エウニケ

 僕はスタリオン高機動車の運転席に座って機器のチェックをした。


「次の目的地が決まったな……オーミハチマン市だ」


 シュレムが僕の左腕をポン、と叩いた。


「……痛っ! 何するんだ」


「オカダ君、あなた腕のケガの事を忘れてるわよ」


 そういえば左腕をサバクオニヤドカリに挟まれて潰されそうになったんだっけ。ちゃんと動くって事は大丈夫なんだろう。


「骨に異常がないかどうかは分からないけど、一応三角巾で吊っておきましょう」


 シュレムは血まみれの袖を破いて患部を丁寧に処置してくれた。腕を固定するのは大袈裟だが、看護師さんには文句も言えない。

 包帯を巻いてもらっている間もスタリオンのチェックをした。

 この車でサバクオニヤドカリに体当たり攻撃をしたので、フロント部分がひしゃげて大破している。雨が降る曇り空の下、ヘッドライトなしで走るのか。

 幸いにもジェネレターは無傷で、モーターにも異常なく、走行には問題なさそうだ。精密機械なのに頑丈にできていて感心する。地球製は人間も車もタフだなあ!


「何よ、壊さないようにサバクオニヤドカリにぶつけるのは難しかったのよ!」


 いえ……シュレムさん。もし狙ってそれができたのなら、本当にすごい事なんですが。


 

 運転はフルオートで自律走行に任せよう。帰りの道程は比較的楽になる。


「アディー、車でオーミハチマン市まで一体どのくらいかかりそうなんだ?」


 後席のマリオットちゃんやブリュッケちゃんと一緒に何やら検索中の婦警さんに訊いた。


「そうですね、今からだと途中どこかで一泊せざるをえない距離ですが」


「オーミハチマン市……運河が発達した商人の街か……」


 僕はそう言った後、目まいがするのを感じた。


「……?」


 シュレムが珍しく心配そうな表情で見つめてくる。


「あなた、顔色が悪いわよ」


 一刻も早くオーミハチマン市に向かいたいが、またトラブルが発生したようだ。ケガをした上に雨に打たれ、ズブ濡れのままでいたのが悪かったのか。

 僕は急に高熱が出て意識が混濁してきたのだ。



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