ヘッダ
「おい、姉ちゃん! 確かフレネルとか言ったな。俺をすぐに、ここから出せ!」
カクさんは檻に爪を立て、がしゃがしゃさせると中から彼女に向かって叫んだ。
「……何よ、何なのよアンタは」
フレネルは涙目で鼻を押さえたままだ。従業員は全て出払っていたが、もし一人でも残っていたら大変な事になっていただろう。
「ここを開けろ! 今すぐトイレに行きたいんだ。もう我慢できない」
「馬鹿言わないで! 騙される訳ないでしょ! 誰が開けるもんですか」
「俺を檻から解放しろ! さもなくば、ここで大きい方を出しちゃうぞー」
フレネルはゾッとした。オナラでさえここまで臭いのに、更に糞ともなれば……想像を絶する状況になって営業所は閉鎖……。
「イ、イヤーッ!!」
フレネルは踵を返すと、取り乱した状態で倉庫のドアを思い切り閉め、鍵を掛けた。
「オイ、こら! 待て~」
カクさんは焦った。トイレ以外で漏らすのは久々になる。できる男のプライドがそれを頑なに拒絶した。
『……オカダ君!
『今助けに向かっている途中だ。何だか渋滞しているんだよ。あと数十分待ってくれ』
『ぐおおぉ! それでは間に合わん!』
『トイレか? 別に死んじまう訳でもないのに、そこでやっちゃえよ』
『この~! 他人事と思いやがって! 本当に、どうなっても知らんぞ』
『こっちにはガスマスクがあるから……以前に一度ひどい目に会って用心しているんだ』
カクさんの直腸は内容物でギッシリと満たされた。胃の下を誰かに引っ張られるような不快感の波が、のべつ幕なしに襲い掛かる度に彼を溺れさせる。具体的には尻尾を巻いたまま、ぶるぶると震えるかと思うとピタリと動きを止め、つま先立ちで悶絶状態。傍から見ると変な電気仕掛けのラジコンのようであった。
スタリオンは石畳の歩道に乗り上げ、堀に落下する寸前の所をうまく走行し続ける。堀の数メートル下には緑色に濁った水が流れる事もなく延々と続き、タイヤで弾いた石ころを波紋の中心に飲み込んだ。
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