総督府通用門前にあるザイデルD-15部隊の本陣は、ザイデル丸として外部に突出している。B級奴隷の努力により迅速に塹壕が掘られているが、中ほどに集積された物資の近辺から多数の太いチェーンがジャラジャラ鳴る音と不快な声が聞こえてくる。


「くそ! チェーンを外せ! 俺を解放しろ!」


 さらし者のようにブエルムは両手両足を太いチェーンで繋がれていた。銀色に輝くチェーンの太さたるや、まるで巨船の錨に連なるそれである。集積所には太い杭が打ち込まれ、チェーンはそこに繋がれていたのだが、あっという間にブエルムの怪力によって抜き取られ、振り回された。再びブエルムを4トントラックのフレームにチェーンで繋げるのに多くの怪我人と麻酔薬を必要としたのである。


「うおおぉ! 俺に戦わせろ! 俺なら敵を全員血祭りに上げてやる事ができるっていうのによ!」


 長身のブエルムは牛をも眠らせる大量の麻酔薬にも反応せず、すぐに覚醒した。眼前で繰り広げられる血生臭い戦闘に興奮状態の彼は、手首に巻かれたチェーンを握り締めて引っ張る。右腕に渾身の力を込めると丸太のような太さがある二の腕の筋肉がはち切れんばかりに膨らんだ。すると4トントラックの強固なラダ―フレームは黒い塗装が剥げ、鈍い音を発しつつ、しなるような変化をみせた。


「お、れ、を、い、ま、す、ぐ、は、な、せ~!」


 ブエルムの長髪の間から時折見える真っ赤な唇から呪いのような言葉が発せられる。

 車高が高い4トントラックは転倒せんばかりにブエルム側に傾き、板バネが折れそうになるほど曲がった。周囲で固唾を飲んで見守るザイデルD-15部隊のアマゾネスの戦士達でさえ、恐れをなして硬直したままだ。


「この男が、あの有名なS級奴隷のブエルムか。何で我が部隊の戦闘服を着ているんだ?」


「こいつは……正にバケモノだ。すぐにでも銃殺にした方がいい」


 その言葉を発したアマゾネスに、ブエルムは人を死に至らしめるような殺視線を投げかけた。アマゾネスは、わなわなと震えあがり失禁すると、手にした自動小銃を取り落としそうになったのだ。

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