アタマンティス

「ケプラー産のワインはいかが? この地はブドウの栽培に適していて、樽熟成されると芳醇でいい酒ができるのです」

 

 ソムリエールから良い香りがする真紅の液体をグラスに注がれた……確かに言葉を失ってしまう程、滑らかにして美味い。だが僕だけ楽しむのは何だか悪いような気がした。

 今度は生演奏が始まったようだ。繊細で表現力に優れたピアニストだな。ステージの方を見ると、何という事だ! タキシードに身を包んだ髪の長い男がピアノを弾いているではないか。


「あの方は誰ですか?」


 今日初めてアマゾネスに話しかけた。煌びやかな絵画の世界から飛び出してきたような服装の中年女性が、上品に扇子で口元を隠しながら答えてくれた。


「あら、地球の方はご存じでないかもしれませんね。彼は天才ピアニストのバゴリーニ……数少ないS級奴隷のバゴリーニですよ」


 バゴリーニか……B級奴隷として生まれたが、絶え間ない努力と音楽の才能だけでS級奴隷に昇格したスゴイ奴だ。長髪をなびかせるように頭や体全体でリズムを合わせるその姿は希代の芸術家と呼ぶに相応しく、グランドピアノと一体化しているようにも思えた。年齢は僕とそう変わらない感じだな。美中年という点でも共通している。



 やがて壇上から金髪のデュアン総督が姿を現した。

 美しき支配者は、艶なしのカラフルなパーティードレスに身を包んでいる。やっと総督に謁見できる機会を与えられたと言えるんじゃないのか。

 演説めいたスピーチは手慣れたもので、会場の上流階級丸出しおばさん達を熱くさせた。内容は植民地支配における近況と各コロニー都市に対する未来への展望といったところで地球への公式な報告書にも使えそうだ。


「総督がお呼びだ。くれぐれも気を付けるように……」

 

 側近の黒いスーツ姿の女が耳打ちしてきた。脇のホルスターに自動拳銃を吊っているのが、チラリと見えた。

 壇上から降りた総督は特別席でお待ちかねのようだ。素直に従い、ゆっくりと襟を正して近寄っていく。

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