第7話 妖狐と朝ご飯。
結局、パンツだけ新しいものを穿き、誰ともすれ違わないことを天に願いながら二階の自室へ駆け込んだ。
せっかくシャワーを浴びたのに汗臭い服は着たくなかった。
「腹減ったし、朝飯喰うかな」
無事に新しい部屋着に着替えてまたリビングに入ると、リビングと繋がっている台所で都子と母さんが仲良く料理を作っていた。
「あ! 祐、朝ごはん食べるでしょ?」
「う、うん。お腹すいちゃってさ」
さっきのドキドキはだいぶ収まってきたけど、少し言葉に詰まってしまう。
「祐。都子ちゃん、料理上手いのよ。お母さんより上手いかも」
「お義母さん、それは言いすぎですよー」
二人は随分とすぐに仲良くなったものだなぁ……。
「とりあえず、すぐ準備するから座って待っててね!」
都子に促されて食卓に着く。
魚を焼く匂いと味噌汁の匂いがする。パンでも焼いて食べようと思っていただけに、嬉しい誤算だ。
久々の素振りと食欲を誘う匂いに猛烈な空腹感が起きる。
「はーい、お待たせ!」
そう言いながらお盆を持った都子がやって来る。
お盆から俺の前に置かれたのは、白いご飯にお味噌汁、焼き鮭、青のり卵焼き――どれも白い湯気が立っていて見ているだけでもヨダレが出る。
「おぉ……すげぇ!」
早速、食べようと箸を持つ。
「いただきます!」
「はい、どーぞ!」
青のり卵焼きに箸で切り、白いご飯と一緒に食べる。
――うわっ、凄くフワフワしているぞ、この卵焼き!
思わずこの料理を作った本人であろう都子を見る。
向こうも俺を見ていたようで、視線が合うとフワッと微笑む。
「どう? 美味しい?」
「めっちゃ美味しいよ! ビックリした。凄くフワフワだし、出しの味も好みだよ!」
「そっかぁ、祐にそう言ってもらえて良かったよー」
そう言って少し肩の力を抜いたようだ。
「ん。こんなに上手く作れるのに緊張するもんなの?」
「それはするよー。祐の好みの味じゃなかったらどーしようとかさぁ……」
「そんな心配しなくても良いと思うんだけどなぁ」
そう言って、二口目の青のり卵焼きを口に運ぶ。うん、やっぱり上手い!
気が付くとあっという間に食べ終わっていた。
「ふぅ……ご馳走様でした。本当に美味しかったよ」
「ふふふ、それなら良かった」
「そういえば、都子は食べないの?」
「私? 私はもう食べ終わってるからね」
もう朝飯を食べ終わってるって……。一体、何時ごろに起きているのだろうか?
そんなことをぼんやりと考えていると、親父が起きてきて朝飯を食べていた。こちらは母さん作である。
都子と母さんは二人並んで食器の後片付けをしていた。見るからに母さんの機嫌が良いのは、都子が手伝っているからだろう。手伝いのしない息子で申し訳ない。
それに都子も楽しそうで、二人は話しながら時折クスクスと笑っている。
都子の笑う横顔をお茶を飲みながらボーっと見ながらも、美少女がウチの台所で洗い物してる光景が現実のものだとは思えない。
むず痒い感覚、といえば良いのだろうか? あまり見すぎても失礼だろう。
「俺は部屋に戻るよ」
部屋の中にいる三人に声を掛けて、俺は部屋に戻った。
部屋に戻ってから、竹刀をバラしてメンテナンスをしたんだが……そんなに時間のかかる作業でもないのですぐに暇になってしまった。
時刻はまだ九時を少し過ぎた頃。さて、どうしようかなぁ……。
手持ち無沙汰となり、呼び鈴の音にハッとする。ウトウトしていたみたいだ。久々に素振りをして疲れていたのかな?
母さんの声が聴こえた後、階段を上ってくる足音――が、部屋の前で止まる。
「祐くん? 入って大丈夫?」
この声は……冬花?
「あれ、冬花? 良いよ」
開いたドアから顔を覗かせたのはやはり、冬花であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます