ラケシス
急いで教えられた場所に行ってみる。すると、そこには……確かにいました。想像とはだいぶ違う40代ぐらいのヒゲ面のオッサンが。
色あせた鍋みたいな赤いヘルメットをハゲ頭に被り、上は紺のスウェットのパーカー、下はグレーのスウェットパンツ、左右で色の違うサンダルをはいているが靴下には穴が開いている。
その上、残念なのは外見だけではなかった。大の大人が小学生ぐらいの子供に絡んでいる。大声で何やら言い合っている最中だったのだ。
小学生はショートヘアなので、女の子なのか男の子なのか分かりにくい。一つ言えることは、180cm以上のヒコヤンに真っ向から挑んでいる、あの可愛らしい小学生の方がすごいのではないだろうか。
「オカダ君……あれが」
「伝説のヒコヤンなんだろうな。仲間にしたくない下衆オヤジだな」
しばらく様子を見る事にした。ひょっとすると親子ゲンカなのかな?
「……ヒコヤンは、お前みたいな奴じゃない!」
「やかましい! クソガキ! 俺がB級奴隷だからって舐めていると、ぶちのめしてやるぞ!」
小学生の言葉にキレまくっているヒコヤンは暴れ牛のようだ。
「もう二度と、ヒコヤンの名をかたるな! 約束しろ! 今ここで!」
「うがぁああ! それ以上言うと、本当にどうなっても知らんぞ!」
「うるさい、約束しろー!」
「俺は伝説の
ヒコヤンは小学生の上着を掴んで、容赦なく宙吊りにする。シャツが少し破れてスポーツブラが見えた。小さくても胸があるってことは女の子だったんだ。
勇敢な女の子は泣き出すどころか、ヒコヤンの節くれ立った手に噛みついたのだ。
「痛ェェ! 何しやがる! このガキぃ!」
ヒコヤンは女の子を力任せに投げ飛ばし、金網のフェンスに叩きつけた。
「おい! カクさん、もう見てはいられないぞ! ヒコヤンを成敗だ!」
「……まあ、お待ち下せえ、ここはあっしにお任せを……」
カクさんは思いがけず落ち着いた言葉を残すと、ユラリと動作を開始した。まるで獲物を狙う野生のオオカミに見られるような滑らかで隙のない動作だ。
女の子の方は、まだギブアップしていなかった。
「……訂正しろ」
「まだ言うか!……んん?」
カクさんは銀色の毛皮を風になびかせながら、ヒコヤンの間合いまで一瞬にして到達した。それは大河の流れのように自然かつ、神秘的なまでに気配を消し去った極致の身のこなしのように思えた。
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