ディナメネ

「地球人だからこそですよ、オカダ査察官」


 パークスがフレネルの後ろから答えた。


「希少な地球人というだけで、すでに高額確定です。さらに宇宙飛行士という厳格な選考をくぐり抜けた能力と体力、それに運と才能、加えて植民惑星査察官という最高レベルの篩分けを通過した評価も付与されます。あなたの……母星からの新鮮な遺伝子は、天井知らずの額が付く可能性大ですよ」


 パークスから聞きたくもない情報が次々と伝えられた。情報は値千金、との勿体ぶった前振りがあったが、耳を塞ぎたくなるような事実だ。


 ゴールドマン教授は元地球人のS級奴隷として、自分の種苗を売って生活しているらしい。大金持ちのはずだがボロを着た生活をしており、一体何に金を使っているのかと嘲笑されているとのこと。

 配偶者を自由に変えたり浮気したりして、すでに認知されている子供が10名以上いるが、凍結保存されている種苗を考えると、今後ゴールドマンを名乗るアマゾネスが大量発生することだろう。


「ゴールドマンちゃんか……呼びにくい女の子だな。女なのにマンだし……」


 下ネタを言いたくなったが、レディーの前では止めておこう。


「……それで、どうされるのですか。あなたにとって、またとないチャンスですが!」


 フレネルが眼鏡の丸顔を近付けてきた。タヌキ顔でカワイイな……僕は笑顔で答えた。


「お断りいたします」


 パークスとフレネルがグッとなって唇を噛みしめた。商売人らしく表情は変わらなかったが。

 宇宙のフロンティアに自分の遺伝情報をバラ撒きたい望みは、全くない訳ではない。だがしかし、シュレム・マリオット姉妹のように父親の顔も知らないオカダ君、いやオカダちゃんがケプラー22bで無責任に増殖してゆく……何ともゾッとする話だ。


「大変失礼いたしました! ゼロの数が足りなかったようですね。それではこの提示額ではいかがでしょうか? オカダ査察官?」


「くどい!」


 僕の一喝にパークスは明らかに機嫌を損ねた。秘書のフレネルは少し焦り始めたのが分かる。

 どう切り出してくるか身構えていた時、艀はオーミハチマン市の船着き場に到着した。これから臨検等で忙しくなるな。


「オカダ査察官、気が変わったら、いつでも相談に馳せ参じます。遅くなりましたが、こちらが私の名刺です」


 金ピカの名刺を僕に手渡すと、パークスは下卑た笑顔を崩さずに言った。


「お近付きの印として、ゴールドマン教授の居場所に関する情報を提供します。彼は最近市内で会社を立ち上げたり、学校や病院を建設しています。そのいずれかに彼はいることでしょう」


「ありがとう、パークスさん。感謝します」


「どういたしまして……」


 フレネルを伴って高級車に乗った彼女は足早に去った。さすがは実力者、検問もほぼフリーパスだ。一方僕らもオーミモリヤマ警察署のアディー巡査の顔パスで、面倒な手続きをせずに済みそうだった。

 パークスの話から推測すると、僕は金の卵を産む鶏になりそうだな。つまり常に警戒を怠らないようにしないと、誘拐される危険性があるという事だ。まあ、返り討ちにしてやるが。僕にそんな価値があったなんて驚いたな……。


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