クレメンティナ

「それにしてもチトマス君、警察なのに反乱分子の芽を摘むどころか、奴隷の男達と一緒に行動しているなんて……」

 

 ゴールドマン教授は、大切な愛弟子のチトマスが悪く言われることに不服のようだ。


「彼女の体は女だが、その心は男なんだ。ケプラー22bでは男女の子供が生まれると、すぐ別々に引き離されて生活するものだが、チトマスは違った」


「そう、私は親無し子だったけど、男ばかり五人兄弟の末っ子として大人になるまで一緒に育ったの。女として支配階級で一人生きていくより、男として兄弟と過ごす方を選んだ。その方が私にとって幸せだし、都合も良かったの」


「チトマスは周囲に女であることがばれないように、今まで完璧に男を演じてきたのさ。その結果、男以上に男らしくなり、見た目はもちろんのこと趣味嗜好まで男に倣った。成人するまで女性と付き合っていたぐらいだ」


「すげえな、それは……」


「でも恋人に女だと見抜かれないようにするため、自分から離れていくしかなかったわ。中には同性でいいから付き合って、と言う人も多かったけど」

 

 チトマスは悲しそうな顔をした。かわいらしく、とても男として生きて暮らしてきたようには見えない。


「彼女こそ私が求めていた人材だ。男性の心を理解する女性。我々男の立場から物事を考え、上位の女と渡り合えるのは彼女しかいない。早くからスカウトして地球流の男女のありかたを啓蒙し、維新を実現するためのノウハウを叩き込んできたよ。カムフラージュのために男装を解いて警察官に仕立て上げるのは一苦労だったけどね」


 ゴールドマン教授が力説する。う~む、本来饒舌で熱血漢なのかもしれない。


「革命派のリーダーの誕生か。戦術・戦略的思考を学び、大衆の心を掴むカリスマ性を備え、果ては武器の扱いにも熟知しているとは大したものだ。俺もケプラー22b初心者なんで彼女に従うべきなのかな」


「違うよ、オカダ君」

 

 教授は立ち上がった。チトマスも浴衣がはだけるのも気にせず仁王立ちになる。ちょっと男っぽいな。


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