花結ひ
さいふぁ
椿の誓約
序
一
風に紛れて、花の香りが届く。
甘やかな香りの中に混じるのは、遠くの喧噪とほのかな温もり、そして血の臭いだ。
消し去ったはずの記憶を彷彿とさせるそれに、少女は瞳を伏せた。色を失った唇で母様と囁き、身体を縮こまらせる。
あの日から、十年が経っている。
十年も、経ったのに。
力の入らない四肢も、凍りついたように声が出ない喉も、全てすべて変わらない。
ふと匂った残り香ごと、少女は己の身体を抱きしめた。
早く、早く過ぎてしまえ。
呪わしい夜よ、心に爪を立てる闇よ、去ってしまえ。
そして、願わくば。
「――様」
自分を惹きつけてやまないあの人を連れてきて。
頼れと叱った、あの人を連れてきて。
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