第5章 デュアン総督
エラト
第五章 デュアン総督
最初の異変に気付いたのはカクさんだった。
「む! 何だかおかしいぜ、オカダ君……」
耳をピンと立てて牙をむき、全身の毛を逆立てる。スケさんも呼応するように周囲の状況を把握し、険しい顔つきになってきた。
市長との会談が終りを告げようとしていた時、外が急に騒がしくなるのを感じる。地響きめいた足音と罵声のような声があちこちで沸き起こり、市役所は大勢の何者かによって包囲されつつあるようだ。
「何だ? 何が始まったのですか、市長!」
「さあ、私にもちょっと分からないわ……」
市長が焦ってロビーの警備部に電話する。今時有線式かよ……。すでに階段を駆け登ってくる者がいる。けたたましい靴音からして一人や二人ではない。明らかに集団が二階の市長室めがけて押し寄せてくるのだ。
窓の外を確認すると、どこからか奇妙な格好をした男達が続々と集合し、市役所前の広場をどんどん埋め尽くしてゆく。いつの間に奴らは、雲霞のごとく湧いて出てきたんだ?
B級奴隷のようだが、カニの甲羅を加工した黒いヘルメットを被っている。肩口や胴周り、肘、膝に鎧めいた防具を装着しているが、多分カニの甲羅を削り出した物。戦闘員のようだが、幸いにも武器は槍や棍棒、日本刀など前時代的で、自動小銃はおろか拳銃さえ所持していない。
はは~ん……女性に対して反乱を起こさないように、飛び道具は制限されているな。銃を装備できるのは女だけとみた!
市長室のドアに鍵をかけ、机やソファなどを積み上げてバリケードを作るが、時間稼ぎにしかならない。いきなり棍棒によってドアノブは破壊された。斧やハンマーで薄い鋼板製の扉が、どかどかと表から凹まされてゆく。
「いやああ!」
ミューラー市長は耐えがたい音に怯えて、部屋の奥の方に敷いてある絨毯に座りこんでしまった。警備部とは当然、繋がらなかったのだ。
「おい、ミューラー市長! 武器はないのか? ショットガンか何か!」
「そんな物騒な物をエレガントな私の部屋に置くはずがないじゃない!」
さすがに市役所にはないか……僕はネクタイを緩め、辺りを見回した。
シュレムは、どこからかゴルフクラブを見付け出してきて、両手で握って構えている。白衣の天使は野郎共と戦う気だ! ますます気に入ったぜ!
スケさんとカクさんは唸り声を上げ、今にも決壊しそうなドアに向かって咆哮するのだった。
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