グラウケ

 本日も天候は晴れだった。海洋惑星、しかも巨大淡水湖の畔という地理的条件で、湿潤な気候を思わせる割には雨が少ない気がする。優れた灌漑技術のおかげなのか、干ばつの被害は避けられてはいるが。


 堅固な城を思わせるケプラー22b総督府。台形ピラミッド部よりはるか上階層の強化ガラスでしつらえた幾何学的部分は快晴の空を映しだし、眩い光をこちらに反射させる。

 植民惑星ケプラー22bの数千万人に及ぶ開拓移民の頂点に立ち、各コロニー都市の支配者として君臨するデュアン総督の居城としては申し分ない。政令発信の中心地ではあるものの、首都としては極端に人口が少ないオーミモリヤマ市には明らかに不釣り合いな建造物だ。初代移民船が残した、謎の地下プラントの上に立地しているとも聞く。


 総督府の前にある広場には1万人規模の配下の者を従えて、デュアン総督が堂々と鎮座していた。壇上の彼女は、まるでかつての清朝の権力者、西太后のようだ。短期間の内に、どこから引っ張ってきたのかは知らないが、オーミモリヤマ市の普段の人口からは想像がつかない程度の人数を揃えている。よく見るとアマゾネスだけではなく男の戦闘員も混じっているな。奇しくも大規模な男女混成の実現がここにはある。


 まるでライブ会場の中心に担ぎ込まれてきた気分だ。無粋な手錠をはめられなかったのは、元植民惑星査察官に対する敬意によるものか、それとも自信の表れか。

 距離にして数10メートル先の天井桟敷のような席に彼女はいた。久しぶりに会うデュアン総督は、軍帽にまとめない金髪。略式のカーキ色の軍服姿だった。略綬を膨らんだ左胸に大量に付けている。


「久しぶりだな、地球人。奴隷生活にも慣れてきた頃か」


「おかげ様でね……男友達もたくさんできたよ」


 美しさに磨きがかかってきた総督は、モデルが戯れに軍服を着用したのかと見紛うほどだった。


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