シワ

 僕はスタリオンから降りて、女性の元へと駆け寄る。酷い目に会ったようで、肩で息をして疲労困憊の様子。僕はM4カービンを背に回して屈んで言った。


「おい、助けに来たぞ。大丈夫なのか?」


 見た所、どこにも大きな怪我はなく、単に足をくじいただけのようだ。


「車に看護師がいるので手当てしてもらおう。どうだ、立てるか?」


「すまない、オカダ査察官」


「! 俺の名前を知っているのか」


「あなたは今や有名人ですよ。各コロニー都市で顔と名前を知らない人はいないぐらい」


「まいったな~。色々とやりにくくなるよ」


「私の名前はパリノー。こう見えてもカルキノス専門の生物学者だ。怪妖洞のケプラーシオマネキについて研究をしている」


「へぇ、そうなのか……フィールドワーク主体なのかな」


 

 スタリオンに二人で戻ったら、パリノーは皆に歓待された。車内は今や大人四人、子供?二人の大所帯となった。


「ケプラーシオマネキの生態を調べようとバイクでここまで来たのだが、怪妖洞に入ったとたん奴らに襲われて怪我してしまった……」


 車内でもパリノーは、流暢な口調で教員のように説明を続けた。


「そこでガソリンをバイクから抜いて火を付けたのだが、奴らを追っ払うのに、あまり効果的ではなかったようだ」


 それを聞いてシュレムが呟く。


「なあんだ、バイクで転倒したのかと思ったよ」


 パリノーは人差し指を立てて左右に振った後、僕の方に向かってしゃべった。


「いや、困った事になった。大事な荷物のリュックを洞窟に置いてきてしまった」


「命の方が大切だと思うぞ」


「……バイクのキーが入っているのだ」


「そんなもん、直結すれば何とかなるぜ」


「……自宅の鍵も入っていたのだが」


「大家さんに何とかしてもらえよ」


「……命の次に大切な私の研究資料が」


「う~~ん」


「……母の形見のネックレスが中に」


 ブリュッケちゃんが形見という言葉に反応した。


「オカダさん、ボクも少しだけ怪妖洞に入って父の痕跡や遺産を探したいんだ」


「おいおい、ブリュッケちゃんまで……」


 それを聞いたシュレムが口を開いた。


「それならば、私が一緒に行ってあげるわよ」


 ブリュッケちゃんとシュレムなら、僕の反対を押し切って本当に行ってしまいそうだ。


「分ーかった! 分かったよ。俺がエスコートするよ。スケさんは留守番を頼む、カクさんは洞窟まで付いてきて」


「よっしゃ! ちょっくら、行ってくるか」


 パリノーは嬉しそうに包帯を巻いた右足で、ひょいと立ち上がった。


「うわ! 何だ、普通に歩けるのか」


「私も当然行くよ、思ったより軽傷だったみたい」


 ブリュッケちゃんだけは満足したらすぐに引き返してもらおう。危険な洞窟内の捜索に、危なっかしい二人は本当に大丈夫なのかな。

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