エウテルペ
シュレムさんと思われる白衣の天使が、デカいライフルを構えたまま、意外と大きな声で語りかけてきた。
「……ちょっと、アンタはどこの家の奴隷なのよ?」
「はぁ? 何だって?」
彼女が発する言葉の意味が分からず、僕は返答できずに立ち尽くしてしまった。
「ごめんね……」
マリオットと呼ばれた制服美少女は、銃声にしばらく耳を塞いでいたが、僕の目の前から後ずさりを始めて病院の入口の方に向かうようだ。
旧式の実弾兵器は僻地においてまだまだ有効とは聞いていたが、確かに丸腰ではホールドアップするしかない。手持ちの武器は、うっかり高機動車に置いてきてしまったのだ。スケさんとカクさんは、車まで取りに行ってくれたのかな? 肝心な時に、すぐいなくなりやがる。
「何なの、その見慣れない服は? いや、そんなことよりも早く地下に逃げなさい! トビエビの大群が、もうすぐやって来るよ!」
彼女が謎の単語を連発しているうちに、空がだんだんと薄暗くなってきた。さっきまで澄みわたるような晴れの天気で、空には雲一つなかったのに。
どこからともなく背筋が凍るような不気味な羽音が聞こえてくる。大規模な砂嵐を連想させたが何だか違う。明らかに闇を構成するマスが違いすぎるのを瞬時に理解した。
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