アルクメネ

 線路を越える高架を通り、駅前ストリートを流す。太平和堂という名の4階建てスーパーは本日も元気に営業中だ。

 以前通った時、人っ子一人おらずゴーストタウンかと思ったモリヤマ銀座も今日は人通りが多いな。

 道路を走っている自動車は何だかタクシーやバスばかりで、自家用車の普及はイマイチ。自転車もしくは原付が人々の足になっているのかな。

 気さくに挨拶してくる子供達に手を振り、図書館方面へ北上してゆく。シュレムの母校、鹿命館中・高等学校の正門が……。


「ちょっと! ストップ、ストップ!」


 助手席のシュレムの大声に驚いてブレーキをかけたが、顔をステアリングにしこたまぶつけてしまった。彼女によると赤くはなっているが、鼻血は出ていないもよう。シートベルトは締めておこう。


「い、痛……」

 

 前を見ると何だか見覚えのある顔が……すぐに分かった。シュレムの妹のマリオットが諸手を広げ、道をふさいでいる。


「ちょっと、マリオット! あなた何をしているの。学校は?」

 

 シュレムが問いつめると、学生服の妹は背中の鞄を降ろして下を向いた。姫カットの黒髪ロングヘアがさらりと肩から流れる。

 学生服のサイズがあまり合っておらず、見るからにぶかぶかのようだ。姉のお下がりの鹿命館中学校の制服を大きな加工もせず、そのまま着用している物と思われる。


「私も一緒に連れて行って欲しいの……一人はイヤだ」


 我々は顔を見合わせた。


「だめよ、今から北の砂漠に行って危険な狩りをするの。本当に命がいくつあっても足りないわ」


「……何? やはりそう思ってたのか」

 

 僕は思わず苦笑した。


「いいじゃん。彼女、連れて行ってやろうぜ」

 

 カクさんが尻尾を振って無責任な発言をする。楽天主義でいいよな、お前は。

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