エコー

 ミューラー市長の視線を感じる。僕の左手にリングがはまっていないことを確認しているようだ。


「オカダ査察官……あなた、見たところ独身のようですが」


「ええ、それが何か?」

 

 僕は市長が突然、流れを飛躍したような質問をしてきたので少し動揺した。


「オーミモリヤマ市では14歳からの結婚が認められております。地球より平均寿命が短い分、早婚がケプラー流だと思って下さい」


「オイオイ、14歳だったら犯罪じゃないのか」


「それは地球での基準ですよ」


「うーん、歳の差婚はちょっと……あんまり話が合わなさそう」


「そうですか? もはや最初の移民から二世、三世以上の時代となっているので、地球オリジナルの男は大変珍しい存在……是非市内で好きになった女性を選んで子供を授けて下さい」


 スケさんとカクさんは顔を見合わせた。シュレムに訊いたのはカクさんの方。


「14歳といえば、シュレムさんの妹も……」


「そうね、マリオットとも結婚はできるけど、私が許さないよ」


 即否定されちゃった……。彼女の声を小耳に挟んだ僕は、少し落ち込んだ。いや、ダメなのは分かっていたのだが……。

 僕はミューラー市長自身が独身なのかどうか、ふと思ったが、察したように答えてくれた。


「ちなみに私は自然交配を選択せず、16歳の時にマリア婚によって女児を授かりました。ケプラー22bでは男女の産み分け法が確立されています」


「マリア婚?」


「失礼、優良精子バンクを利用した人工授精処女懐胎の事で、ここでは婚姻の一種として一般的なのです」

 

 これでやっと女性ばかりのアマゾネス社会が生まれた原因のひとつが判明したな。


「でも母親から無理に勧められたのも事実です。基本データ以外、娘の父親がどんな人かも分かりません」


「会って話をした事もなく、今生きているのか、死んでいるのかさえも分からないのでしょうね」


「ええ、おっしゃる通りです。育児や子育てをA級奴隷に任せっきりなのもどうかと思います。私は本来、人は自然であるべきだとの考えを抱いているのです」


「ほう、あなたとは話が合いそうだ」


 ミューラー市長は自然派の第一人者として人気があるらしい。奴隷の去勢を禁止したのも彼女の力だそうだ。ケプラー22bにも、まともな思考の人がいるってことだな。

 ……でも、まともって何だろう。地球で長年培われてきた常識や習慣は、人類にとって本当に幸福な事なのだろうか。

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