エルザ

「スケさん! しっかりして」

 

 マリオットちゃんが泣きながらスケさんに抱きついた。


「ありがとう、マリオットちゃん……泣かないで。ほら、妹分のブリュッケちゃんの方が冷静だわ」


 ブリュッケちゃんも体育座りして、沈痛な面持ちで傍に付いている。

 スケさんをビデオ撮影するアディーも耐えられなくなって泣き出した。


「カクさん、それにオカダさん、私にはどうする事もできません。何とかスケさんを助けてあげて」


 アディーは目を真っ赤にして、鼻を垂らすのもいとわず、派手にすすり泣く。

 僕はスケさんが命がけで入手したサバクオニヤドカリの黒い目玉を丁寧に冷凍保存すると、カーゴスペースのスケさんの所に向かった。

 斑模様になった毛皮に付いた泥を払うと、僕の両眼から熱い液体が止めどなく込み上げてきて、頬を伝った……こんなに泣いたのは両親が死んで以来のことだ。いや、兄の今際の果て……長い付き合いだった10年来の彼女と別れた時にも……アディーそっくりな……思考が混乱してきた。


「スケさん、俺よりずっと長く生きているアニマロイドなんだろ? こんな所でくたばったりしないよな? 俺の身を案じてくれる君は、もはや俺にとって仲間以上の存在なんだ」


「そうね、地球のオカダ君には両親も兄弟もいなかったわ。恋人を失った事も、旅の契機になったと言えるわね……いいこと? このケプラー22bで家族をつくるのよ」

 

 スケさんは僕に小さな声で耳打ちした。


「オカダ君……あの四人の娘達の内、誰でもいいから一人を選んで結婚しちゃいなよ。私としてはシュレムがお勧めかな」


「え? 何で」


「彼女、あんな態度だけど、オカダ君に惚れていると思うわ。これは女の勘よ」


「女って……スケさんはアニマロイドで、しかもジャガーじゃないか」


「こう見えても私、人間と一緒に暮らしてトータル100年近くのベテランよ。言葉の重みが違うって」

 

 僕は何も答えられず、彼女の肉球に触れるだけだった。


「シュレム、君は俺の事を……」


 だんだん弱っていくスケさんの様子を見守っていると、まるで光の届かない漆黒の深海底に一人取り残される気分になってくる。

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