テルプシコレ

 高機動車のタンクに水を入れると、自動で電気分解して水素を取り出し、発電してモーターを回す。

 水だけでOK。燃料を必要としない優れ物だ。

 食料や水を満載し、医薬品や生活必需品、武器・弾薬を合わせると結構な量になる。いよいよ未開の北方砂漠に向かう準備が整った。


「さあ、どうぞ。歓迎するよ」


 シュレムの荷物を載せたが、旅行鞄にスーツケースと結構な量だ。一体何が入っているのやら。まあ、6人ぐらいは余裕で乗れるので大丈夫なのだが。


「では、遠慮なく」


 シュレムはスカートを手で押さえて、左の助手席に座った。高機動車は運転席と助手席がとても離れているのが残念。


「……御無沙汰してます、看護師さん……」


 甘い声をしたカクさんが、シートに座ったシュレムの右耳に生温かい鼻息を吹きかけた。


「いゃああ!」


 鳥肌が立ったシュレムの右肘がカクさんの顎に入った。


「ちょっと、アンタ! 変な事したら、ただじゃ済まないから!」


「いいえ、ちょっと匂いを嗅がせてもらっただけなんです」


「それが変な事だって言うのよ」


「そんな……動物の習性ですがな」


「アンタの場合、他の何かを感じるのよ」


 シュレム、君は勘が鋭いな……。


 

 街中では噂を聞きつけた女性達が子供から大人、おばあさんに至るまで物珍しそうに手を振ってくる。

 思わず政治家のように、作り笑顔で手を振り返す。母星から到来した久々の地球人に、皆さん興味津々のようだ。


「まったく……人気者は辛いぜ」

 

 カクさんがルーフから外の様子を伺っている。


「それにしても男連中は、本当に覇気がないわね」

 

 スケさんが言う通り、奴隷の男達は道路工事の作業をしながら時折チラッと、こちらを見てくるだけだった。

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