ヴァラ

『まだだ、まだ一息つくな! がんばるんだ、オカダ君! もうすぐだから、ほら……シュレムも来たで―――――!!』


「き、来た~~~!!」


 シュレムは体にバスタオルを巻いてはいなかった。そう、頭にタオルを巻いているだけだった。

 かねてより切望していた入浴が実現した開放感からだろうか……むしろ堂々としていた方が露天の岩風呂を満喫するという本来の目的の理にかなっていると考えたのだろうか……とにかく頭部から下は、一糸まとわぬ姿で我々の前に降臨したのだ。

 浴室からのライトが逆光ぎみにシュレムの肉体の抑揚を舐めるように演出し、まるで後光を放つオリエンタルな女神像を連想させた。

 女神はアルカイックなスマイルをたたえながら、湯煙りのたつ岩場に恥じらうがごとく、それでいて自信に満ち溢れるような立ち居振る舞いで、静かに歩を進め……そのまま3人の間に静かに腰を並べた。

 シュレムがまず、湯船にその身を沈めた。


「いい湯ね……もう陽も落ちてきたわ」


 アディーもバスタオルを解くと、全裸となってシュレムに続いた。


「気持ちいい……生き返るようですね、シュレムさん」


「そうね……」


「さっきの話の続きですが、私はオカダさんの事が好きで、高く評価しています。あなたは彼の事をどう思っているの?」


「どうって……地球人は、いやオカダ君は、私の男に対する認識を一変させたスゴイ人だと思う。今、一番気になる存在の人……だけど、これが恋愛感情なのかどうかは……」


 おいおい、話が核心に迫ってきたぞ、盗み聞きしているようで何だか心が痛む。このまま彼女の心中を垣間見る事はできるのか……。 

 美肌効果もあるという湯にその身を委ねたまま、シュレムは裸で肩を付き合わせて会話する妹達の方を見た。


「マリオット、あなた……お腹がポッコリ出ているわよ」


「やだ! ちょっと食べすぎちゃったかな?」


 マリオットちゃんが湯船に飛び込む。膨らみかけの胸が惜しげもなく湯をかき分ける。


「ブリュッケちゃんが真っ赤だよ」


 岩盤にボ~ッと一人腰かけたままの彼女は、ビクッとなって両脚を閉じた。


「いや、ボクは大丈夫だから……」


 ブリュッケちゃんは、前かがみになって湯をすくい顔を洗うと、その場であぐらをかき、濡れた髪を左右に振って滴を飛ばした。


「同じ物を食べたのに、ブリュッケちゃんは何で細いままなの?」


「あなたみたいに不摂生じゃないからよ」


 シュレムは自分のお腹を上下に撫でた。つやつやとした光を放つ双丘が、温かな湯水の狭間で浮かぶように揺れた。


「何だとー!」


 マリオットちゃんが、両手の指をピアノを弾くように動かした後、シュレムに襲いかかる。まとめたロングヘアーが、今にもこぼれそう。


「キャーッ!」


 シュレムは隣でくつろいでいるアディーに助けを求めるのだ。はずみで頭に巻いたタオルの結びが解け、はらりと舞い湯船につかった。

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