ヘスティア

「わははは、俺は奴隷じゃない。男を舐めるなよ! わははは……!」

 

 風に吹かれてズボンがはためく。僕は腕組みをしたまま鼻息を荒げる。

 逃げ出した多くの武装看護師達は地面に伏せたまま、その場で顔も上げず恐怖にうち震えていた。B級奴隷の男達に至っては、近くにある小川に向かって土手を転がり、全員泥まみれのずぶ濡れ状態になっているではないか。

 舞い上がる塵と埃は、抜けるような青空を曇天に導き、天空を何日も沸かし直した風呂水のように濁らせた。ガラス状の細かな破片は、恒星の光を反射するのかキラキラときらびやかな輝きを見せて美しい。 

 見よ! 文明から取り残されたアマゾネスどもよ! 我にひれ伏すがよい……。

 地獄絵図を見せつけられたシュレムはライフルを捨てた。瞬時に我々が持つ圧倒的な力を理解したかのようだ。埃まみれになった白衣と髪を正すと、座ったまま僕らを睨みつけるだけだった。


「……仕方ないとはいえ、刺激が強すぎたかもね。後のフォローが大変だわ」


 スケさんは被害状況を見て、ため息をついた。


「ぶっ壊したのは遠距離の山岳地帯の山だから、誰も死傷者はいないはずだぜ」


 計算上、最も効果的な山をカクさんが選んで破壊したのだ。ただならぬ事態に中央政府……ケプラー22b総督府の連中が必ず出てくるはず。ここからが正念場、植民惑星査察官のお仕事は、本来暴力的ではないのだ。  

 宇宙船内では塞ぎこんでいた自分だが、何だかヤル気と自信がみなぎってくるのを、ひしひしと感じる。そうだ、この星に来たのも過去の自分と決別するためだったじゃないか。

 思い出すのもはばかれる過酷な運命と記憶。


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