エルピス

 カクさんは失態をうやむやにするように市長に話しかけた。


「うーん……結果的に女主導で男を隷属させる事が社会の安定に繋がるのか。思うに土木工事などの力仕事や外敵からの防衛は、奴隷である男の役目なんだね」


「そうですとも、例えば総督府が管轄する軍隊の構成員のほとんどが男です。奴隷の中でも名誉職なので、非常に狭き門となっております。それに……」


 市長は眼鏡を外しクロスでレンズを拭いてから答えた。


「ご存知かと思われますがケプラー22bは海ばかりで、たった数十パーセントしかない陸地をめぐって人類は、土着生物と生存競争を繰り広げています」


 土着生物といえば覚えがある。あいつらか……馬鹿みたいにデカい奴ら!

 

「湖で見た巨大ザリガニやトビエビ……この惑星は甲殻類が食物連鎖のヒエラルキーの頂点に君臨しているようですね」


「その通りです。大陸から装甲殻類カルキノスを排除して、人類の領地を拡大死守することが女男の願い……ケプラー22bの歴史そのものと言えます」

 

 巨乳市長は続きの質問を待っているかのようだ。真面目な話にシュレムはちょっと退屈そう。ばれないように伸びをして、白ストッキングの長い脚を組みかえたぞ。僕は溜息混じりに言った。


「あまり人口は増えていないのでしょうか」


「統計が不十分でアテになりませんが、惑星の総人口は約800万人のまま横ばい状態です。ちなみに地球環境に適応進化してきた人類は、ケプラー22bの過酷な風土に馴染めず、オーミモリヤマ市の人々の平均寿命は50歳です」


 カクさんが驚きの声を上げた。


「たった50歳! 栄養状態も悪くなさそうだし、医療設備も整っているはずなのに短命……中世レベルじゃないのか」


 スケさんが聞き取れないような声で言った。


「男性……奴隷階級が過労死しているのよ」


 僕は腕組みして視線を天井に向けた。


「おおよそ地球人の半分程度の寿命か……」


 ある程度予想していたとはいえ結構ハードだな。



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