ベローナ

 ポン! と手の平サイズのエビが頭に乗っかった。地球のエビに姿形が似ているのでエビと言ったが、もちろんの事、それは唯のエビではない。何と背中に羽が四枚ほど生えている。体色が真っ赤なので、昔見た赤トンボのようだ。……そいつの小さなハサミが、僕の頭皮をちくちくと刺してくる。


「わわわ! 何だ、こりゃあ!」

 

 頭に乗っかった奴を地面に払い落としても、次々と群がってくる。僕の体臭はそんなに魅力的なのだろうか……勘弁してほしい! これでは切りがない。


『オカダ君、車で逃げよう! そっちに行こうか? あの女の子のスリーサイズは? 特にバスト』


 カクさんから緊急時にのみ使用を許可している脳内通話テレコミュニケーションが入った。コンタクト・ドライブシステムの一環である無線電話みたいなもんだ。少々雑音が入ったが……。

 二頭はいつの間にやら……ちゃっかり高機動車の中に避難していたのだ。


 空は蠢くトビエビの大群で漆黒に包まれると、まるで闇夜のように暗くなった。

 海洋惑星であるケプラー22bには無限とも思える広大な海が存在する。その海で繁殖した数千万匹に近いトビエビが、北から南へエサを求めて大移動しているのだ。ちょうど渡りのシーズンに出くわしてしまったのか!

 制服美少女が病院の方に逃げようとするも、何だか躊躇している。それを見た僕は、すばやく両脚から抱え上げて一緒に逃げた。


「きゃ!」


 お姫様抱っこによりスカートがめくれあがり、少しむっちりとした太ももが丸見えになった。マリオットちゃんだったかな? 恥ずかしそうに裾を必死で押さえている。するとさっきのシュレム看護師が追いかけてきて、右頬にきついビンタを食らった。


「男が気安く女に触れるな。妹を今すぐに放せ!」

 

 僕は訳も分からず、ほっぺを押さえてキョトンとするしかなかった。マリオットはシュレムと手をつないで、再び病院玄関に向かって全速力で走り出したのだ。あたふたしていたのでトビエビの大群が容赦なく三人に襲いかかって来た。洗濯バサミで全身をつままれるような激痛に思わず悲鳴を上げる。


「ぎえぇ! イテテ……助けてくれ!」


 シュレムは僕に群がったエビを叩き落として、腕を引っ張ってくれた。


「ぐずぐずせずに早く院内に入るのよ! さっさと走って」

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