ヘラ

「ねえ、ねえ、私にもやらせて」


 マリオットちゃん一人に料理を任せておいては、悪いと思ったのだろうか。婦警姿のままエプロンを着けて(いいのかオイ)アディーがエビフライに挑戦する。


「いいよ~。エビの下ごしらえは済ませといたから」


 殻を剥いたり、背ワタを取ったり、意外と手間ひまがかかるものだ。


「小麦粉を付けて、とき卵にくぐらせ、パン粉をまぶして……」


 危なっかしい手つきに嫌な予感がしたが、鍋を引っ掛けて僕の足にまで高温の油を飛ばした。隣のシュレムは華麗に避けるのがすごい。


「あ、あちぃぃぃぃー!」

 

 椅子から垂直にジャンプして、転げまわるが……キャンプ地には足にかける水がない。急いで裸足になり、冷凍食品のパッケージを使って冷やしたものの、つま先が真っ赤になってしまった。


「ごめんなさい、でもちょうど看護師さんがいるわ」


「ちょっと! この旅において医薬品は貴重なのよ」


「今使わなくて、どうする……」


「それに熱傷は、私の専門分野じゃないのよ」


「何だって?」

 

 僕は怪訝そうな表情でシュレムを見る。


「今の私は眼科所属の看護師なの。白内障とか緑内障ならば知識と経験は、ばっちりよ」


 彼女は涙目になった僕の眼球を覗き込んだ。


「いいえ……自分の目は大丈夫です」


「そうよね、オカダ君はどう見ても、まだ30代前半って感じかしら。白内障はまだまだ心配しなくても大丈夫。そういえばコンタクトしてるんだっけ?」


「それよりシュレム、ヤケドの方を心配してくれよ……」


 僕はコンタクト・ドライバーだから、コンタクトレンズを装用しているのは当たり前の事だというのに。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る