セリュタ
腕にケガをしたので、体が反応した結果の発熱なのだろうか。だが、もしケプラー22b特有のウィルスに感染したのなら……ヤバイ。新参者の僕は、ウィルスの抗体を持っていないので重症となり、あっけなく死んでしまう事だってある。
「カクさんはいいな。風邪知らずで」
「オカダ君、この惑星のウィルスは未知で対策のしようがない。シュレムに診てもらおうよ」
「私はドクターじゃないからね。無茶言わないで……診断はできないわよ。経験から判断するに、ただの風邪なんじゃないかな」
それはごもっともで……。
スタリオン高機動車はどんどん湖岸通りを南下して行く。全自動で走行しているので、運転席にはブリュッケちゃんが座って興味深そうに計器を眺めていた。
「このボタンは何だろう?」
ブリュッケちゃんが、サイドにある目立つボタンに触れた。天井のハッチが開くと同時に、カラスぐらいの大きさがあるメガネウラと呼ばれる巨大トンボが吸い込まれるように入ってきた。
「うわー!」
「きゃあああ!」
車内が騒然となった。ブリュッケちゃんはメガネウラを掴むと、車外に逃がして皆に謝った。トビエビと激しい生存競争を繰り広げている昆虫らしいが、勘弁して欲しい……。
隣の助手席には平然としたシュレムが周囲を警戒しながら目を光らせている。この辺りでも湖賊が出没しないとも限らないしな。
時折警察のパトカーとすれ違う事もあり、その度に停車させられた。
「ご苦労様です。オーミモリヤマ警察署のアディー巡査です」
カクさんを始め、怪しい奴がいっぱい乗っているが、アディーの説明でほぼフリーパスだ。
空はいつの間にか晴れ渡り、夕焼けの色に染まりつつあった。
僕とスケさんは共通の簡易ベッドの中にいた。マリオットちゃんが色々と看病してくれている。冷凍庫の中に入っていた保冷剤をタオルで巻いて氷枕にしてくれたのだ。
「ありがとう、マリオットちゃん。助かるよ」
「私も看護師になろうかな? コックさんとどっちが自分に向いているかな?」
「病院食を作る看護師ってのはどうだい?」
「それって栄養士さん……とは全然違ったかな??」
ようやくアズチと呼ばれる一番最初にキャンプ地にした場所へ到着した。ここは相変わらず静かな所だな。当然、外はもう漆黒の闇に覆われていたのだ。
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