イダ

 ケプラー22b総督府の支配から分離独立を宣言するコロニー都市、オーミクサツ・オオツ連合。ここは、その衝突の最前線に当たるセタ川。約一年ほど前から、内乱軍と総督府派遣軍はこの川を境に睨み合っており、一進一退の攻防を展開していた。


 オーミクサツ・オオツ連合は、セタ川にかかるカラ橋を落とす前に全部を総督府派遣軍に奪取されたため、もはや内乱が鎮圧されるのも時間の問題となっている。


「何? 今この大事な時に内地へ、オーミモリヤマ市に引き揚げろとな?」


 総督府派遣軍の精鋭ザイデルD‐15部隊は、珍しい男女混成のエリート部隊で、隊長のザイデルは士官学校を首席で卒業したプライドと指揮能力が非常に高い女性だった。軍人なのに身だしなみにも神経質なほど気を配っており、カーキ色の軍服には激しい戦闘にもかかわらずシミ一つ付いていない。化粧こそしていなかったが、長身でツルスベのお肌にお団子ヘア、日焼けした顔立ちは、テニスクラブで見かけそうな雰囲気を持っている。


「……そうであります、デュアン総督から直々に下知されました」


 部下のシルマーはB級奴隷だが、女性兵士にも指示を出す部隊のナンバー2である。ザイデルは完全なる能力主義者で、優秀な兵士には男女の差別が存在しなかったのだ。これが男達の間で評判となり、自然と周囲から優秀なB級奴隷の戦闘員が集まってくる要因ともなっている。


 傷だらけのシルマーとの異名を持つ歴戦の戦闘員、シルマーも首を捻った。


「戦闘の趨勢がはっきりして一段落したとはいえ、私にもなぜこのような命令が下ったのか分かりません」


 ザイデルはテントの中でコーヒーを飲みながら考えた。ザイデルとシルマーの間には父娘ほどの年齢差がある。


「デュアン総督の命令には焦りを感じる。最近になって身辺の造反者が洗い出されたと聞く。おそらく我々は粛清のために駆り出される事になるのだろう」


「一番苦手とする任務です。同胞を始末するような事態だけは避けたいものです」


「それは私にとっても同じ事だよ、シルマー」


 ザイデルは汗まみれの顔をタオルで拭くと装備を片付けて、後方へ転進する準備に取り掛かったのだ。



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