第7章 装甲殻類、現る
ミネルヴァ
第七章
僕とシュレム、妹のマリオット、アディーの四人と二頭を乗せたスタリオン高機動車は、オーミモリヤマ市の最終防衛ゲートを超えてしまった。ビワ湖に向けて突っ走り、どんどん荒れ地を進む。
ここからは何が起こっても不思議じゃない……魑魅魍魎が跳梁跋扈する超危険地帯だ。
はるか彼方に湖の水平線らしきものが見えてきた。まずは我々がベンチャースター号で降り立った記念すべき地を目指すのだ。
運転する僕の左隣にはシュレム、後席にはアディー、シュレムのすぐ後ろにはマリオットちゃん、最後列にはスケさんとカクさんが座っている。
カクさんは女の子で一杯になった世界が、よほど嬉しかったのだろうか、車内を行ったり来たりして跳び回り、天井に頭をぶつけた。運転の邪魔じゃないか!
「看護師に婦人警察官にオマケの中学生、さらにオオカミとジャガーと一緒の旅なんてハチャメチャでシュールだな」
何気なくしゃべった言葉に中学生は反応した。
「私はオマケじゃないわ~! 成人女性に失礼よ」
「え、マリオットが成人女性?」
我々査察団は自分の耳を疑った。
「オーミモリヤマ市では14歳で成人と認められるのよ。マリオットは特別幼く見えるから仕方ないわね」
「お姉ちゃんまで、ひどい! 14を超えたら子供扱いしないで」
「先月の成人式の晴れ着は素晴らしかったわね。死んだ母さんに見せてやりたかったわ」
二人は目を伏せてしんみりとした。アディーもちょっと涙目。
そういえばケプラー22bは地球と公転周期が違うから、カレンダーはどうなっているのだろう。時計は地球とほぼ同じなのだが……そんな事はどうでもいいのか。
『オカダ君、楽しいドライブにしようぜ……』
いつの間にか傍に来ていたカクさんが小声で耳打ちした。また何を考えているのだ……イヤな予感がする。
『名付けて、北風と太陽作戦』
カクさんは尻尾を使ってワザと、カップホルダーのミネラルウォーターをコンソールにこぼした。
「えらいこっちゃ~! エアコンが壊れたで!」
突如、後席に暖房の風が吹き荒れた。もちろんカクさんの密かな操作。
スケさんが急いで窓を開けようとする。
「やめときなさい! 窓から何が飛び込んでくるか分からないわ」
アディーによると、この辺りにはメガネウラという巨大トンボがいるらしい。
車内温度がみるみる急上昇してきた。
「暑いよ~! やっぱり夏服に着替える」
マリオットちゃんは鞄を引き寄せると、その場で上着を脱ぎ半袖に着替えた。ルームミラー越しで、よく見えなかったが、危うく溝にハマりそうになる。
「私もちょっと失礼して……」
何とアディーまでネクタイのないブルーの半袖制服に着替えるのだった。シックな黒のブラジャーが垣間見えた。
「……オカダ君、何見てるのよ」
しまった! 助手席のシュレムさんの冷たい視線が、ダーツのように突き刺さる。
「愚か者め、しくじったな!」
カクさんはアディーの隣に居座り、余裕で観賞を続けていたのだった。
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