ペネローペ

 オーミハチマン市名物のアノマロカリス料理を食べた後、我々はゴールドマン教授を探す手配に移ったのだ。それにしてもアノマロカリスは大変に美味であった。見た目は気持ち悪いが、夢のような食感だ。真っ赤にボイルして溶かしバターに付けても良し、シンプルにグリルで焼いて食べても良し。ホクホクの身が殻の中にギッシリと詰まっており、刺身はヒラメの縁側に似た味だった。

 

 アディーはオーミハチマン警察署を訪ねる前に、めぼしい電話番号とメールアドレスをピックアップして、片っ端からアポイントメントを取る準備を始めた。

 シュレムとカクさんは、近くにあるゴールドマン教授が建てた学校と病院へ直接向かうそうだ。

 僕とマリオットちゃんとブリュッケちゃんは、ゴールドマン教授が代表の製薬会社、オーミ姉妹社へと向かった。


「ブリュッケちゃん、君には兄弟がいないそうだね」


「うん、一人っ子なんだ」


 隣のマリオットちゃんはすぐに反応した。


「私がお姉さんになったげるよ!」


「ありがとう、マリオット姉さん」


 僕は一呼吸おいてからブリュッケちゃんに言葉を続けた。


「それで、お父さんの……ヒコヤンは生涯一人の女性と最後まで連れ添ったんだよね。つまり君のお母さん一筋という訳だ」


「そうだよ! 他の言い寄る女性達には一切見向きもさせず、『後にも先にも愛する女性は君だけだ』と父に言わしめたのが、ボクの母の自慢話だったね」


「そうなのか……」


 僕は確信した。ヒコヤンは、パークスなどの種苗会社と絶対に取引しなかった事を。不世出の天才装甲殻類カルキノスハンターは、孤高の存在で、人生を誇り高く生きたんだ。

 もし今でも生きていれば、是非会って話をしてみたかったものだな。サバクオニヤドカリなんて弱い敵だったのかもしれない。彼を仲間にしていれば、スケさんの犠牲もなかった事だろう。


 ヒコヤンよ……忘れ形見のブリュッケちゃんの事は任せておいて下さい。立派な女性に育て上げて見せますとも。


「何? ボクをもらってくれるの? 妻として?」


「ぐわあ!」


 独り言の声が大きすぎたのかな? ブリュッケちゃんの宝石のような目が輝いた。何だか微妙な空気となりマリオットちゃんまで、つられて叫んだ。


「私もお嫁さんにしてよ。料理もできるし毎日、日替わりで美味しい物が食べられるよ!」


 いいね! バラ色の生活が待っていそう。

 僕は想像した……美味しそうな料理がズラリと並ぶ食卓を。なぜか下着の上にエプロンをしたマリオットちゃんが、オパビニアのフライが山盛りになった皿を僕の前に置きタルタルソースをかける光景を。そして犬小屋にはカクさんが!

 こんな恵まれた毎日では、みるみるとデブになっていくのは確実であるが……。


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