イストリア

「皆ちょっと! スケさんを見て!」

 

 マリオットが、にわかに叫んだ。

 何だと思って見ると、スケさんは両方の目から涙を二筋、確かに流している。

 お前、ひょっとして、まさか……。


「オカダ君、私は……所詮作り物のアニマロイドだけど、ようやく人の心を手に入れたわ。だって皆と別れるのが辛くって悲しくって、ゴミも入ってないのに、こんなにも熱い涙がコントロールできずに溢れ出してくるんだもの」


「スケさん、ついにやったな」


「ありがとう、オカダ君。今まで一緒に宇宙を、異世界ケプラー22bを旅してきて楽しかったわ。これからも、この惑星の人々のため、もちろん自分自身のためにもがんばってね。私は信じてるよ」


「必ずパワーアップして復活させてやる。そのお節介機能も改良してやるからな……」


「いや、このまま……元のままでいいよ」


 シュレムとマリオットはそう言いながら涙を拭う。埃にまみれた顔が白くなるまでに泣いたのだ。アディーとブリュッケちゃんはスケさんの体をいたわるように、いつまでも撫でた。


「スケさん! 絶対に修理してやるから!」


 カクさんも叫んだ。


「俺のパーツを使ってもいいからさ……姉御」


 スリーピングモードに入った彼女から、返事はもう返ってこなかった。

 一同は夜の闇のような沈黙に支配されるがままだ。車内は重苦しい空気に包まれ、どこからともなく鼻腔に流れこんだ涙を啜る音が聞こえてくる。

 スタリオン高機動車の外はいつ止むとも知れない雨。

 電神ヴィマナが飛行する高空は、蒼く澄み渡る空だというのに……。

 荒ぶる化物が巣食っていたオアシスには残酷な静寂の凪が訪れ、旅の出立を遅らせるのだ。



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