エレクトラ
『オカダ君! 来た―――――!!』
心臓が口から飛び出しそうになる。
『先頭は、何と第二次性徴期だ―――――!』
カクさんがガン見しているのか、ブリュッケちゃんが恥ずかしそうにキョロキョロしながら浴室から露天風呂へ歩いてくるのが分かる。
手桶で下の部分を隠しはしているが、上の方が丸見えだ。遠慮がちな胸は、まるで早春に雪の下から顔を覗かせたフキノトウを思わせた。
「ブリュッケちゃん! タオル、タオルー!」
マリオットちゃんの声が聞こえる。続いてカクさんが声にならない声を上げる。
『ぐわあ! 何で二人とも隠さないんだ!」
いい意味で目を覆いたくなるような光景が、そこにはある。
この世代特有の滑らかな曲線を描く肢体は、みずみずしく渓流を跳ね回る若鮎のよう。
二人でかけ湯をした後、露天風呂の湯船につかった。少し濁りのある、絡みつくような泉質の湯をものともせず、ピンクがかったお肌は玉のように湯水を弾くのだ。
『育ち盛りですね。あれもこれも……』
「……もうやめてくれ」
『ブリュッケちゃんも意外と……マリオットちゃんに色々な面で負けていなかったので、安心しました』
目をつぶってもナノテク・コンタクトを通じて、脳に直接視覚情報が送られてくるので見えてしまう。
ああ~もう、どうすりゃいいんだ。
『オカダ君! 来た―――――!!』
ついにシュレムかアディーが、やってきたのか?
『中年の関取のようなオバ様が来た―――――!』
そちらは見なくてもいいのに。座布団を数十段積み重ねたようなオバ様のだらしない体形を、なぜかカクさんは食い入るように眺める。
「もうええっちゅうに!」
マヨネーズをかけたバター入りのアボカドをオリーブオイルで一気飲みしたような気分になった。
『油断するな―――――!! アディー来たで―――――!』
「おお!!」
やばい! バスタオルを巻いて髪をアップにしたアディーは、昔別れた彼女に死ぬほど似ていた。
布で絞ることによって余計に強調された胸の盛り上がりは、イースト菌によって発酵膨張したパン種みたい。早く解放してくれ! などと揺れ動き、もがき苦しんでいるようにも見えた。しかも濡れたバスタオルは、アディーのグラマラスな体にピッタリとくっ付き、ボディーラインを予想以上に・必要以上に、浮き立たせ・際立たせて、見る者を圧倒し、否応なくひれ伏させるのだ。
『ははぁ~~~~~!!! ありがたや!! ありがたやああぁ!』
カクさんは、ケプラー22bのよく分からない誰かに祈りを捧げた。
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